見出し画像

エッセイ)歯ブラシ#春風怪談

このお話はあんこぼーろさんの春風怪談企画に参加しています。下記は私が体験した実話で、
完全なノンフィクションです。長く生きていたらこんな事もあるんだなぁって話です。

今は嫁様と猫のトラジの3人で暮らしているが、実家にいた頃は、おとん、おかん、私、弟の4人暮らしだった。
実家では歯ブラシを4本、歯ブラシタテに入れて保管しており、それぞれの歯ブラシを4色バラバラにする事で見分けを付けていた。
おとんは黒、おかんは白、私は青、弟は緑といった具合だった。

弟は2か月前迄は寮で生活をしていたが、
高専中退を機に実家に出戻りをしていた。
暫く3本だった歯ブラシは、また、昔のように4本に戻っていた。
歯磨き1つでも個人差はあり、性格がでるのか
私の歯ブラシは、弟に比べて酷くボロくなっていた。
逆に弟は綺麗な形のままキープされていて、まるで弟の歯ブラシだけ付喪神でも付いているのではないかと言う程に綺麗なままだった。

ある日、弟とスーパー銭湯に行った。
私は荷物が増えるのが嫌で着替えタオルだけをもち、弟は着替え以外にも髭剃りや歯ブラシ
自前のシャンプー迄もご丁寧に持って行く。
弟はこの時、暇なニート生活の真っ只中におり、風呂好きのおかんについてスーパー銭湯によく行っていたので、銭湯上級者だった。数ヶ月前までは、寮住まいだった事もあり、弟と風呂に行くのは久しぶりだった。

銭湯に入ると、まずは2人並んで、たわいない話をしながら頭を洗い、身体を洗った。
この時点で私の作業は終了していたものの、
弟はそこから歯磨きを始める。私は早く風呂に浸かりたかったので、
『先に風呂行くわ』
と声をかけた。
弟は青い歯ブラシを咥えたまま
『うぉい』
と返事をする。
青い歯ブラシ…青…。
『あれ?それ俺の歯ブラシやん!』
弟は
『は?俺のやけど…。』
やたらと私の歯ブラシだけが悪くなると思っていたら、どうやら数ヶ月の間、私と弟は同じ歯ブラシを使っていた様だ…。
私の歯ブラシだけがボロくなり、弟の歯ブラシがずっと新品のように綺麗なままだったのは、
付喪神の恩恵なのかと思っていたら、単なる勘違いが原因だった。弟は寮にいる時にずっと青い歯ブラシを使っており、出戻り後に緑の歯ブラシに変わった事をすっかりと忘れていた。
いやー。思い込みって本当に怖いっすね。

終わり