オナホールを買ったら人生変わった件について5 ※小説

【オナホールを買ったら人生変わった件について】


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1話<https://note.com/ketsuago3sei/n/n5275b1291fe3


2話<https://note.com/ketsuago3sei/n/n78f7967f96bd


3話<https://note.com/ketsuago3sei/n/n909775ccec1b

4話<https://note.com/ketsuago3sei/n/n5ef094b3880c

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『何も意味がない世界で その4』

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覚悟してたつもりだった。
本当は無理だとわかっているはずなのに、人は何故か「こうありたい」と理想追い求める。けど、現実はいつだって無情だ。起こりうる全てを想定し事前に腹をくくることで最悪な状況に直面しても耐えられると思っていたが、その考えは浅はかだった。
コントロールしようと思えば、逆に制御できなくなる。
それが人間だ。
別によこしまな気持ちがあるわけではない。ただただ気まずいだけ。___本当にそうか?
心の中に「邪」があるかと問われたら、答えはYesだ。ここでNoとか答えるやつがいたらそいつは男じゃない。
考えても見てくれ。
女子高校生におんぶされて「Hな気分になったりしません!」ていうやつがおるか? いないだろ。
ラッキースケベとはまさにこのことだ。
たとえ何かの拍子で、お息子さんがお元気になったとしても何等なんらおかしくない。
僕の息子はなんとか平静を保っているが、何かの拍子で元気100倍になってもおかしくない状態だった。
彼女の家はここからそう遠くないはずなんだけど、まだまだ着く気配はない。
いったい、あと何分間この状態でいなければならないのだろう。
1秒1秒がものすごく長く感じる。

___うっ...
右から左に強い風が吹いた。
亜香里のツインテールが左右に揺れる。すると彼女の髪から女性特有の甘い香りがした。シャンプーの匂いだとわかっていても、気を動転させるのには充分だった。今まで意識していなかったこと、意識しないようにしていたことが頭を擡げた。密着している彼女の背中から確かな温もりが伝わってくる。それに僕の太ももを抱える手の動きが、なんかこう......いやらしく感じてしまう。このままだと頭がパンクしてしまいそうだった。

___昔は平気だったのにな...
幼稚園生の頃はいつものようにベタベタくっついてたから、こういうことに対して何も感じるものがなかった。それどころか一緒にお風呂に入ったこともある。だが小学5年生辺りからそういったことがパタリと無くなった。亜香里の事を異性として見始めたのもこの頃だった気がする。彼女と日直になった日、ヒエラルキーの上位層に位置する男子から「お前たちいっつも一緒にいるじゃん。付き合ってんじゃね!?」とクラスのみんなの前でからかわれたことがあった。
「ち、違っ...! こいつとは付き合ってなんかいない!」
この時の僕は誰が見たって明らかに動揺していた。その後、先生がすぐ止めに入ったから良かったが、あのままだったら僕はとてもじゃないが耐えられなかった。亜香里のことを意識していないと言いつつも、どこかで気になっていたところがあった。それもそうだ。だって、こんなに素敵な人が身近にいて、気にならない方がおかしい。自分の気持ちに気づくと、亜香里はどう思っているのか知りたくなった。
先生が男子生徒を注意している間、亜香里の方に視線を向けると...
彼女は顔を赤くして、今にも泣きそうになっていた。
僕には、なぜ彼女がそんな表情をしているのかわからなかった。
それからというもの互いに距離を取るようになって、以前みたいに一緒にいることはなくなった。全く合わないわけじゃない。機会が減った、その程度だ。

そんなわけで、あれからおそらく5年ほど年月が経っているわけだが、幼馴染みと言えど、やはり体と体を密着させるのには抵抗があった。
果たして、亜香里はこの状況に対してどう感じているんだろうか。
この角度からは表情を窺うことはできない。

「おんぶしよっか?」

彼女がそう提案したのだから、嫌々やっていることはない......そう思いたかった。


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___ことは数分前。

「亜香里こそ...なんでここにいるんだ」

目の前にはジャージ姿の亜香里が立っている。多少息遣いが荒い様子を見ると、どうやら彼女はランニングをしていたらしい。ランニング用の道具かわからないが、小さいライトのようなものが腰の位置に固定されていた。その明かりをつけながら走っていたのだろうか。

それにしても、彼女の気配もまるで感じることができなかった。突然現れるもんだから心臓への負担がすごい。しかし今回は、何台か車が彼女の後方を通りすぎるのを見て「なるほど」と思った。

亜香里は長く伸びたツインテールを片手でかき上げて言った。

「ここで何か光ってるのが見えてね」

「...あぁ、これのことか」

右手に持っていたスマホを亜香里に見せる。
確かに僕は先ほど、例の少女が追ってきていないか確認するためスマホのライトをつけた。___とすると亜香里はランニングしていたところ何か光っているのを見つけ、気になってここまで来たわけか。

