令和2年度のバイオ委員会の答申書

本年度は、バイオ・ライフサイエンス委員会(バイオ委員会)主催の研修会ができなかったため、弁理士会の委員会活動の宣伝もかねて本年度の答申書のテーマについて簡単にご紹介します。
本年度の活動成果については、次年度の研修テーマとなる予定ですので、興味のあるテーマがあれば研修で直接聞くことができるかも!

バイオ委員会の活動内容

バイオ・医薬関連の国内外のプラクティス、法改正、新技術に関連する特許、バイオベンチャーの知財戦略の調査および研究を行なっています。
部会のテーマは、喫緊の課題がない限り、委員の先生方の協議に基づき決定するため、毎年テーマは6月頃に合議の上、決まります。
バイオ委員会は6部会から構成され、広報担当の部会を除く、各部会の答申の内容は以下のようになります。
答申書は、弁理士会の電子フォーラムで公開されますので、興味のある弁理士の先生方は、電子フォーラムから直接入手、その他の方はお知り合いの弁理士の先生に取りよせを依頼ください。

第1部会の調査テーマ:進歩性における効果の参酌

本年度のテーマは、進歩性の有利な効果に関して、以下2点の検討が行なわれました。

(1)有利な効果の主張における本願発明との比較対象
(2)出願後に提出される追加データの参酌

(1)については、一昨年の最高裁判決(平成30年(行ヒ)第69号「アレルギー性眼疾患を処置するための点眼剤」事件)を受けて、審査実務がどうなっているかを事例を紐解いて検討されています。
(2)については、明細書に定性的な効果のみが記載されている際に、定量的な比較データを事後的に提出しても参酌されるケースと、されないケースが裁判例であり、審査実務がどうなっているかを紐解いて検討されています。

・第2部会の調査テーマ:代替肉の特許プラクティス

海外では、SDGの観点から、培養肉、植物肉等の代替肉が流通し始めています。
培養肉に関する技術は、細胞を用いて実際の動物の組織構造に近似した物を作ろうとする技術であり、細胞関連の特許同様に、生産物が本物そっくりになると、物としての新規性が無くなるというジレンマがあります。
植物肉に関する技術については、大豆ミート等のマメを用いた「肉もどき」はかなり古くから存在する技術であり、最近の植物肉が豆ベースの肉もどきであることを考慮すると、既存技術とどのような点で差別化を図るのかが問題となります。
という疑問点を解消するために、FoodTechに関する特許出願について日米欧比較でプラクティスを検討されています。
(某社植物肉には、キュウリエキスが配合されている…多分!)

・第3部会の調査テーマ:海外バイオベンチャーの特許戦略

私が委員会に参加する頃から国内外バイオベンチャーの特許戦略について検討を行なっており、今年度は海外バイオベンチャーの特許戦略について検討されています。
海外バイオベンチャーは、独自色が滲み出た特許出願および特許戦略が多く、各事例においても、こういう考え方もあるのかと点で勉強になることが多くあります。
本年度の事例としては、以下の7例となります。

(1) Arvinas Inc.:PORTAC技術
(2) FUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.:iPS細胞技術
(3) Guardant Health Inc.:リキッドバイオプシー技術
(4) Protagonist Therapeutics, Inc.:ペプチド製剤技術
(5) Mesoblast Ltd.:間葉系幹細胞技術
(6) Alnylam Pharmaceuticals Inc.:RNAi医薬
(7) カリフォルニア大学:CRISPR/Cas9

・第4部会の調査テーマ:COVID-19関連技術

2020年度は、コロナに始まりコロナに終わる1年間であり、一時期はどうなるかという情勢でしたが、1年経たずにして新たなモダリティであるmRNAワクチンが爆速で開発および承認され、各国での接種が開始されています。
このような開発および承認では、医薬品開発のタイムラインを考慮すると既存の技術が活用されていると考えられます。
また、ワクチンの分配が開始されると、多くの医薬品で見られる医薬品アクセスに関する先進国vs新興国の問題も生じています。
そこで、COVID-19と関連して、以下の6点への対応について検討が行なわれました。

(1)COVID-19の流行以前に出願され、COVID-19に応用可能な技術
(2)COVID-19ワクチンの開発状況
(3)レギュラトリーサイエンスの変化
(4)mRNAワクチンに関連する技術基盤
(5)開放特許
(6)医薬品アクセス問題(COVAXファシリティ等)

・第5部会の調査テーマ:植物資源および知財

シャインマスカット、紅はるか等の日本で育種された植物品種が海外に持ち出され、海外で生産および流通することにより、日本からの農作物輸出に影響が出ていることが想定される等、植物資源に関する保護が問題となっています。これらの問題から、本年度は種苗法の改正が行なわれ、規制および罰則が強化されました。
そこで、技術的観点から、本年度の法改正内容を検討し、侵害検出性の面も含めて、今後の植物品種の保護制度としてのあり方について検討が行なわれています。

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