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【演者としての登場と演者からの解放】BEYOOOOONDS『BEYOOOOO2NDS』は令和随一のコンセプトアルバム

ステージに立っている間は一瞬も気を抜いてはいけない。ずっと演者でいなさい
――――――――野沢トオル

Rolling Stone『BEYOOOOONDSが語る、武道館での名演、アルバムに刻んだ成長』

 アルバム全体で一つの物語が存在し、その流れに沿って曲が進んでいく。アルバムの歴史と共に発展してきた「コンセプトアルバム」という形式で数々の名盤が生まれてきた。そんな作品たちに肩を並べそうなのがこの記事でレビューするBEYOOOOONDS『BEYOOOOO2NDS』である。

アルバムの概要

 このアルバムは2枚組となっているが、コンセプトアルバムとしては1枚目(BEYO盤)がその形式をとっている。BEYOOOOONDSの3ユニットの楽曲を収録した2枚目(UNIT盤)は楽曲集といったところだ(以下、Disc 1・BEYO盤について記す)。
曲目については以下のリンクから確認できる。

 既存のシングル収録曲が7曲、ライブで披露済みの楽曲が3曲、完全新曲は3曲という構成で、ベストアルバムに近い見方をしてしまう人もいるかもしれない。また、5トラック収録される「Interlude寸劇」も面食らう人がいるかもしれない。ただここに、BEYOOOOONDSらしさとコンセプトが存在していて、それを明らかにしていくのが本記事になっている。

コンセプトは何か

 このアルバムに通底するコンセプトを考えるうえで欠かせないのが、BEYOOOOONDSがどういうグループかという点だ。簡単に紹介しておく。
 BEYOOOOONDSはハロー!プロジェクトに属する12人組の女性アイドルグループで、グループ内に3ユニットが存在する(UNIT盤ではこの編成での歌唱曲が収録)。結成の段階で '演技やパフォーマンスを中心とした活動でデビュー' すると発表されていたメンバー(高瀬くるみ・清野桃々姫)も在籍していることにより、歌唱・ダンスに加え「演技」要素にも重点を置いたグループになっている。毎年演劇作品にも取り組んでいるほどだ(現在のハロプロではBEYOOOOONDSのみ)。今回収録の「Interlude寸劇」にもそれが生きている。
 また最近のライブでは歌唱パフォーマンスはもちろん寸劇もシームレスに挿入され、メンバーも「BEYOOOOONDS SHOWをお楽しみください」とMCで言ったりOPの雰囲気がミュージカル調だったりと総合芸術の演者としてのテイストが強くなっている印象も受ける。
 これを踏まえてアルバムを聴いてみると、BEYOOOOONDS自らが「演者」であることを意識した作品だと感じられるはずだ。

詳解

①「虎視タンタ・ターン」

  春夏ツアーでは2曲目を飾ったリード曲。虎年にかけ、BEYOOOOONDS自らの闘志をむき出しにしたディスコ・チューン。'今 日本は' という主語もあるが、BEYOOOOONDSの一人称 'うちら' も用いられ、'陣取ってけ! センターだ' などアイドルグループとしての決意がたっぷりな1曲。

②「英雄〜笑って!ショパン先輩〜」

 春夏ツアーで1曲目を飾った3枚目シングルの1曲目。クラシック楽団とのコラボレーションライブも実現させるなど話題に。ショパンへのメッセージを綴った歌詞やショパン引用の楽曲が初見のイメージだがクラシック・オペラを意識するなどQUEEN的な展開も。
 このPVではピアノを弾いている小林萌花(音源でも実際に弾いている)以外は 'SPIRITS OF "SHOPIN SENPAI"' と役名クレジットされており、役者としての性質が強調されている。

 ここまでの2曲はライブでも先頭に位置する楽曲で、BEYOOOOONDSが演者として登場する最初の曲群となる。ここで冒頭に引用した演出家・野沢トオルの言葉をもう一度読み直してみると、ステージに立つということは演者として立つこととある。先頭2曲はアルバムで聴いても、演者としての登場を印象付ける曲といえるのではなかろうか。

