憧憬
冬の寒さが厳しくなり、北風が肌に突き刺さる1月。
今年はやけに寒さが身に沁みると思いながら、自動販売機のコーヒを両手で包み込み、ふぅっと息をつく。
何の他愛のない一日。ふと君を思い出した。
人生において一番好きだった女性だ。
そういえば彼女と出会ったのは、こんな寒い冬の日だったなぁ。
僕は職場からの帰路の途中であり、ブルートゥースのイヤホンからは季節外れの「さくら(独唱)」が流れていた。
しかしながら、普段であれば内心「季節外れだろう」とツッコミを入れながら他の曲を選択する僕でしたが、もう何年も前のことなのにいつ迄も輝かしいそれが頭の中を占有してしまい曲をスキップする脳がなかったのです。
少しばかり思い出話に耽けさせていただきたい。
遠い昔。大学2年の時分。あの頃は自分で言うのも憚れるほど、遊んでいました。お酒に女性関係。今思えばだらしない生活を送っていたと思います。
別段顔がかっこいいわけでも無かったのですが、そういった相手に困ることはなかったし、お酒は毎晩とまでいかずとも相当な頻度で飲んでいました。
そんな中、その日もお酒を友人と飲みに行ったときでした。
友人は女性でしたが、純粋に友人関係でして不順なことは何一つない間柄でした。彼女のことは便宜上「K子」としましょう。
その日はK子のバイト先に飲みに行っていたのですが、僕ら含めてお客の数は7、8人ほどだったでしょうか。平日ということもあり、少なかった印象です。
僕らは将来の話や、恋愛話、大学の愚痴を言ったりして、楽しい時間を過ごしていましたが、K子がお手洗いに向かってから中々帰ってこなかったので、少し心配になり声をかけようと思い、便所へ向かいました。
が、便所の比較的近くの卓にK子は立っており、どうやらその卓のお客さんと話しているようでした。
僕が近づくとK子はおもむろに僕の紹介をしました。
「こちら私の大学の友達のケビン(仮)です」
「よろしく、ケビンです」
僕もすぐに挨拶をして、卓に座る三人の女性。
どうやらそのうちの一人が、K子のバイト先の友人で、学校の友人と一緒にお酒を飲みに来たそうだ。
H美、S奈、そしてF香である。
このF香が、僕の人生史上一番好きになった人だ。
正直、一目惚れだった。
このあとのエピソードは正直聞く人によっては蛇足だし、割愛させていただくが、どこかで執筆することもあるかも入れない。なお、疚しいことは何一つ無かった。マジで。
なにはともあれ、皆さんの予想通り恋愛は成就せず長い片思いに一応の区切りがついたのは3年生の夏。
しかしながら、今でも彼女のことを思い出すし、踏ん切りがついたかと聞かれたら、傷は癒えたのだが、傷跡になって、痼になって…といった具合である。
連絡も取れないし、連絡先も今は知らない。
ただ今でも、ふとした時に。
こんな寒い冬の日に彼女との邂逅と、思い出に浸って
人知れずため息をつくケビンなのでした。
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