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【今こそゾーン】サッカーの守り方を教えてください/松田浩

まずは、この本の著者である松田浩さんがV・ファーレン長崎の監督に就任。就任早々に5連勝を果たしました。
おめでとうございます!

松田浩さんの紹介からすると
1960年生まれ
筑波大学を卒業後、日本リーグ2部のマツダSCに入団。その後、ヴィッセル神戸でプレーし引退。
監督として恩師であるスチュワート・バクスター仕込みの緻密な4-4-2のゾーンディフェンスを用いてアビスパ福岡、ヴィッセル神戸、栃木SC、JFAのナショナルトレセンコーチを歴任しています。

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そして今回紹介する本は

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4-4-2のゾーンディフェンスの守り方について、一問一答形式で松田さんが答えていくという内容です。
「ゾーンディフェンス」と言っても、マンツーマンディフェンスの対極にあるもの、危ない所を埋めるものくらいにしか理解できていないのではないでしょうか。
初心者でも十分に理解できるように図と簡単な言葉を用いて解説してくれています。
今回はこの本の中からゾーンディフェンスとは何ぞやということをまとめて紹介していきます。

それではいきましょう!

まず押さえておかなきゃいけないのが
「ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスの違い」です。
松田さんの回答は「敵の位置でポジションが決まるのがマンツーマン、味方の位置でポジションが決まるのがゾーン」だと言っています。

極端にいうと敵の位置を見ずに味方の位置さえ見ておけば大丈夫だと言っています。「さすがにそれは無理だろう」と思うかもしれませんが、3対3の場面を使って説明しています。

まずは、マンツーマンの状態はあらかじめ決められたマーカーや近くにいる相手を捕まえにいってボールを奪おうという狙いがあります。

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対してゾーンディフェンスの場合は、守るべきはゴールという原則から相手にはついていかずゴール方向と危険になるパスコースを切ります。

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マンツーマンでついていった場合、ネイマールやスターリングといったドリブルの得意な選手や速さのある選手に簡単に振り切られてしまうことがあります。
しかし、ゾーンでボール周囲の数的優位を作る事で、ボールにチャレンジする選手とチャレンジをカバーする選手の関係を作ることができます。ボール周辺ではコースが切られているため、ボールから離れてフリーな選手がいても問題ないということになります。

1対1の関係だと「ここで自分が絶対に止めなきゃいけない」という責任から過緊張になったりで上手く対処できなくなってしまいます。カバーしてくれる選手が近くにいることである程度リラックスしてアタックできる状況が生まれるという訳です。

当然、ボール周辺に優位性を作れば逆サイドにフリーになる選手が出てきます。J1クラスだとあっという間に逆サイドにボールを配給できる選手がいるのでフリーで受けることになります。その場合は、一番近い選手がアプローチ。ボールに合わせて全体がスライドし、同じ対応をするというのが原則になってきます。

「何故、松田監督は4-4-2のゾーンディフェンスにこだわるのか」
過去に松田監督の率いたチームを振り返ると、現在の長崎にしろ、栃木にしろ4-4-2の陣形を採用しています。
このこだわりの理由として
「ピッチの縦横の長さが変わらない限り、4-4-2の凸型が最もピッチをバランスよく埋められるし、4-4-2は守備の基本を押さえられる」
と語っています。

ひとりひとりが負担を請け負い、ハードワークし強固な守備を築けると言います。

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最近、欧州でマンチェスターシティやバルセロナなど多くのチームが採用してる4-3-3の場合だと、両WGが高い位置で幅を使えるというメリットがありますが中盤のアンカー脇のスペース(マーカー部)は弱点になってしまいます。このスペース管理が4-4-2の時より難しくなります。

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しかし、4-4-2でしっかりとボールの位置、味方の位置、最後に敵の位置を見る事を擦り込んでおけば応用編として4-3-3も可能になってきます。
問題になるアンカー脇のスペースはSBが出て埋め、カバーに出たSBのスペースをCBと片方のSBがスライドして3バックにして埋める方法があります。

