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Amazonが実店舗(Whole foods)で苦戦しているという話

Amazonは2017年に米国を中心とした高級スーパーのWhole foods Market(ホールフーズ・マーケット)を137億ドルで買収。

約8000億ドル規模の食品小売業界でWhole foodsのシェアは1%程度でしかない細分化された市場ですが、買収によって実店舗の購買データを取得し、洗練されたWhole foodsの店舗フォーマットからAmazon Goなどの展開にも学びが多いでしょう。

本題にはいる前に、Amazonが食料品でも存在感を高めていきたいであろうデータを紹介します。

まず、ARPU(ユーザーあたりの売上高)でいうと日々の食品や日用品をおさえているWalmartやコストコと比べるとAmazonはまだ低い。

こうやってみるとウォルマートなどと比べてAmazonは日常的な領域でも存在感を発揮していきたいところ。1回限りの購買よりも日常的高頻度でマインドシェアも含め高めていきたいのはビッグプレイヤーなら当然のことです。

米食料小売市場で25%ものシェアを握る世界最大の小売の巨人Walmart(ウォルマート)はマージンを削ってでも「肉を切らせて骨を断つ」の如く、IT投資・フルフィルメントセンター投資・ラストワンマイル(配送拠点から玄関先)投資を行い、Amazonとガチバトルしている。

AmazonのWhole foodsが苦戦している?

UBSのアナリストが19日に公表した年次消費者調査の結果によると、2018年に食料品を1カ月に最低1回購入したアマゾン・プライム会員の数は前年比で減少した。アナリストは投資家向けリポートで、ホールフーズへの投資や2時間で届く配送サービス「プライム・ナウ」の拡大を踏まえると、この減少は予想外だと指摘した。

Bloomberg: アマゾンが食品小売り拡大で苦戦 - 2018/12/21

と、このデータだけが全てではないが、こういった報道があった。

また、Brick Meets Click researchの調査によると、実店舗小売チェーンによる食料品デリバリーとピックアップサービスを使った世帯の利用額は月200ドル程度、Amazonの場合は月74ドル程度で、利用額だけでなく頻度の面でも劣っているようだ。

2時間(エリアによって30分)デリバリーのPrime Now拡大しても、Prime会員割引を行っても、Amazonロッカー設置してついで買い誘発しても、か。

ちなみにAmazonの決算の反応で、こんなことを書きました。

むしろ今回の決算で個人的に気になったのはAmazon実店舗の件ですね。

買収したWhole Foodsが次の景気後退期に多少負担になるリスクが織り込まれていないかも。もともと買収する少々前まで既存店売上高が2012年をピークに下降トレンドで厳しい状態になっていたし。

アメリカ部 @america_kabu 1:59 - 2018年10月26日

Source: Whole Foods Market - THE HEDGEYE
(*すいません。noteだと"元のツイートを含める"をはずして引用できないのが不便なんですが解決策ないですか?)

買収されるまでの残りの期間の既存店売上高は以下の通り。

Source: Whole Foods Market Same-Store Sales - eMarketer

Q4 '17は上昇しているが、基調として既存店売上高の下落トレンドが厳しいものだった(小売店において最重要に近い指標が既存店売上高)。それゆえジャナに標的にされて身売り圧力の中、Amazonが動いたわけだ。

ウォルマート(NYSE:WMT)も全米最大スーパーのクローガー(NYSE:KR)もホールフーズの強みだったオーガニック食品に力を入れはじめ(客層は全く違うのでアレだが)、スプラウツ・ファーマーズ・マーケット(NASDAQ:SFM)やトレーダージョーズなども含めてオーガニック食品を求める顧客層が他社へ流れていった。

店舗フォーマットに定評のあるWhole foodsですらこれで、あまりにも同様の店舗、同様の商品を扱う店舗が飽和し、単純に顧客あたり売り場面積が広すぎるんじゃないかというところもありますが、米国小売業界の競争の激しさが伝わってくる…。

全米最大スーパーのクローガーも全店でカーブサイドピックアップ(後述)したり、かなりIT投資も力をいれて対Amazonでマージン削っても最大限戦う姿勢を見せています。

なお、買収後もWhole Foods CEOがAmazonのデータドリブンなセントラル化に対し、企業文化で相容れない状況と弱音をはいている。

そういった一枚岩になかなかなることができていないように見えるWhole foodsはAmazonによる買収後、数百名の社員がレイオフされるなどホールフーズ従業員のマインドは一部は反Amazonに傾いているようで組合を結成しようとしているとも報道されている

一方、2019年早々、AmazonがWhole foodsの店舗を拡大する動きがあるとWSJが報道しており、新しいフォーマットが非常に興味深い。既存店売上高改善は難しいにしても新しいフォーマットを見て判断したいところ。

スマホユーザーの位置データを追跡するSense360の2018年8月のレポートだとWhole foodsはTrader Joe'sから顧客を奪っているとある。Amazonが買収後の困難な統合を経て、Whole foodsの既存店の成長を立て直すことができるのか注目したい。

——— ✂ ——— 補足資料 ——— ✂ ———

Whole foodsは店舗数が475店舗という都市型のスーパーマーケット。

なお、デリバリーのAmazon Prime Now拡大によって、Whole foodsが買収前に提携していた食料品デリバリー大手Instacartとの提携は終了。

だが、インスタカートはむしろAmazonのWhole Foods買収で危機感をもったスーパーが殺到し、今やInstacartは全米300のスーパー・食料品店(15000箇所)と提携している。

インスタカートは1時間配送・即日配送・カーブサイドピックアップ・Instacartアプリで注文可能と、注文からデリバリーまでトータルにアウトソース可能になっている。

なお、カーブサイドピックアップとは以下のようなものだ。

このようにカーブサイド・ピックアップとは専用駐車場にとめると事前にアプリで注文していた商品をスタッフが持ってきてトランクにつめてくれるサービスで、子育て世帯中心に人気。Whole foodsも2018年8月にようやくAmazon Prime Nowによるカーブサイドピックアップをスタートしたばかりで、買収からの動きとしてはかなり遅い。

なお、ここで紹介した小売大手ターゲット(Target NYSE:TGT)はインスタカートと同業の食料品デリバリーのShiptを買収している。

ウォルマートの動きを見てもInstacart自体も警戒されているように思われる。そのうち掘り下げたい。

——— ✂ ——— おわり ——— ✂ ———

Amazonは返品サービスでコールズ(Kohl's NYSE:KSS)と提携、ターゲット買収の噂もあったり(Whole foodsとの統合がまだ完了した感ないのに無理じゃないか…)、Amazon Goを淡々と拡大する中、同様のレジ無し店舗フォーマットも他社が拡大していたり、非常に興味深いので今後もウォッチしていきます。

なお、このnoteは特定の企業の株式の売買を推奨するものではなく、ビジネス状況を定点観測していくための媒体です。

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ミニマム連続起業家・投資家の「決算マン」

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また明日。

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