第3回目となる建設DX勉強会を開催しました!
【はじめに】
初回記事でもご紹介したとおり、建設DX研究所では、建設業界が抱える様々な課題を解決する一助として、建設DXに関する情報その他建設業界の未来に関する情報を定期的に発信しておりますが、建設DX勉強会では、単なる情報発信に留まらない取り組みとして以下の目的を達成するための活動を行っています。
こうした活動の一環として、2021年 11月 24日、第1回及び第2回に引き続き、「 第3回建設DX勉強会」を開催しましたので、今回はその模様をお伝えしたいと思います。
【勉強会の概要】
今回は「XRとBMI、その活用方法とこれから ~国内外建設業界でのXR活用現場のリアルと、その先のゴーグル不要の世界とは?」をテーマに掲げ、XR技術を活用した様々な取り組みをされているSymmetry Dimensions Inc.の沼倉氏と、脳科学をベースとしたVRサービス開発やブレインテック事業を手がける株式会社ハコスコの藤井氏に、メインスピーカーとして登壇して頂きました。
【Symmetry Dimensions Inc. の取り組み】
Symmetry Dimensions Inc.
XR(VR/AR/MR)技術開発、デジタルツインシステムの構築・活用を推進
https://symmetry-dimensions.com/jp/
スピーカー:代表者 沼倉 正吾氏
- Symmetry Dimensions Inc.は2014年設立。VRソフトウェア開発を専門に、様々な企業と共同でXR技術を活用したサービス開発に取り組んできた。
- 2018年より、空間・都市向けデジタルツイン(※)構築・プラットフォーム開発に尽力。インターネット上のオープンデータや各企業が提供しているAPIを接続し、独自のデジタルツインを構築できる「SYMMETRY Digital Twin Cloud」の提供を2021年7月から開始した。
- 「SYMMETRY Digital Twin Cloud」は、国土交通省が提供する3D都市モデルのオープンデータ「PLATEAU」をはじめ、国土地理院の高精度標高データ、GISデータ、点群データ、3DCAD、BIM/CIM、IoTデータ、人工衛星データ等の各種データフォーマットに対応。気象情報、交通情報、エネルギー、人流データ等、様々なデータの接続・一元化処理が可能である。
SYMMETRY Digital Twin Cloudでの3次元モデル
3Dのデジタル地球上にマッピングして、ユーザー独自のデジタルツインを構築
- 接続したデータをもとに構築されたデジタルツインでは、現実空間の可視化と、現在起きている事象のリアルタイムな反映が可能。都市計画、建設、災害対策など、様々な分野での分析・解析、シミュレーションへの活用が期待されている。また、スマートフォンやタブレット、PCでの共有はもちろん、ARやVRでの投影により、3次元空間でより分かりやすく情報を可視化することも可能。
【事例(1) 渋谷区デジタルツインプロジェクト】
デジタルツイン技術の活用によって、渋谷区民や渋谷区に関わる様々な人々 、企業とともにスマートなまちづくりの実現を目指すプロジェクト。渋谷区の都市構造・現状を把握し、都市の最適化を行うための取り組みである。第一弾として、再整備が進む笹塚・幡ヶ谷・初台エリアの玉川上水旧水路緑道(約2.6km)のデジタルツインの構築・可視化を実施。
デジタルツインで提供されているデータを、企業が自社のビジネスやプロダクトに役立てて新しい市場を生み出したり、近隣住民の意見・アイデアを表示させ、まちづくりに反映するなど、活用のあり方を検討中。企業も自社のデータをどの程度オープンにし、どのように連携していくかを模索している段階。データのエコシステムとしての確立を目指しつつ、現在進行形で市場を形成している。
【事例(2) 令和3年 伊豆山土砂災害でのデジタルツイン活用】
梅雨前線による大雨に伴い、令和3年7月3日午前10時30分頃、静岡県熱海市伊豆山の逢初川の上流部、標高約390m地点で発生した崩壊が土石流化。下流で甚大な被害が発生した。
土石流発生後、現状把握と二次災害の防止・安全対策を目的に、県の担当者や土砂災害の専門家、データ分析の専門家らによる産官学の有志が集まり、静岡点群サポートチームを結成。静岡県が進めていたデジタルツイン整備計画「VIRTUAL SHIZUOKA」によって取得されていた点群データや、ドローンで撮影した現地の映像データ等をSYMMETRYに接続し、被害範囲や発生源等を解析。通常2ヶ月かかる作業を数日で行い、スピーディーな初動対応を可能にした。
