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季語研究 「雛祭り」 -娘の健やかな成長を願って-

★★★けろけろ道場 季語研究★★★
No.21【雛祭り(ひなまつり)】(行事 / 仲春)

● 概要
三月三日に女児の息災を祈って行われる行事で、古くは桃の節句、雛遊びなどといった。雛に桃の花を飾り、白酒・菱餅・あられなどを供えて祝う。
人形で身体の穢れを祓い川に流した上巳の日の祓の行事に、雛遊びの風習が合わさったものである。
江戸時代から紙雛にかわって内裏雛が多く作られるようになり、豪華な段飾りへと発展した。

【傍題】桃の節句 上巳 三月節供 弥生の節供 桃の日 雛の日 雛 ひひな 雛遊び 雛飾り 雛飾 雛飾る 雛人形 内裏雛 官女雛 古雛 紙雛 立雛 土雛 吉野雛 雛段 雛の調度 雛道具 雛の鏡 雛菓子 雛あられ 菱餅 白酒 雛燭 雛の灯 雛の客 雛の宴 雛の家 雛の間

● 季語について

皆さん、こんにちは。今回の季語研究は「雛祭り」です。
「雛祭り」と言うと、人それぞれに大切な思いがあり、五文字で作りやすく、傍題も沢山あるということで、今回の俳句ポスト365においても激戦となることが予想されます。このような時は、どうすれば他人と差を付けられるだろうと結論を急ぐよりも、季語の本意をしっかりと把握し、自分なりの経験や思いと照らして誠実に句作をするのが一番の道ではないでしょうか。

さて、もう少し具体的な話に入っていきます。俳句には情景描写を中心とする句と、物語・心情を中心とする句があります。
まず情景描写に関してですが、雛人形という誰もがイメージできる映像があるので一見作りやすそうに見えますが、雛人形の印象が強すぎること、基本は室内になりバリエーションが少ないことから、簡単ではありません。雛人形そのものの描写から考えるアプローチが良いかも知れません。

次に物語・心情を中心とする句についてですが、やはり「雛祭り」の本意である、「娘の健やかな成長を願う気持ち」を主軸に考えるのが王道でしょう。「夏祭り」「花火」は友情・恋愛、「秋祭り」は村の人間関係がテーマになるのに比べて、「雛祭り」は基本的に家庭内で行うものなのでテーマが「家族」になり、発想が出尽くされたものになりがちではあります。しかし、「けろけろ道場」のこれまでの記事でも繰り返し述べてきたように、類想を回避することよりも自分なりに季語と向き合うことの方が大切だと言うのが筆者の考えですので、やはり「家族」を描くことがメインになってくると思われます。
その際のヒントとして、「自分とは異なる立場の人の気持ちを想像する」というものがあります。例えば女性の方で子供の頃からずっと雛祭りを楽しんでいた方は、ストレートに祝ってもらっている句を詠んでも勿論いいのですが、「脇役だった弟はどんな気持ちだっただろう」と思いを巡らせると句のバリエーションが増えるかも知れません。
なお、「雛祭り」のイメージとは真逆の悲しい出来事を描くといった手法もあり、勿論作者の思いあっての手法なので否定するものではありませんが、そのような句に読者が傷付くリスクがあることは念頭に置くべきでしょう。

最後に、現代人の「雛祭り」に関する経済事情のお話をして稿を締めたいと思います。
一口に雛人形と言っても、以下のようなタイプがあります。

①七段飾り、②五段飾り、③三段飾り、④ ケース飾り(ケース内に人形が固定のもの)、⑤ 親王飾り(男雛と女雛のみでケースなし)

かつて雛人形は嫁入り道具とされていたことが多く、その名残で母方の両親が購入するものと考えられていた節もありました。今ではそのような慣習は薄れ、父方の両親が買う、夫婦が買うなど、どのような形でもよいようになっているようです。
誰が、どのような雛人形を購入するのであれ、思いのこもった雛人形はその子がすくすく育っていく力になることでしょう。
数えきれないほどのドラマを持つ「雛祭り」、楽しんで俳句を詠みましょう。

● 例句研究

草の戸も住み替わる代ぞ雛の家
-芭蕉-

裏店や箪笥の上の雛まつり
-几菫-

きぬぎぬのうれひがほある雛かな
-加藤三七子-

笛吹けるおとがひほそき雛かな
-篠原鳳作-

雛飾りつゝふと命惜しきかな
-星野立子-

雛菓子の蝶のむらさき鶴の紅
-大橋敦子-

雛の間や色紙張りまぜ廣襖
-杉田久女-

◆ 主要参考文献
・『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)
・ウェブサイト『きごさい歳時記』
・ウェブサイト https://kufura.jp/life/event/157577
・ウェブサイト https://www.furacoco.co.jp/column/2021/3461

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