中国のパテントリンケージ制度
2021年6月1日に中国専利法第4回改正法が施行される。今回改正法の施行に伴い、日本及び米国と同様に、中国においてもパテントリンケージ制度及び医薬品の薬事承認に伴う特許権の存続期間の延長制度が導入されるため、手持ちのパテントリンケージ制度の情報を整理した。
トランプ大統領の圧力により、パテントリンケージ制度をしぶしぶ導入したという感じが滲み出ている制度設計であり、運用次第であるが、新薬医薬品メーカー、特に、バイオ医薬品を販売するメーカーにとってはメリットの薄い制度となっている。
1.改正法の内容
パテントリンケージ制度は、専利法第76条に以下のとおり規定されている。
専利法第76条
医薬品販売認可の過程において、医薬品販売認可の申請人と関連の専利権者または利害関係人とで、登録が申請された医薬品に関連する専利権が原因で紛争が発生した場合、関連の当事者は、人民法院に提訴し、登録が申請された医薬品に関連する技術方案が他人の医薬品の専利権の保護範囲に属するか否かについて判決を出すことを請求することができる。国務院薬品監督管理部門は、規定の期間内に、人民法院の効力が生じた裁定・判決に基づいて、関連の医薬品の販売の承認を一時停止するか否かの決定を出すことができる。
医薬品販売認可の申請人と関連の専利権者または利害関係人とは、登録が申請された医薬品に関連する専利権の紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を求めることもできる。
国務院薬品監督管理部門は、国務院専利行政部門と合同で、医薬品販売認可の審査と医薬品販売認可の申請の段階の専利紛争解決の具体的な結び付けの弁法を制定し、国務院に報告して同意を得た後に実施する。
2.中国版オレンジブックの導入
パテントリンケージ制度の導入に伴い、中国版オレンジブック(特許情報登録プラットフォーム)が整備される。現在、5月31日までの限定版として、オンラインテストが行なわれている。
(1)対象特許
特許情報登録プラットフォームには、以下の医薬品に関する特許情報が登録可能である。
①化学医薬品
医薬品の有効成分に関する化合物特許(物質特許)
医薬品の有効成分を含む医薬組成物特許
医薬用途特許
②生物製品
配列構造特許
③漢方薬
漢方薬組成物特許
漢方薬抽出物特許
医薬用途特許
(2)特許の登録期限
医薬品の承認中に特許権を取得した場合、出願人/特許権者は、特許権の付与の通知後30日以内に特許情報を登録することができる。
登録された特許情報が変更された場合、出願人/医薬品製造販売の承認者は、変更が有効になった後30日以内に、プラットフォームに当該変更を登録しなければならない。
上記期間を徒過した場合、新薬医薬品の承認申請者は、パテントリンケージ制度による利益を受けることができなくなる。
3.ジェネリック医薬品の承認申請
ジェネリック医薬品の申請者は、プラットフォームに登録されている特許情報について、下記のカテゴリー1~4のいずれに該当するかを記載した申告書の提出義務がある。カテゴリー1~4は、米国のANDA申請におけるパラグラフ1~4に対応している。
当該ジェネリックメーカの承認販売申請書及び申告書は、国家食品薬品監督管理局(CFDA)の情報プラットフォームにて公開される。
米国のパラグラフIVの申請では、ANDA申請者は、申請後20日以内に、特許権者又はNDA保有者に通知義務があるが、中国のジェネリック医薬品の申請者にはこの通知義務がない。このため、新薬医薬品メーカーは、CFDAの情報プラットフォームにて、ウォッチングが必要である。
①カテゴリー1:プラットフォームには、ジェネリック医薬品の申請に関する既存の特許がない。
②カテゴリー2:プラットフォームに登録されている、ジェネリック医薬品が利用する特許は、満了したか、無効である。
③カテゴリー3:プラットフォームに、ジェネリック医薬品が利用する特許が存在し、ジェネリック医薬品申請者は、特許権の満了までジェネリック医薬品を販売しないことを約束する。
④カテゴリー4:プラットフォームに登録されている、ジェネリック医薬品が利用する特許の有効性が無効であると宣言されるべきか、ジェネリック医薬品が特許の技術的な範囲に属していない。
カテゴリー4での最初の承認取得を得たジェネリック化学医薬品の申請者は、12ヶ月の独占販売期間を付与され、当該独占販売期間、CFDAは、同じジェネリック化学医薬品を承認しない。
4.先発品メーカーの対応
特許権者/利害関係者は、CFDAによる承認販売申請書の公開日から45日以内に、ジェネリック医薬品が特許権の技術的範囲に含まれるかについて、(1)人民裁判所に対する訴訟の提起、又は(2)国務院特許行政部門に対する行政裁定のいずれかを申請できる。人民裁判所及び国務院特許行政部門は、立件日又は受理日から10日以内に受理通知書の副本をCFDAに送付する。
ジェネリック医薬品が化学医薬品の場合、手続開始日又は受理日から9ヶ月間の猶予期間が設定される。当該猶予期間、CFDAにおける申請書の技術審査は停止しないが、承認は行なわれない。当該猶予期間後、特許権が有効との判決又は裁定が無い場合、ジェネリック化学医薬品の申請は、行政の審査・承認段階に移行する。
他方、生物製品及び漢方薬の場合、猶予期間はなく、CFDAは、技術審査を行い、技術審査の結論に基づき承認を許可するかを判断する。
(最終更新日:2021年5月29日)
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