重要なのは、ボールを中心にしながら味方の位置で取るべきポジションが決まるので、サイドバックやボランチが空けたスペースに対して、感覚的に「危ない」「埋めないと」という危機感を持つことです。
この感覚を試合を通して、養っていきます。

「難しそうなことするより守備を5枚で守ってしまえばいいかじゃないか」と思いますよね?
確かに5-4-1で人数を掛けてスペースを埋めてしまえば失点する確率は減ります。それと同時に、相手ゴールまでの距離が遠くなりチャンスも減らしています。

それをプロの戦術の範囲でやるには問題ないですが育成年代でやるのはデメリットだと松田さんは捉えています。守備を4枚は少なく、5枚いれば安心という感覚は、DFとして真に逞しくなるとは思えいないそうです。

その理由として、4バックの前には前線の2枚と中盤の4枚。合わせて2つのフィルターがあります。そのフィルターがあればDFラインの手前まで入ってくるボールの効力を弱めることは可能だからです。
陣形をコンパクトにしてコースを切っていれば、容易くグラウンダーのボールを入れられないし、ロングボールを蹴らざる得ない状況にできるので4枚で十分だと考えています。
それと同時に前線に最大4人割くことが出来るので高い位置からのプレッシングが優位になるという訳です。

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「ハードワークをしろ!」といっても多くのものがあります。
スペースに走る囮の動き、相手の裏のスペースに走る、カウンターを防ぐために自陣に戻る。どれもハードワークといっていいものです。

松田さんが考える1つのハードワークの要素として
「ポジションを取ることにハードワークをする」ことです。
単に、走行距離が多いチーム=ハードワークできるチームというものではなく、然るべきポジションに移動し続けることが大事です。

例えば2トップの1人が相手左SBまでアプローチしに行った時、もう一人のトップの選手はその背中を追うようについていかなければ簡単に中盤にボールを入れられたり、チャレンジ&カバーの形を作れません。

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2トップの間隔が空きすぎると簡単に一番危ない中央から侵入されてしまう。

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攻撃面においても距離が離れているとワンツーやフリックパスが通らず、お互いが孤立した状態に陥ってしまいます。
なので、がむしゃらに走るのではなく、常に味方とボールの位置を意識しながらハードワークすることが重要になってきます。

この様にチーム全体でスライドしていくと、どうしても出来てしまうのがボールサイドとは逆の広大なスペース。先ほどもチラっと触れましたが、この問題の解決方法には「ボールサイドのファーストディフェンスが良ければ、逆サイドの相手は気にしなくていい」と語っています。

どういうことかというと、相手をサイドに閉じ込める様な守備が出来ていれば大きなサイドチェンジを蹴られることはないからです。その分、逆サイドのサイドハーフは中央まで絞ることができ、密集地帯となってグラウンダーのパスも通しにくくなり、ボールを下げる選択肢しかなくなります。

逆サイドにボールを蹴られないために、どのような守備がいいのかといえば、「相手をヘッドダウンさせる守備」が大事になってきます。
プレスが寄せてくるのが早ければ、ボールを守るべくヘッドダウンしなければなりません。そうなると逆サイドまでの視野は確保できないし、サイドチェンジには大きな動作が必要なので距離を詰められると蹴りにくい状況が生まれます。
こうなったら守備側の勝ちです!

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この形に持っていくには、2トップの守備が必要不可欠です。
サイドハーフのファーストディフェンスの質が悪くなってしまう理由の1つとして、その前にサイドに追いやるための2トップの守備が良くないことがあります。
2トップの守備が緩いと、中央に簡単にボールを通されてしまいサイドハーフの選手は中に絞って守備。SBに落とされたら再びスプリントしなければなりません。そして逆サイドに展開、1対1で勝負しなければならない状況を作ってしまいます。

2トップ、FW的選手に守備をやらせるのは難しいことです。
理解力、モチベーションと多くの課題に直面することになります。
松田式4-4-2では、2トップの守備範囲としてペナルティーエリアの端から端まで背後のボランチの位置を意識しながら横移動し、ボールを外に追いやればいいというシンプルなルールのもと行っています。それだけシンプルであった為、ブラジル人でさえ前線から守備をするようになったそうです。
規制を掛け、守備がハマった成功体験が「攻撃に繋がる守備なんだ」と前線からの守備の意識を芽生えさえます。

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最近、Jリーグでも札幌、湘南、松本をはじめ3バックを採用するチームが多くなっています。3バックの最大のメリットとして攻撃時、前線に両WBを上がらせて5トップを作れるところです。
こうなった際に松田式4-4-2は相手の5枚に対して4枚で対応しなければいけないので不利になるじゃないかという疑問が出てきます。

ここでも松田さんは「4-4-2で十分」と突き通します!