③Interlude寸劇「ノービヨンダ!ノーライフ」
④Hey! ビヨンダ
⑤Interlude寸劇「ノービヨンダ!ノーライフ」後編
⑥Now Now Ningen

 まさに演者としての性質が登場するのがここから。ニュージャックスウィングを基調としたダンスナンバー「Hey! ビヨンダ」を挟み、世界観を補完する寸劇が挿入されている。メンバーのみで演じているが、これはここだけの役柄で他には繋がらない。役柄自体というより「演者であること」が重要なのだ。
 その流れを経てコロナ情勢を盛り込んだ⑥が「AI」→「Ningen」の流れで登場。時事的要素が強いのは「今を生きるBEYOOOOONDS」というコンセプトではよく登場することではあるがこれは演者のみならずリスナーを見据えた感じ。ここでも「演者」としてリスナーを励ます歌詞となっている。

⑦涙のカスタネット

 コロナのあおりを受け、声援ができなくなったアイドルライブにおいて観客と一体化して盛り上がるための楽曲。カスタネットをたたくリスナーと指導する演者という構図が明確に出つつも共同作業を行うことになる1曲。

⑧激辛LOVE
⑨ハムカツ黙示録

 春夏ツアーでは中盤、唐辛子をいかにして手に入れるのかという幕間映像のあと、続けて披露された食べ物ナンバー。特に⑧では役柄が明記されているが、新人スタッフを演じた山﨑夢羽(やまざき・ゆはね)の視点がリスナーに近く(ジャケットもこの認識で統一されている)、彼女含めたリスナーが '底なし沼に ハマったら最後だわ' '孤独な旅路 私のそばにあなたがいるなら幸せだ' 激辛のようにビヨ沼にはまり、クセの強い楽曲についてきてくれていることへの感謝では?と受け取れる内容。⑨は 'アポガリプス' 'ラッパ' など『黙示録』要素も散りばめながらムカつきを露わにするリスナーの代弁歌。BEYOOOOONDSとしてのコンセプトとして後述する要素を満たしている。

⑩Interlude寸劇「こころとりかのドリームマッチ」
⑪Never Never Know~コメ派とパン派のラブウォーズ~
⑫Interlude寸劇「こころとりかのドリームマッチ」後編

 引き続き食べ物シリーズで、二項対立のものをテーマにした楽曲だが、この寸劇は「演者であること」が重要というよりも役柄が重要な場合に該当する。1stシングルから春夏ツアーまで必ず登場しており、1stアルバムのコンセプトでもあった「眼鏡の男の子」の続編となっているからだ。

 「眼鏡の男の子」は大胆にも曲の前半をすべてセリフで埋め、名刺代わりの1曲、そしてBEYOOOOONDSの中心の世界観となっているわけだが②や⑥、⑬、⑰でもあるようにPVで過去作要素をチラ見せするなどグループとしての歴史を重要視するBEYOOOOONDSらしさが如実に出た一群。

⑬ビタミンME
⑭フレフレ・エブリデイ

 「応援する」「寄り添って背中を押す」「一緒に歩いてくれる」など、リスナーを励ましてくれるBEYOOOOONDSのコンセプトを明確に示した曲たち。カゴメとのタイアップで製作された「外からの力」による曲だが、これがBEYOOOOONDSのコンセプトを確立させたわけだ。特に⑬はコロナが始まって外出自粛が始まり、未来への不安が募る中での発表であり、本当に元気をもらった。

⑮Interlude寸劇「迷走委員会」
⑯GOGO大臣
⑰こんなハズジャナカッター!

