見出し画像

人工衛星の軌道

大学時代航空宇宙工学を専攻していたのだけれど、陸上ばかりしておりあまり熱心な学生ではなく、もっとちゃんと勉強しておけば良かったと後悔している。(陸上の方の成績もあまり奮わなかったけど。。)

最近になって再び宇宙に関心が向いている。きっかけはデジタルツインに取り組んでいる、SpaceData社代表の佐藤航陽さんのツイートを見たこと。

同社がデジタルツインに取り組んでいることは前々から知ってはいたものの、衛星データと機械学習を組み合わせることによりこんな精度の高いバーチャル都市を生成できるということにワクワクした。

そんなことで改めて宇宙のことについて色々と調べたりしているので、色々とまとめたいと思っており、今回は人工衛星の軌道について紹介しようと思う。

人工衛星はなぜ落ちてこないのか

そもそもの話として、なぜ人工衛星には軌道というものがあるのかに触れたい、というのも人工衛星は宇宙を縦横無尽に飛ぶことができないからだ。無尽蔵に燃料があればそんなことも可能かもしれないが、残念ながらその技術は人類にはまだない。

人工衛星は目に見えない決まったレールの上を飛んでおり、その経路を軌道と呼ぶ。軌道はどう決まるかというと、人工衛星が飛ぶ高さ、高度とそのスピードである。

地球の重量圏内にあるものは常に地球に引っ張られている。地上で生活する分には便利なものなのだが、一度空中に出てしまうと後は落っこちるしかなくなる。

では落ちてこないようにはどうすればいいかというと、一つは飛行機や鳥のように翼を持って飛ぶ、という方法がある。

しかし宇宙には空気がないため、残念ながら人工衛星はこの方法を使えない。(スペースシャトルには翼があるじゃないか、と思うかもしれないが、あれは着陸用であり、宇宙空間では無用の長物である。)

あるいは気球のようにうんと軽くして浮く、という方法もあるが、空気がないといけない点は同じだ。

では宇宙ではどうするかというと、遠心力を利用する。

円運動する物体は円の中心と反対方向に遠心力を受ける。車で急カーブをそこそこのスピードで曲がったところを思い出してほしい。

真横に投げたボールはまっすぐ飛んでいるように見えるが、厳密には円運動している。ボールは通常重力に負けて地上に落ちてくるが、遠心力は物体の速度が大きければ大きいほど強くなるので、投げ出すスピードをどんどんと上げていくと、どこかで地球の重力と釣り合うところが出てくる。重力と釣り合った球はもう落ちてくることがないので地球を周回する円運動を始める。

北大リサーチ&ビジネスパーク 気になる数字をチェック! 第12回 『秒速7.9Km』より

この重力と釣り合う速度のことを第一宇宙速度と呼び、この時の速度はおよそ7.9km/s、マラソンなら5秒と少しで完走する速さだ。

地上には大気があり、空気抵抗を受けるため常に減速されてしまうが、大気のない宇宙であればこのスピードをもつ物体は延々と地球の周りを回り続けることになる。

地球から離れれば離れるほど重力は小さくなるため、地球を周回するのに必要なスピードは小さくなる。

地球を周回する人工衛星

決まった速度で地球の周りを円運動しないと地球に落ちてきてしまうため、これが人工衛星に軌道が存在し、その上を動き続ける理由となる。

一方で、円運動さえしていれば人工衛星は落ちてこないため、衛星に何をさせたいか(=衛星のミッション)によって最適な円の描き方というのが存在する。

代表的な軌道の種類

例えばBS放送の衛星などは24時間交信ができるように、衛星が地球から見て常に同じ位置に留まる静止軌道と呼ばれる軌道に置かれる。

このように軌道には特徴があり、人工衛星でよく利用される代表的な軌道がいくつか存在するので紹介したい。

地球低軌道 (LEO)

まず一番地球に近く、衛星の数も多いのが地球低軌道と呼ばれる軌道だ。

名前の通り地球に近いことからこの名前がついており、高度2,000kmまでの範囲のことを指す。

地球観測衛星や国際宇宙ステーションなどが周回する軌道で、近さゆえのアクセスのしやすさおよび観測のしやすさといった特徴がある。またこの高度にある衛星はおよそ90分で地球を一周するので、地球の各地を観測するには都合が良い。

低軌道を周回する人工衛星
Low Earth Orbit Visualizationより

一方で地球に近いがゆえに、ものすごく薄いとはいえ存在する大気の影響を受けやすく、積極的に高度を維持する必要がある。また、スペースデブリが多く、衝突の可能性が高いのもデメリットと言える。