【建設・建築現場でのVR活用における課題】
- 2017年~2019年、Symmetry Dimensions Inc.(旧DVERSE Inc. )では、3DCAD、BIMデータをインポートしてVR化するソフトウェアを展開。実寸大の建築物を再現したVR内で、設計におけるイメージやアイデアを共有したり、合意形成ができる建設デザイン向けVRビューアー「SYMMETRY alpha」と、点群/業務に対応した「SYMMETRY 製品版」を提供。最終的に113カ国、2万ユーザーが利用するソフトウェアとなった。「旧SYMMETRY」は一定の成果と反響を得たが、スタートアップとしては惨敗と沼倉氏は分析。失敗の要因は以下の通り。
要因①
VRでの打ち合わせ・合意形成のニーズは確かにあるが、業務の中の一部であり、作業全体の置き換えには到達できなかった。
要因②
自動的にVRに変換し、空間の広さ、大きさ、奥行き、高さをスピーディーに伝える事に主眼を置いていたが、現場からはきれいなビジュアライズの要望が高かった。
要因③
設計・施工・維持管理の各フェーズに対応しようして機能を絞り切れなかった。また、企業により対応すべきCADソフト、プロジェクト管理が異なるため、対応しきれなかった。
要因④
VR機器の取り扱い・導入が煩雑。求められるPCハード性能も高く、導入にハードルがあった。
【総括】
VR活用を進めるためには、今までよりも「楽に」「速く」「安く」「安全に」仕事ができることで、益をもたらす以外にはない。VRは、現場の様子をより分かりやすく、きれいに伝えるといった今までの作業にプラスの価値をもたらすもの。ただ、現場の大多数にとっては、機器導入や作業等による負担が増えるものだった。顧客が求めているのはVR活用の結果としての作業の簡便化、あるいは合意形成スピードの向上といった価値であり、VRそのもの自体ではないという意識が弱かったと言える。
他方、顧客の困り事に焦点を当て、合意形成や作業の簡便化を図るような、顧客の負担をマイナスにする価値が求められていると実感している。新型コロナのパンデミックにより、遠隔での情報共有や打ち合わせが可能になるXRの価値は高まっている。デジタルツイン開発では、顧客の本当の課題に焦点を当て、XR本来の価値を追求していく。
【ハコスコ社 藤井氏のプレゼンテーション】
株式会社ハコスコ
VRサービスの開発・販売・運営、ブレインテック事業を展開
https://hacosco.com/
スピーカー:代表取締役 藤井 直敬氏
- 株式会社ハコスコは、藤井氏が理化学研究所の理研ベンチャー制度を利用して、2014年に起業。脳科学研究の実験装置として開発されたVRゴーグルを出発点に、スマートフォンを使ったダンボール製のVRゴーグル「ハコスコ」を開発。VR映像制作・配信にもワンストップで対応し、多くの人が手軽にVRを体験できるサービスを提供している。2020年からは、ブレインテック事業を開始。脳波の状態を測定・感知するウェアラブルデバイス等の販売をはじめ、海外のハードウェアメーカーや国内外の共同研究機関とも連携し、ブレインテックの普及に努めている。
【BMI ― Brain-machine Interface とは】
BMI(Brain-machine Interface)とは、コンピュータ等の外部デバイスと脳を直接結び付ける技術の総称。脳を操作することがBMIの目的で、脳の中から読み取った情報を外部デバイスへ入力して何らかの処理を行い、フィードバックループを作るというのが一般的な考え方。身体機能の回復や精神疾患の治療はもちろん、今後は一般の人々が日常的に使うインターフェイスとしての利用も期待されている。藤井氏は、人が閉じ込められている主観的な世界に介入し、境界を取り払うことが、BMIだと考えている。
脳から直接信号を読み取ったり、脳へ刺激を与えて情報を伝えるためには、開頭手術を行い、脳に電極等を直接接触させる必要があって非常に難しい。研究自体は1950年代から始まっており、現在の研究もその延長線上にある。
【BMIに関する直近の動き】
(1)イーロン・マスク、ニューラリンク社(Neuralink)設立