 ここからは「迷走」の一群。わけのわからない委員会ばかり作るヘンテコ大臣との答弁というなかなかぶっ飛んだ寸劇。この役柄を引き継いで⑯では歌が進んでいる。⑯は寸劇の脚本を担当する野沢トオルが作詞もしており、連続性は一番高い。
 既存のアイドルでは珍しい「トンチキ」路線を「迷走」と解釈し、それをメンバーが歌う⑰では小泉今日子の「なんてったってアイドル」も引用され、「演者」としてのBEYOOOOONDSではなくメンバー一人ひとりの顔が見える変化が訪れる。ここまでの路線(=ここまで聴いてきた楽曲たち)を総ざらいしながら(⑯もこれまでの楽曲のオマージュが多々見られる)「演者」からの解放へと進んでいく。

⑱オンリーロンリー

 春夏ツアーのラストを飾ったバラード。'みんなロンリー' 'うちへ帰ろう' と「演者・BEYOOOOONDS」ではなく演じている一人ひとりに焦点を当て、'また遊ぼうね' 'また会えるよね' とライブでの再会を歌う。ここまでリスナーを元気にするアイドルとして、また眼鏡くんを含め様々な役柄を演じてきたBEYOOOOONDSが一人の人間として感情を吐露するような位置づけの楽曲。ライブでは最後一人ひとりがバラバラの位置に立ってバラバラの方向を向いて終わるという、「一人」(=グループでない)を感じさせる作品。
 またこの曲のアウトロはThe Beatles「A Day In The Life」のオーケストラのアウトロを引用していることもコンセプトアルバムらしさを強めている。 

 この曲が収録されているアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』は「コンセプトアルバム」として最も有名な作品でリリース当時から高い評価を獲得していた。ただこの作品は、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandによって演奏されているというコンセプトではあるが関係の薄い曲も入っているという指摘もよくある。The BeatlesがSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandを演じ切れていないという指摘だ。ただ「A Day In The Life」はアンコール曲として位置づけられており、それはThe BeatlesがSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandから解放されることを意味しているのは確かだ。
 『BEYOOOOO2NDS』は、コンセプトアルバムの有名作『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のラストトラック「A Day In The Life」を用いてこのアルバムを締めることで、「BEYOOOOONDS」を演じた12人の「演者としての解放」を見事に描き切っている。

『BEYOOOOOND₁St』との違い

 結論へと進む前に、前作『BEYOOOOOND₁St』との違いについても軽く触れたい。⑩~⑫の解説の部分でも触れたが、この作品では「眼鏡の男の子」の世界観が通底している。何しろ『BEYOOOOOND₁St』のリリースは「眼鏡の男の子」からわずか3か月後であった。また『BEYOOOOOND₁St』の初回盤Bでは「眼鏡の男の子」のドラマCDが付属し、シングルの後のストーリーが収録された(全37分)。「眼鏡の男の子」関連曲は全体の3割ほどを占めたが、ユニット曲も入ってきてしかもメンバーのパーソナルな内容であり、今回のような「演者」に徹しているわけではない。『BEYOOOOO2NDS』は「眼鏡の男の子」シリーズ以外も演じ、またそこからの解放まで描いているところにストーリーが存在しているのだ。

終わりに

 アイドルは「偶像」と訳される。個人としては存在していても、それとは別の「偶像」を演じ、リスナーに様々な感情を抱かせる。BEYOOOOONDSは 「応援する」「寄り添って背中を押す」「一緒に歩いてくれる」など、リスナーを励ましてくれるアイドル像や、その高いスキルによって演じられる「眼鏡の男の子」をはじめとしたキャラクターたちを「演者」として「演じ」、最後には「演者」から解放され、再会を約束し、一人の女の子としてステージを去る。『BEYOOOOO2NDS』にはこうした世界が待っている。
 サブスク未解禁の名盤、BEYO盤とUNIT盤併せてぜひチェックされたい。

引用・参考文献 (2022.10.30閲覧)

・Hello Project「『Hello! Project 研修生発表会2017 ~春の公開実力診断テスト~』結果発表!
・Rolling Stone「BEYOOOOONDSが語る、武道館での名演、アルバムに刻んだ成長
・Real Sound「BEYOOOOONDS『BEYOOOOO2NDS』レビュー 強力な楽曲が目白押し、アルバムに一貫する“素敵な過剰”
・BEYOOOOONDS『BEYOOOOO2NDS』歌詞カード
・星部ショウのハッケン!音楽塾「【プレゼン#15】2ndアルバム『BEYOOOOO2NDS』全曲解説編〜ハロプロ音楽理論〜


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