映画『ニルマル・プルジャ: 不可能を可能にした登山家』
大学生になってサークルどうしよっかなぁと考えていた頃、母親に「冒険部だけはやめてね」と言われたのを何故か覚えています。確かに人間の力ではどうすることもできない大自然、それも高く険しい山に進んで突っ込むというのは根源的な恐怖を感じさせる行為だし、息子可愛い母親が頼むからやめてくれと思うのもよくわかる。僕は楽しくテニス(とお酒、およびグループ交際)に励む気満々だったので当然冒険部には所属しませんでしたが、いわゆる山登り映画は山が恐ろしいのとまったく同じ理由で大変好みです。そんなこんなで、この映画もNetflixで見ました。
超人ニムス
元グルカ兵のネパール人登山家、ニムスことニルマル・プルジャは、世界に14座(山ってなんで”座”って数えるんでしょうね)ある標高8,000m以上の山を1年以内に全部登るという”プロジェクト・ポッシブル”なる荒唐無稽な計画を実行に移し、見事成功を収めてしまうマーベルヒーローもびっくりの超人です。100分見終わっても「ニムスすげぇ…」以外の言葉が浮かびません。
・恵まれた肉体(血液のスペックが普通の人と段違いらしい)
・狂気じみた修行エピソード(睡眠削って荷物背負ってたくさん走る)
・大義(ネパール人登山家の地位を向上させる)
の三拍子が揃った、わかりやすく世界の主人公であるニムス。二日酔いで山に登る茶目っ気もありつつ、48時間で3つの8,000m峰を登るなんていう古代の神話みたいなエピソードも作っていく化け物ぶり。エベレスト、K2、ガッシャーブルムI&IIなど、とにかく名前を聞くだけでもオシッコが漏れそうなヤバい山が超美しい映像で紹介されるのでオォ自然…怖い…と一瞬思うのですが、超人ニムスと愉快な仲間たちが根明なノリ&すごい勢いで山々を踏破していくので謎の安心感があります。
K2?いけるっしょ
どうやら世界で二番目に高いK2という山はエベレスト以上にヤバいらしく、登りづらすぎて人がガンガン死ぬとんでもないところだそうです。K2のベースキャンプにやってきたニムス御一行ですが、先に到着していた人々は悪天候の前にこんなの無理じゃん…と気落ちしている様子。このベースキャンプでの話し合いが劇中で一番面白かったです(山登りシーンは、ニムスが凄すぎるのであまりスリルがない)。流石に今年のK2は登れないよ…と尻込む人々に対して、ニムスは
・絶対ダメって思うとき、実際にはその45%くらいしかダメじゃない
・俺はいけると思う
・なので行く
という屁理屈をこねる熱弁をふるうのです。結局ニムスたちは見事K2に登頂し、ビビってた人たちもエイヤと山を登りきりましたとさ、という昔話みたいな展開に。思わず笑ってしまいました。ホントかよ!45%しかダメじゃない理論は汎用性が高そうなので、自分を説き伏せる方便としてストックしておこうと思いました。マジで謎理論すぎて面白い。
登山における欧米中心主義
ニムス曰く「俺と同じことを欧米の登山家がやったら10倍は話題になってる」だそうで、プロジェクト・ポッシブルには長らくシェルパ(登山家をサポートする荷物持ちみたいな人たち。一緒に登る)として黒子に追いやられていたネパール人登山家の地位を向上させる、という目標があるようです。事実劇中でもニムスは「こいつはミングマ」「あいつはゲルシェン」と繰り返し仲間の名前を出しています。お前才能あるだけじゃなくてイズムも超一流やないかーいと頭が下がる思いです。
現代の偉人
100分ちょうどくらいで現代の偉人とその偉業について知ることができるという点でオススメの映画です。ただし、ニムスは凄すぎるゆえ共感できるポイントはなにもありません。おとぎ話を見るつもりでどうぞ。
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