亜香里はスマホを取り出してライトをつけ、その光を森の方へと向けた。

「さっき、こっちの方を照らしてたよね......これでなにか見えたわけ?」

「え? あ、いや」

話をしようか迷った。
亜香里のことだから、話を聞くや否やこのまま真っすぐ森の方へ向かって行くと思う。あの少女が潜む森の中へ。...それはだめだ。彼女を危険な目に遭わせちゃいけない。

___だが、果たして本当にそうなのだろうか。
あの少女は、十中八九美咲を殺した犯人もしくはその事件に関わっている人物だと思う。そうでないにしても、メールに『ヒント』と書かれてあってその場所にいたんだから、何かしらあるんじゃないかと踏んでいる。
だけどもし予想が外れていたら?
美咲とは全く関係のないただの少女。たまたまあそこを通りかかっただけ。
だとしたら、この暗い中あの森に居続けるのは危険だ。ついこの間、熊の目撃情報があったと耳にしたことがある。もし熊と遭遇なんてしてしまったら...。そう考えると少女のことが心配にもなった。今からでも亜香里と二人で引き返したほうがいいのかもしれない。

いったい何が正解で何が間違いなのかわからくなった。
いくら考えたって答えは出ない。いっそこれまでの出来事をすべて、彼女に話してしまおうか。そうすれば第三者の意見を聞くことだってできる。けど......


___見つけた


思い出すだけでも寒気がする。

馬鹿野郎。
甘い考えは捨てろ。
安直な選択をしちゃいけない。
わざわざ知り合いをこっちに引っ張ってまで事件の真相を知りたいとは思わない。
これ以上僕の周りで誰もいなくなって欲しくなかった。

自分の中で結論が出ると同時に、亜香里が首を傾げながら頭上にクエッションマークを浮かべた。

「...急に黙っちゃって、どうしたのよ」

「ん、あぁ...」
そうだな。あの事は秘密にしておくべきだ。わざわざ危険を冒す必要はない。
「『何が見えたか』だっけ? いいや、気のせいだったみたいで特に何もなかったよ」

亜香里は「ふーん」と鼻を鳴らして、もう一度森の方をちらっと見た。
僕もそれにつられて後方を確認するが、やはりそこには誰もいない。もう少女は追って来ないと思ってもいいのかもしれない。

すると亜香里は視線を再び僕の方に戻してボソッと言った。

「ランニング...してたんだ?」

その言葉の裏に隠された意味を理解するのに数秒かかった。

___あ、やば...
僕は今これでもかというほど大量の汗をかいている。シャツもびしょ濡れで、いかにもランニングしていましたという格好だ。傍から見れば健康意識の高い青少年の様に写っているだろう。
しかし、僕は4日前から学校を休んでいる。その理由も、風邪を引いたという事で学校に話を通していた。もちろん目の前に立っている亜香里もそのことについて知っている。そして今日もまた学校を欠席した。その事実を知ったうえで僕の姿を見ればただの非行少年だ。

「ま、まあね...風邪も治ったし、ちょっと運動しようかなって...」

亜香里は目を細めながら「へぇ~~~」と相槌をうつ。
「それで、よく走れた?」

背中を冷たい汗が伝うのを感じた。ただの汗かもしれないが。

「あ、いやぁ~...それが全く......まだ風邪が治ってないのかな? あはは...」

「あらそう、良かったね。学校サボッてランニングできて」

「へっ? いやいやいや、べべ、べつにサボッたわけじゃ...ほんとに風邪だっだんだじょ!?」

盛大に噛んでしまった。

亜香里は陸上部に所属していると同時に生徒会のメンバーでもある。生徒が悪さをしたら注意しなければならない。だから僕は今から怒られるのかと思った。

「......ぷっ」

亜香里の身体がプルプルと震えだした。

「え...?」

「くッ...アハハハッ!」
亜香里は声を大にして笑った。
「フフッ...あ、あんたが焦ってる顔、久しぶりに見た気がする」

何度か笑いを堪えようとしていたが、思い出すたびに吹き出している。そんなに僕の顔がおもしろかったのだろうか。

「はぁーーっ......ふふっ...変わらないな~あんたは。昔から嘘つくのが下手だよね」

「...自覚はないけど、美咲にもよく言われるよ」

亜香里はようやく落ち着いてきたらしく、「コホン」と1つ咳払いした。

「そういうとこ、気を付けた方がいいよ。特に明日とか」

「...なんで明日?」

「明日はちゃんと学校来るんでしょ?」

もともと今日から行くつもりだった。寝坊さえしなければ以前のように登校していただろう。

「ん...まぁ」

亜香里は笑顔を浮かべながらこう言った。
「みんなにばれないように頑張ってね」

「あー...うん。...て、違っ、僕は別にさぼってたわけじゃ!」

「でも、風邪っていうの嘘でしょ?」
亜香里は腰を下ろして頬杖をつき、目線を僕に合わせた。
「だよね?」

口答えするのもあほらしくなって素直に頷いて見せる。
すると亜香里はにっこりした。
「ま、なにがあってサボッてたのか知らないけど...」
よいしょ、と言って立ち上がり、大きく背伸びをして見せた。
「学校が嫌だとか...そういう事じゃないんだよね?」
そう僕に問いかける。

