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季語研究 「山眠る」 -夜とは限らない?-

けろけろ道場 季語研究
No.20【山眠る(やまねむる)】(地理 / 三冬)
● 概要
冬の山の静まりかえったさまをいう。北栄の画家郭煕の『林泉高致』の一節の「冬山惨淡として眠るが如し」から季語になった。
【傍題】
● 季語について
季語の中に比喩が含まれているという特殊な季語です。「眠る」というくらいなので通常の「冬の山」よりも静まり返った印象が強く押し出されます。雪山には限られず、雪のない地方の冬の山も含まれると思われます。
また、「眠る」というのは単に静かさを表現しているのであつて、夜の場面設定とは限らないと考えられます。ここを取り違えると、「わざわざほかで書かなくても夜と分かるだろう」と思って詠んだ句の意味が伝わらないということになりそうです。
● 例句研究
(1)主人公が山にいる句

十里のみち二十里のみち山眠る
-高野素十-

主人公は旅人でしょうか。山の旅のリアリティーと感慨を感じます。

眠る山佐渡見ゆるまで径のあり
-前田普羅-

越後の冬山を登るのは大変そうなことですが、「もう少しで佐渡が見える」と思えば足も進みそうですね。地名から背景の物語を連想させる名句です。

土いまだ木の葉のかたち山眠る
-正木ゆう子-

冬は夏よりは腐るのに時間がかかりそうですね。山を歩きながら足下の物を観察する視線が素敵に思えます。

(2)主人公が山の外(家など)にいる句

落石の余韻を長く山眠る
-片山由美子-

山にいるとも読めそうですが、私は田舎の家の布団の中で落石の音を聞いたと読みました。落石の大きな音が聞こえることで、前後の静かさがしみじみと感じられたのでしょう。芭蕉の名句にも通じるものがあるように思います。

山眠り火種のごとく妻が居り
-村越化石-

山は眠っても妻は眠らない?この旦那さんが何か悪いことでもしたのでしょうか。怒りが収まってくれればいいのですが。

◆ 主要参考文献
『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)

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