ダニー•ゴー
「thank you」
錆びついた机の上に、釘で書かれたような文字を、私はぼんやりと眺めている。
ダニーがいなくなった。
別れの挨拶もなく、突然どこかへ行ってしまった。
相変わらずタバコ臭い部屋の中で、私は一人、取り残されている。
何が「ありがとう」だ。
欲しいのは、そんな言葉じゃない。
「寒いじゃねぇか、ジェニー」
ダニーの部屋に来るときはいつも、私はまず窓を開けた。
部屋の中にタバコの匂いが充満していて、空気を入れ替えたかったからだ。
真冬でも窓を開ける私に、ダニーはよく文句を言ったものだ。
でも今日は窓は開けないでおこう。
もう少し、このタバコの香りを嗅いでいたいから。
ヒンヤリとした床の上に、私は座り込んだ。
ふと部屋の隅を見ると、タバコの箱が落ちていた。
私と同じように取り残された、その箱を手にとり、握りしめる。
手のひらに違和感があった。
箱の中に、タバコではない何かが入っているようだ。
中を見てみると、折り畳まれた小さなカードが差し込まれている。
どこかから、ヒューという口笛が聞こえてきた。
ダニーがよく口笛を鳴らしていたっけ。
私はカードを広げる。
中には短い文字が記されていた。
「so long」
小牧幸助さんの企画に参加させていただきました。
DANNY GOが頭から離れない。
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