ニューラリンク社は、埋め込み型のBMIを開発する企業。2016年設立。チップの集積技術や電力管理といった開発のボトルネックを解消し、BMIの小型化・高精密化を実現。安定性と実用性を向上した。開発したチップは、糸のような高精細な電極を1,000本程度、脳に埋め込むもの。リアルタイムに脳の信号を読みだせる。
(2)ニューラルダスト
ホコリのような小さな粒状の超音波センサを脳の中に散乱させて、神経や筋肉の動き等をリアルタイムに感知。センサ同士で無線ネットワークを構成し、外部の機器で読み取る。ワイヤレスでバッテリーも不要。プロトタイプはすでに完成している。ニューラルダスト開発に取り組むスタートアップ、iota社(アメリカ・カリフォルニア州)をアステラス製薬が買収。今後の展開に期待。
(3)ステントロード
血管を内側から広げるために使う器具「ステント」の中に電極を留置し、血管を通して脳に到達させる。そこから無線で脳の信号を外部へ読み出すBMI。開頭手術の必要がなく、比較的安全かつ長期的に使用できる技術として注目を集めている。FDA(アメリカ食品医薬品局)承認済。
(4)光トポグラフィー技術
光トポグラフィー技術は、脳の血流変化を計測する技術。以前は、大がかりな検査機器が必要だったが、カーネル(kernel)社(バイオサイエンスのスタートアップ企業/アメリカ・ロサンゼルス)が、被るだけで脳の血流を記録するヘルメット型のデバイスを開発し、注目を集めている。
【総括】
BMIにおいて、さまざまな技術が登場しつつある。実験室でしかできなかったことが、一般的な環境できるようになってきた。脳信号を活用して何をするかを、誰もが考えられる時代が到来しつつある。
ハコスコでも、脳波を感知し、脳波の状態をスマートフォンで確認できるヘッドバンド「FocusCalm」を販売。脳の視覚野の電気信号を読み取り、入力コマンドへと変換するウェアラブルデバイス「NextMind」は、トレーニングを重ねると、見つめるだけでコンピューター上のボタンを点灯させたりできる。脳活動をベースにしたアプリケーションが開発されれば、いずれ考えただけでPCの電源をオフにするようなことが簡単にできるようになるだろう。今後そういった驚きが増えていく。
【総括 - 建設業界での活用について】
沼倉氏
Googleが開発を進めている言語モデルや、OpenAIが開発するGPT-3(Generative Pre-Training-3)といった言語処理型のAIは、文章だけではなく、Webのソースコードも生成できるようになってきた。これまで技術のあるプログラマーしかできなかったことが、頭の中でイメージしただけで、簡単にアプリケーションやソフトウェアを作れるようになるかもしれない。複雑な構造計算が必要となる橋梁の設計なども、人間が絵を描き、AIが補正を加えることで、建設可能な設計図が作れるようになる可能性もある。
建設・建築業界での活用については、XRやBMI等の技術起点で考えるのではなく、業界の課題をいかに解決するかに着目することが大事だと過去の失敗から学んだ。デジタルツインやスマートシティにおいても、プラスの価値ではなく、顧客のマイナスを軽減するという価値を追求することがスタートになると考えている。
藤井氏
BMIは、今は運動機能の補完や、精神疾患の治療といった医療分野にフィットしているので、その点に関してはコスト度外視で臨床試験が始まっていくだろう。今後一般の人たちが普通に使えるようになるまでには、相当なコストダウンが必要である。極めてディープテック的な産業ではあるが、要素技術は揃ってきており、低コストで機械学習のデコーディングもできるようになってきている。皆さんの手元に届くまでにはまだ時間がかかると思うが、温かく見守ってほしい。
【まとめ】
今回は「XRとBMI、その活用方法とこれから ~国内外建設業界でのXR活用現場のリアルと、その先のゴーグル不要の世界とは?」をテーマとして、様々な取り組みの紹介や最先端の研究事例をご紹介しました。BMIが更に進化していけば、将来的には、VR内で打ち合わせをし、頭に思い浮かんだアイデアをその場で具現化して、実際の施工へとつなげるというような時代がくるかもしれません。
建設DX研究所では、今後も多様な技術分野の専門家・第一人者をお招きし、建設DXにかかわるテーマに沿って有益な情報を提供するための勉強会を開催していく予定です。現存する様々な課題を一歩ずつ解決し、建設業界の未来をより良いものにすべく、その実現に向けた活動をこれからも続けていきたいと思います。