「そんなわけない! 学校は楽しいよ...でも」

美咲の姿が脳裏をかすめた。

「でも?」

亜香里が続きを急かしてきたが、僕は何も答えることができなかった。
美咲のことを思い出すと胸が熱くなる。少しでも気を抜いたら涙が溢れてしまいそうだった。ここ数日学校を休んでたのも、こうやって人と接することで人の温かさに触れてしまうと我慢できなくなると思ったからだ。『いつも通りの日常に美咲だけがいない』そんな現実を受け入れることができなかった。認めたくなかった。それでも認めるためには何日か時間が必要だった。
だけど彼女が幽霊となって現れてくれたことは、絶望の中にいた僕にとって唯一の救いだったりする。ほんとはまだ生きているんじゃないかと淡い期待にすがることもできた。メールに書かれてあった『ヒント』も、もしかしたら美咲が生きていることを証明してくれるのではないかと心の奥底では思っていたのかもしれない。そう、僕は今、現実から目を逸らしているだけなのだ。
自分の弱さに腹が立った。

「ごめん...何でもない......」

亜香里は何かを察っしたのか、それ以上訊いてくることはなかった。
「...うん、まあ、ここにいてもあれだしさ。ほら、あんたもいつまでもそこに座ってないで早く帰ろう?」
そう言って僕に手を指し出した。

「...悪いな」
僕はその手につかまって起き上がろうとした。だが、太ももに激痛が走ったせいで上手く立ち上がることができず、膝から地面に崩れてしまった。

「えっ、大丈夫?」
亜香里が心配そうに聞いてくる。

「あはは...筋肉痛でちょっと」
自力で立ち上がるまではできたが、歩くたびに足全体が痛くなった。

「歩けそう?」
そう言って亜香里は僕の肩に手を置いた。先ほど僕に対して「変わらないな」と言っていたけど、彼女もまた世話焼きなところは昔から変わらなかった。

「うん、大丈夫だよこれくらい」
足をプルプルと震わせながら見栄を張って見せた。
実際、数メートル歩くのにも苦労しそうだったが、亜香里の前では弱い所を見せたくなかった。
今思うとこの嘘もまた、彼女には筒抜けだったのかもしれない。

「...」

数秒の間眉間にしわを寄せていた亜香里は、ひと呼吸してからこう口にした。

「...おんぶしよっか?」


――――――――――――――――――――――――


「...」

「...」

沈黙が何とも息苦しい。
そんな中、亜香里はずっと僕を背中に抱えてくれていた。
もちろん初めは断ったのだが、こういう時の亜香里はうるさく、僕はただ従うことしかできなかった。
どうやら彼女の家まで連れてってくれるらしい。しかし亜香里の方こそ身体は大丈夫なのだろうか。
彼女は陸上部に所属しているものだから、僕みたいなヒョロヒョロな男など軽々持ち上げられると思っていた。だがそう簡単にはいかないみたいだ。ランニングで疲れが溜まっていたのかもしれない。亜香里がどれほど疲弊しているかその様子から感じ取ることができた。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

「...なあ、亜香里」

「な、なによ」

「僕重くない?」

「別に...あんたが気にするほどでもないわ」

「そう...ならいいんだけど」

「...」

「...」

話題が無くなると途端に静かになった。
何かしゃべろうと話のネタを探してみるが、特にこれといったことが見つからない。久しぶりに、こう2人っきりになったわけだからもっと会話が弾むと思っていた。
状況が状況なだけに話すことができないのかもしれない。
第三者が僕たち二人の状況を見たら誰だって不審に思うだろう。逆ならまだありえなくもないが、男が後ろなのはどこか犯罪めいたものを感じさせる。
今のところ歩行者には出くわしていないが、何台かの車が僕たちの横を通過していった。

「ちょっと!? あんまり動かないで! バランス崩れるでしょ」

「でもこれ...恥ずかしすぎるよ......」

「私が一番恥ずかしいってことわかってる!?」

亜香里は声を荒げてそう言った。

「じゃあなんで『おんぶしよっか?』なんて言ったんだ」と思ったが口にはしなかった。
しかしながら亜香里は本当に他人思いで優しい奴だ。普通、女子がおんぶしてくれることがあるのだろうか。周りが困っていれば嫌な顔せず手を差し伸べる。『忘己利他』という言葉は彼女のためにあるんじゃないかと思う。まるでヒーローのよう。僕は今日だけじゃなく、これまでも散々彼女に助けられてきた。感謝してもしきれない。

それから数分して、やっと見覚えのある場所までやってきた。今はまだ見えないが、そろそろ亜香里の家にも着くはずだ。景色が移り変わるように民家の数が段々と増えてきて、オレンジ色の光があちこちに散らばって見えた。

「綺麗だね」

亜香里は抑揚のない声で言った。

「うん」

僕はそう返して、目の前の景色をぼんやりと眺めた。
そしてつい思っていたことを口にした。

「......ありがとな、亜香里」

すると彼女は少し間を置いてから

「......どういたしまして」

と小さな声で呟いた。

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