理由として、「相手が5人いようと6人いようと1つのボールに対して4-4のブロック、つまり8人で数的優位を作れるから」ということです。

例えば、CBとボランチの間で2シャドーの片方がボールを受けようとしても、縦横にコンパクトな陣形を敷いていれば易々とグラウンダーのボールを通されることはありません。
浮き球で通そうとするならCBが前に出て、高さでの優位でボールをカットすることができます。
相手が1トップに当てて、こぼれ球を狙おうとしてもボールに対して数的優位を取れているのはこちら側なので、いち早くボールを回収できるという訳です。

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そしてボールを回収できたら、一気にチャンスがきます。
奪取時は相手のブロックが3-2という状況になっています。ボランチの脇、3バックの脇には広大なスペースが広がっています。
対してこちらはハイボールや裏抜けのターゲットになれる2トップを残し、サイドハーフがボランチの脇を取れている為、攻撃に転じやすい形になっています。ここを最大限活かしたのが2013年ラ・リーガを制したシメオネ監督率いるアトレティコ・マドリードや2016年の相馬監督率いる町田ゼルビアです。まずはサイドハーフにボールを渡して、攻撃に厚みを持たせることが重要になってきます。

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そして、最後に松田式における守備のディティールについて語っています。
・5分間集中
・相手の意図を読むこと
・パニックにならないこと

・5分間集中
私の応援する松本山雅では、2016年あたりから得点後すぐに失点してしまうことから反町監督は注意を促すように「クリティカルファイズ」という言葉を何度も言っていました。
サッカーにおいて試合開始と終了、得失点後の5分というのは気が緩みがちです。人間のメンタル面での問題なので永遠のテーマになってきます。
だからこそ、そういった5分間にこだわりを持つことは勝利へと繋がるのです。

・相手の意図を読むこと
相手のやってきそうな事を大枠でいいから掴むことが重要になってくると言います。
ボール周辺の雲行きを察して1対1の場面で先手を打つのも大事なことですが、もっと大きく試合を予想することが良い守備を生みます。
例えば、相手はロングボール主体のチームだから1トップの位置と裏抜けへのカバーを。パス主体のチームだから突っ込んで外されないようにチーム全体でスライドしながら取り所を見つけていこうなど。
そういったチーム全体を俯瞰して大枠で相手のやり方、ボールの取り方を意識していくことが大切です。

・パニックにならないこと
試合をしていると、どうしてもミスはつきものです。
「やっちまった」と思っていると、試合を通して負のスパイラルにハマっていきます。なので、「ああ、自分パニくっているなぁ~」くらいに緩く自分をメタ認知することが重要です。
これまでのトレーニングや試合を思い出し「あんだけやってきたんだから、今のは偶然」くらいのメンタリティで試合中はプレーし、後で何故起きてしまったのか自己分析することでより良いプレーヤーに成長します。

いかがでしたでしょうか。
ざっくりとですが「詳しいことは分かりませんが、サッカーの守り方を教えてください/松田浩」を紹介しました。
ゾーンディフェンスへの理解の1つの入り口となってもらえたら幸いです。
気になった方は、是非買って読んでみてください。
本編も面白いですが、おまけとして松田浩さんと岩政大樹さんによる対談や松田式ゾーンディフェンスのトレーニング方法まで掲載され、内容盛りだくさんです。

そして、これを実践しているのが松田監督率いるV・ファーレン長崎です。
先日、vsファジアーノ岡山を見ましたが、就任2試合目ながら全員がチェーンで繋がれているかのようなまとまった守備に美しさを感じました。
都倉選手の動きが素晴らしいです!
参考に見てみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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