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季語研究 「夏の海」 -リア充に負けずに-

★★★けろけろ道場 季語研究★★★
No.24【夏の海(なつのうみ)】(三夏 / 地理)

● 概要
 夏の海。鮮やかで、力強い。浜には海水浴客、海にはヨット、空には入道雲が浮かぶ。

[傍題]夏の波 夏怒涛 夏の浜 夏の岬 青岬

● 季語について
 けろけろ道場も開設より二年近く経ちますが、最近では「初心者なので季語から句作するやり方が分からず、勉強になりました」といった嬉しい言葉を受け取ることが多く、記事を執筆してきて良かったとしみじみ感じます。読者の皆様、いつも拙文を愛読してくださり、誠にありがとうございます。
 さて、今回は「夏の海」ということで、猛暑に負けずに海に繰り出すリア充に負けないように、気合いを入れて季語分析をしていこうと思います。

【1】「夏の海」のイメージ
(1)「夏の海」から当然に映像が浮かぶ事柄
・群青の海
・青空
・入道雲
・太陽(晴れ)
 これらのイメージは「夏の海」という言葉に内包されているといって差し支えないでしょう。曇りや雨の日の「夏の海」を描いてはいけないとは思いませんが、そのような場合は「曇り」「雨」と明記する必要があります。
 また、「夏の海」に内包されているイメージをわざわざ書くのは字数の無駄であるという考え方もできそうですが、当方はそのような考え方には与しないということは付言します。
(2)説明を入れることで映像が浮かぶ事柄
[海]
・大きな波(いわゆる「夏濤」)
・海を走る船(又はそれに類するもの)
[陸地]
・砂浜
・砂浜で遊ぶ海水浴客
・断崖
・コンクリートの海岸
 「『夏の海』と書けば、これらも読者はイメージしてくれるだろう」と勝手に思い込んで句作すると、作者の思い浮かべた映像が全く読者に伝わらないということにもなりかねません。たとえば、作者は砂浜を思い浮かべて句作しても、読者はテトラポッドの積まれたコンクリートの海岸を想像するかも知れません。このようなことは、誰もにとって身近な季語に起きやすいことなので、頭に留めておくとよいと思われます。

【2】句作にあたって考えられる句の類型

(1)「海」を描く
 このタイプは一物仕立てとなるので、難易度は高いといえるでしょう。
①「波」を描く

島々や千々に砕けて夏の海
-芭蕉-

長濤を以て音なし夏の海
-三橋敏雄-

②「海を走る船(又はそれに類するもの)」

色濃さに堪へて帆白し夏の海
-原石鼎-

(2)残りの十二音で「陸地の光景」を描く
陸地は大きく分けて①砂浜、②岩場や断崖といった自然海岸、③コンクリートの海岸の三つに分けられますが、「夏の海」だけではどのような陸地であるか読者に伝わりません。勿論、伝わらなくて良い(読者の創造に任せる)場合の方が主流ですが、映像をしっかり伝えるという意味では、どのパターンの陸地か明記するか小道具をつかって表現するといったことをする必要があります。
「夏の浜」だと①類型、「青岬」だと②類型と分かるので、映像を伝えるという点では得な傍題という言い方もできるかも知れません。

熊野路やわけつつ入れば夏の海
-曾良-

乳母車夏の怒濤によこむきに
-橋本多佳子-

青岬遠くで別の汽笛鳴る
-石崎素秋-

(3)取り合わせの句
 一般に取り合わせには大きく分けて①「季語と近いイメージと取り合わせる」類型と②「季語とかけ離れたイメージと取り合わせる」類型がありますが、「夏の海」の場合は季語の持つ明るいイメージがあまりにも鮮烈であるため、②類型として「悲しい」「寂しい」といったネガティブなイメージと取り合わせようとすると季語にかなわないといった状態になる可能性が高いため、まずは①類型で考えるのが定石でしょう。また、「夏の海」があまりにも具体的で、鮮烈であるため、ある程度具体性を持った内容と取り合わせる方が良いとも思えます。

かくまでに父似の男児夏怒濤
-宇多喜代子-

◆ 主要参考文献・サイト
・『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)
・サイト『増殖する俳句歳時記』

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