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宇津井の鬱ブログ 2週目

△注意△ 

※およそ「5分ほど」で読むことができます。

これは、「闇金 ウシジマくん」に登場する宇津井優一という人物に影響されて書き始めた日記のようなものです。ここ数日で身に起こった出来事や実体験を、その当時の気持ちを思い出しながら描かせていただきました。予めご理解のほど宜しくお願いします。


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鼻水が止まらない。

気づけば、机の上に大量のティッシュが散らばっている。

この季節は花粉が蔓延するせいで、普段よりも生活しづらい状況だ。

だけど、今年はいつもと違うらしい。

テレビでは、毎日のように新型ウイルスの話で持ち切りになっている。

感染者が何人になったとか、○○県で新たに感染者が現れただとか――

いいかげん、うんざりする。

フリーターもどきの私からしたら全く関係のない話だ。それに、周りに感染している人がいないからあまり実感がわかない。今日の花粉がどれくらいなのか、そっちの方がはるかに重要だ。

さて、今日は何するか......

頭に浮かぶのはパチンコのことばかり。

どうせ負ける、と頭ではわかっていても、9時半を過ぎるころには財布を握りしめて出かける準備をしている。

もうパチンコはやらない。

何度その言葉を自分に言い聞かせたかわからない。けれど、北〇無双で大負けしたあの日から今日で7日目。つまりパチンコをやめて一週間が過ぎた。

ふと、窓から外の景色を見る。

雲ひとつない空。

どこまでも続く青。

ここ何日かくもりが続いていたせいか、ちょっぴり得をした気分になる。

そうだ、久しぶりに散歩でもしよう。

パチンコをやめてからというものの時間は大量に余っていたが、空いた時間をつぶせるような夢中になれる趣味がなかった。昔はゲームが大好きだった。でもこの年になるとゲームを起動するだけでも一苦労かかる。

てきとーに選んだ靴を履いて外に出る。もちろんマスクを忘れちゃいけない。ああは言ったけど、マスク無しで外に出かけるのは少し不安だ。

寒っ......。

朝の天気予報では、本日の平均気温は10℃を下回ると言っていた。ポケットに手を突っ込んでも、指先が冷えて痛んだ。

やっぱやめようかな......。

家に戻りたい衝動を抑えながら、階段を下りて町中に出る。平日の昼間ってこともあって人通りはやや少なかった。いや、もしかしたらコロナの影響かもしれない。さすが騒がれているだけのことはあるな。

信号機が青になるのを待ちながら、そんなたわいもないことを考えていた。

誰もいない静かな町並みの中を歩く。

都会と田舎の中間くらいにあるこの町では、少し歩くだけでもたくさんの自然と触れ合うことができる。普段こうやって自然を眺める機会がなかったせいか、なんだか新鮮さを感じた。正直言って、心地よかった。


だけど――


車道に1人のおじさんが寝っ転がっている。

一瞬でムードが台無しになった。

こんな真昼間から酔いつぶれているのかよ......。

できるだけ目線を合わせないようにしてその場を通り過ぎる。

・・・・・・

・・・・・・

振り返る。

やはりそこに、おじさんはいる。

あのまま、あそこで寝っ転がってたら危ないんじゃないか?

ああいう人とはあまり関わりたくない。だけどこのまま無視してしまうのも、いかがなものかと思った。

周りには通行人が2人ほどいたが、おじさんの方をチラっと見ては、そのままスーッと通り過ぎていく。

「傍観者効果」と言われる現象がある。

周囲に人がいると、人は援助行動ができなくなるらしい。

初めてその言葉を知ったときは、「なんだ、言い訳か」と思った。自己を正当化して周りに罪をなすりつけるような、気持ち悪くて浅ましい考え方だな、と。

そしていま私はそれをしようとしている。

急に恥ずかしさが込み上げた。

私自身がとてつもなく小さくて醜い生き物のように感じた。自分のことは棚に上げて、人のことをああだこうだ言う人間なんて死ねばいいと思っていたが、まさか自分がそういう人間だとは思いもしなかった。

重い足を一歩前へと動かす。

おじさんに近づく。

「あ、あの~大丈夫ですか?」

返事はなかった。

「・・・そこにいると危ないですよ?」

「・・・・・・あぁ~?」

私は自分の目を疑った。

おじさんの口から真っ赤な液体がこぼれていた。

奇麗な赤色だった。

少しして、ようやく理解が追い付く。

「ちょッ......! 大丈夫ですか!?」

横になっていたおじさんは、おぼつかない足取りで立ち上がり、「大丈夫ぶだあ」と言った。

「いやいや、大丈夫じゃないでしょ」と、ツッコむことができなかった。そんな余裕がなかった。頭が上手く回らなかった。

すると――

「大丈夫ですか??」

そう言って、一人の女性がこちらに近寄ってきた。彼女は、素晴らしいの一言に尽きる程の対応力を見せつけた。

おじさんの身体を支えながら、何があったのか事情を聴きだし、「119に電話して」と私に指示を仰いだ。

私は言われたとおりに「119」とダイヤルを入力する。たった3つの文字で電話なんかできるのか不安だったが、1秒も待たずに相手とつながった。

「こちら――(向こうが何を言っていたかもう覚えていないです。)」

「あ......えっと......」

そのあとは、けが人の容体、事件性の有無、事故が起きた場所について、トントン拍子に質問された。そしてすぐに駆けつけるとの言葉を最後に通話は途切れた。

救急車が来るまでの間、おじさんの意識を保たせるためなのか、女性の方はずっとおじさんと会話をしていた。私もできる限りのことはしようと思い、おじさんを片腕で支えながら、血で汚れている口の周りをタオルで拭いてあげた。タオルから錆びた鉄のような臭いがした。

それから1分も待たずに救急車が到着した。救急隊の迅速な行動によって、瞬く間におじさんはどこかの病院へと運ばれていった。あっという間の出来事だった。

すべてが終わったのち女性の方から話を聞いてみると、どうやらおじさんは酒で酔っぱらっていたところを車で轢かれたらしく、その車は一目散に逃げてしまったという。つまり、おじさんは轢き逃げの被害者だったわけだ。

救急車が走っていった方向を見る。その姿はもう見えない。

おじさんは大丈夫なのだろうか。

未だに現実感が得られないまま、私は自宅へと引き返した。

家に着いてからも、頭の中はおじさんのことでいっぱいだった。

あの血の臭いがどうしても忘れられない。お風呂で身体をよく洗っても、鼻の奥底から血の臭いが蘇ってくる。気が滅入ってしまいそうだった。

それから数日が経った。

私はあることを確認するため、再び事故が起こった場所へと足を運んだ。

言い方は悪いが、もしおじさんが亡くなっていた場合、交通事故の看板が近くに立てられているはずだ。

肌寒い空気の中、私はおじさんが倒れていた場所の周辺をあちこちと見て回った。どこにもそれらしいものは無かった。

よかった......。

無事だったんだ......。


――私は自分が嫌いだ。

人と比べて自分を保っているような人間のクズだ。他人を愛することも、ましてや人から愛されることもない。救いようのない人間。

でも、それでも......私がおじさんを助けたと思うと、少し自分が誇らしく思えた。


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△追記△

本当はもっと詳しく事の内容を書き表そうとしたのですが、身バレしたくなかったので、全体を少しぼやかすようにして文章を作成しました。またこのように小説じみた感じで書くつもりはなかったのですが、書き直すのもめんどくさかったので、どうかお許しください。ちなみにこれは2週間くらい前の出来事です。事故にあったおじさんがこの記事を読んでくれているとは思いませんが、「元気でね」と、一言伝えられたらな。

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