回帰軌道・準回帰軌道

人工衛星が地球を周回すると同時に地球も自転をしているが、この二つの回転のペースを合わせる(=同期させる)ことで、人工衛星が決まったタイミングで決まった場所を通過するようにさせることができる。

例えば今日の朝6時に衛星が東京の上空を通過したら、ちょうど明日の朝6時、同じ時刻に東京上空を通過するまでに衛星は地球を16周して戻ってくる、などだ。

地球の自転と周回のペースが同期している様子
NASA earth observatory: Three Classes of Orbit より

準回帰軌道というのは一日に一回ではなく、数日や1週間に一回など、定期的でありながら地球の自転一回分とは同期しない軌道のことだ。

定期的に同地点上空を通過するため、地球観測や通信に都合がよい。

太陽同期軌道

もう一つ観測衛星に人気の軌道に太陽同期軌道というものがあるが、その前にまずは極軌道というものに触れる。

極軌道は名前にある通り、北極や南極などを通過する、地球を縦方向に周回する軌道だ。

極軌道にある衛星は地球を縦にぐるぐると回り続けるが、同時に地球は太陽の周りを回る、公転運動をしている。そのため、ちょうど季節があるのと同じように、人工衛星から見た太陽の位置は公転に合わせて移動していく。

ここで極を通っている軌道を少しだけ傾けることで、公転に合わせて衛星の回転面も回転させる、ということができる。丁寧に傾きを調整することにより衛星から見た太陽の位置が一定になるため、同じ日の当たり方で地球を観測できるというメリットがある。

weblio辞書: 人工衛星の代表的な軌道(1)より

なぜそんなことが可能かというと、地球が完全な球体ではなく、赤道方向に扁平なため重力の偏りが生じることによるらしい、がこれ以上は自分からは説明できないためより深く理解したい方は調べてみてほしい。

この太陽同期軌道と一つ前の(準)回帰軌道を組み合わせた、太陽同期準回軌道でしかも地球に近い低軌道が地球観測衛星ではよく利用される。

地球静止軌道

低軌道の次に並んで代表的な軌道が地球静止軌道。その名の通り、地球に対して静止しているように見える軌道で、これはつまり地球が自転するのとピッタリ同じスピードで周回するような軌道のことである。

先にも触れた通り、衛星放送などの、常に衛星からのデータを受信する必要がある通信衛星や、地球のある地点を常時観測したい、気象観測衛星などに利用されることが多い。

この時の高度はおよそ36,000km、地球半径が約6,400kmだからその6倍近い距離だ。なかなか遠い。(ちなみに月は地球から約380,000kmの距離にあり、さらに一桁遠い。)

静止軌道と月までの距離の比較
低軌道も描いてあるが、ほぼ地球と一致していてよく見えないくらい近い

準天頂軌道

静止軌道に似た軌道に準天頂軌道、英語でquasi-zenith orbitという軌道がある。

静止衛星は静止して見えるというその性質上、軌道面が地球の赤道面と重なっている必要がある=赤道の上空にしか存在しない。軌道面が赤道面に対して傾いていると、衛星は地球から見て上下に移動してしまう。

これは逆に言えば、観測者が例えば日本にいた場合、天頂、つまりまっすぐ空を見上げた方向を通過することはないということだ。

準天頂衛星はわざと軌道面を傾けることにより、赤道以外の場所でもその天頂を通るようにした軌道である。静止衛星のようにそこに留まるわけではないから準、という名前がつく。

日本独自の測位システムである準天頂衛星システムはこの軌道を利用している。

みちびき(準天頂衛星システム): みちびきの軌道より

測位システムと言えばGPSだが、仕組みとしては、常に数機の衛星から同時に信号を受信することで自分の正確な位置を計算する、というものだ。GPSは低軌道と静止軌道の間で地球の自転よりも早いペースで地球を周回しているため、必ずしも日本の上空にとどまることがなく、また上空といってもかなり浅い角度で存在する可能性があるが、準天頂軌道のように、日本の天頂近くに滞在する衛星を数機配置することでその精度を向上させようというプロジェクトだ。


このように人工衛星の軌道にはいくつもの種類があり、その衛星のミッションに合わせて緻密に計算された軌道が選択される。

空を見上げる時、目に見えないレールの上を通過する人工衛星に想いを馳せながら空を眺めてみてほしい。

Acknowledgement

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?