IL-15, IL-21内包ナノ粒子を背負ったエンジニアT細胞による治療戦略
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けむ論文紹介(スペース)58
タイトル
Therapeutic cell engineering with surface-conjugated synthetic nanoparticles
https://www.nature.com/articles/nm.2198
【背景】
生体外で拡充したT細胞やエンジニアリングしたCAR-T細胞の治療における課題の一つは、移植後に生体内においてその活性や拡充能を失ってしまうことにある。移植したT細胞を生体内でも持続させるために、抑制分子の阻害、例えばTGF-βシグナル阻害などの取り組みが行われてきた。こうした生体内でのT細胞拡充のための薬物は全身的に持続的に行うと副作用につながってしまう可能性が出てきてしまうのが問題である。
そのため、生体内に戻す前に生体外でのガン細胞特異的T細胞の選定や、T細胞の拡充、効率的なスケールアップが重要な技術となってくる。それについては、Twitterの方でいくつか紹介してきたので合わせて読んでいただけると知識の関連づけになり理解が深まると思う。
https://twitter.com/kensho_2021pham/status/1329046708974706688?s=20
https://twitter.com/kensho_2021pham/status/1328321927371399168?s=20
とはいえ、これらの生体外拡充やスケールアップを効率的に行うだけでは、生体内の免疫抑制シグナルあるいはガン細胞の免疫抑制システムがあるため、エンジニアT細胞の持続性についての課題解決にはならない。
そこで本研究は、新たなアジュバントドラッグ(薬の賦活剤・補佐剤の総称)キャリアとして、ナノ粒子(Nano particles: NPs)を細胞に接着させるエンジニアリングを行い、NPsから免疫賦活サイトカイン(IL-15やIL-21)を放出させることで、生体内での持続化を目指した。
【結果】
(IL-15+IL-21)含有NPsを結合させたT細胞は生体内で拡充し長期間生存した
①Pmel-1 T(gp100特異的なTCRを持つCD8陽性T cell)のみ
②IL-15とIL-21全身投与+Pmel-1 T
③(IL-15+IL-21)含有NPs を結合させたPmel-1 T(今回の目玉)
ガン細胞種(Tumor)はB16F10 melanoma(高gp100発現)で、肺や骨髄にも転移が見られた状態。
マウスは事前にリンパ球除去を受けた。
①,②ではT細胞の生体内拡充が起きず、③では生体内拡充が起きた。
生存率が劇的に向上し、投与後30日でも移植T細胞が持続的に存在していた
【感想】
これまでの生体外拡充では、ある程度コントロールできる範囲が広かったのに対して、生体内となると大きく異なってくると思う。人それぞれで遺伝子背景、環境要因などに起因する免疫背景の違いが生体内でのコントロールを難しく、不透明なものにしてしまう。
そういったことから考えると、生体内でのT細胞拡充に成功し長期に渡って生存させ続けたという結果がとても意義深い研究である一方で、遺伝子背景が統一され、生育環境も同じ動物実験レベルでの効果であることは注意が必要。実際に、臨床応用を考えた場合にIL-15やIL-21がどのような副作用につながる可能性があるかは視野に入れる必要があると感じた。また、アジュバンドドラッグとしてIL-15やIL-21を用いているが、この他のアジュバンドドラッグへの応用が治療戦略の幅を大きく広げる気がする。
動物レベルとはいえ効果は劇的なので本当にすごいなと思う。今現在、10年前のこの研究がどのような臨床応用につながっているのだろうか?副作用低減にはテクノロジーによる局所デリバリーが必要不可欠だと最近は感じるようになった。