見出し画像

海上コンテナ輸送業界の課題と対応について(1/2)

日本の国際港湾競争力の凋落

 2010 年(約 5.4 億 TEU※1)から 2020 年(約 8.0 億 TEU)までの 10 年間で、世界の港湾におけるコンテナ取扱個数は約 1.5 倍に増加しています(約 2.6 億 TEU の増加。)。その間、日本においては 1.1 倍程度の増加に留まる一方で(1,897 万 TEU → 2,139 万 TEU)、増加分に占める東・東南アジア各国(日本を除く)におけるコンテナ取扱個数の増加による影響が約 6 割を占めています。
(※1)TEUとは物流や港湾で使われる20フィートのコンテナに換算した貨物の量を表す単位。20フィートのコンテナ1個分を1TEUと呼び、40フィートのコンテナは2TEUと計算されます。

 特に中国港湾の国際競争力の向上には目を見張るものがあり、1990年代には世界のコンテナ取扱個数上位 10 港にランクインしていた横浜港や神戸港が、それぞれ 2020 年代には 72 位(横浜港, 286 万 TEU)、73 位(神戸港、282 万 TEU)と大きく沈む一方で、上海港(4,703 万 TEU)を筆頭に寧波港や青島港など上位 10 港に中国の 7 港がランクインしました。

 またこの間、特に北米・欧州航路において、コンテナ船の大型化が急速に進展し、2022 年~24年に竣工予定のコンテナ船のうち、約2割が満載の場合に概ね水深 18m 以深の大水深岸壁が必要とされる 14,000TEU 以上となっています。こうした動向を受け、海外の主要港においては、コンテナ船の大型化への対応やターミナルオペレーションの効率化など、大規模なコンテナターミナルの整備が進展しています。日本においても京浜港や阪神港で水深 16m 以深のバースが計 15 バース完成済みですが、海外の主要港に比べてコンテナターミナルが細分化されているなど、コンテナ船の柔軟な着岸・荷役やターミナル間での貨物の円滑な積み替え等の機能についてまだ不十分な状況にあるといわれています。

日本国内の課題

 船舶の大型化や船社間の連携の進展により、基幹航路の寄港地絞り込み等が進んでおり、特にコロナ禍においては運航スケジュールの遅延による寄港数の減少に加え、遅延等の影響を少なくすることを目的に寄港地を絞る等の対応により日本の港の抜港(※2)が大きな問題になりました。こうした対応によりスペースのひっ迫や運賃の高騰に拍車が掛かり、物流費の高騰によって商談が成立せず、当社の顧客企業においても輸出取引をあきらめた事例がありました。
(※2)抜港とは船が入港を予定していた港を飛ばしてしまうことで、寄港先を抜くことです。

 日本においても横浜港南本牧ふ頭における水深 18m のコンテナターミナルの整備など、コンテナターミナルの大型化を進めていますが、一方でそうした港湾整備が進展しても輸送貨物自体が少ない、という課題も抱えています。例えばアジア-欧州航路では 24,000 TEU クラスの大型船が就航していますが、直近の日本発、欧州向けの月間のコンテナ数は約 4 万コンテナ、欧州発、日本向けの月間コンテナ数は約 6 万 TEU となり、計 10 万 TEU /月程度の荷動きです。一方、欧州向けのアジア発全体では約 100-150 万 TEU/月程度の荷動きがあり、そうした大型船を日本発で就航させるメリットは船社にとって小さい考えます。こうしたことからアジア各国との物流利便性やリードタイム、価格競争力に差が生じ、その結果、欧州向け輸出を行う際には釜山港を経由するなど、ますます日本の主要港には貨物が集まらない悪循環が生じています。

 こうした影響は単に利便性や価格競争力のみに留まらず、例えば通常は五大港(東京港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港)を利用している荷主が BCP 対応で地方港からの輸出ルートの確保や開拓を検討しても、そもそも欧州向けに輸出するためのコンテナが地方港近郊において十分にストックされていないことから、BCP 計画の検討にすら至らない等の状況が生じています。

講じるべき施策:輸送手段の効率化

 コロナ禍において空コンテナの確保やスペースの確保ができなかったことは記憶に新しいところです。一方で、例えば日本の主要港である五大港における 2020 年の輸出コンテナ取扱個数について、実入りコンテナ個数は約 398 万 TEU に対し、空コンテナ個数が約 252 万 TEU と空コンテナの輸出によってスペースが埋められている状況が伺えます。なかでも東京港は実入りコンテナの輸出個数が約 87 万 TEU に対し、空コンテナの輸出個数が約 111 万 TEU と、実入りコンテナよりも空コンテナの輸出個数の方が圧倒的に多い状況です。コロナ禍においては空コンテナの確保やスペースの確保が課題となりつつも、実際にはそうした空コンテナが船腹のスペースを埋めつつ、そのまま輸出されていたことになります。

 日本海側各港から欧州・米州向けに輸出される際、釜山港等の近隣の大型トランシップ港からの輸送が多く行われていますが、スペースの確保においては日本発よりも有利な面がある一方で、太平洋側に位置する主要港からの輸送日数に比べてたリードタイムでは不利な条件となることや、また、そうした海外港においては様々な荷主の存在により、積み込みの優先権をめぐる争いから現地側での荷役状況をコントロールしにくいデメリットも挙げられています。

 日本は産業製品や自動車など高付加価値製品の輸出国であり、これらの製品は一般に大型で重いためコンテナでの輸送が難しく、多くは RoRo 船やバルク船を利用して輸送されています。このため、輸出と輸入コンテナ個数をバランスさせることはもとより不可能です。また、上述のとおり長距離を輸送する貨物については、日本海側各港から京浜港や阪神港に集荷することで、そうした国際基幹航路の維持を図る政策目標が掲げられていますが、日本海側各港から阪神港等を経由することで、リードタイムの優位性が損なわれることもあり、内航船の活用と併せ効率的な国内輸送の活用オプションを持つことも重要であると考えます。

 当社では 2024 年問題や脱炭素の観点からも、コンテナラウンドユースによる取組実現が国内輸送の効率化に寄与するものと考えています。次回の NOTE ではコンテナラウンドユースの有効性と課題等について触れたいと考えています。

当社のご紹介

 当社はサプライチェーン全体の効率化を通じて、社会や地域を支える仕組みの構築を目指しています。サプライチェーン全体の効率化の実現にあたり、海上コンテナ輸送業務の標準化・DXプラットフォーム“LOGI-CONEX” を介して、荷主と大手フォワーダーとのマッチングサービスを提供しているほか、海上運賃の共同購買事業や複数の荷主の輸出貨物と輸入貨物をマッチングさせることによるコンテナラウンドユース事業等に取り組んでいます。ご関心をお持ちの方はぜひ以下へお問合せください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?