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建設DX研究所 第15回定例部会を開催しました!

みなさん、こんにちは。
「建設DX研究所」では、毎月1度、オフラインの定例部会を実施しています。
3月28日に、第15回となる定例部会を開催しましたので、その様子をダイジェストでお届けします。
今回は、建設DX研究所メンバーの株式会社Liberawareからの紹介で、株式会社DATAFLUCTの杉井様に登壇いただき、空間IDを中心とした建物内におけるデータ活用についてお話いただきました。
株式会社社DATAFLUCTは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の知的財産や知見を利用して事業を行うJAXAベンチャーとして2019年に創業。創業5年目にして大企業を中心に製造業やインフラを始めとした幅広い分野において、データ活用による中長期的な視点を持ったDX化を行われています。

第15回 空間IDと非構造データで新たな価値を創る!建物データ分析術


コロナ時代で再注目されたデータ活用

もともとJAXAベンチャーとして衛星画像の分析を行っていたDATAFLUCT社ですが、新型コロナウイルスの蔓延やリモートワークの普及で、これまで活用されていなかった埋もれたデータが企業で再注目されるようになったことを契機に、データの分析から社会課題解決型のビジネスを創出し、持続可能な社会の実装を目指すといった事業を展開されています。
例えば、近年大きな問題となっている物流問題については、商品需要を予測することで物流センターの配車計画と人員配置を最適化し、業務の効率化につなげた食品会社の事例や、商品データ・出荷データ・梱包材の価格データをもとに機械学習で最適な梱包材のサイズを算出することで、梱包を最小サイズにし、配送コストの削減を実現した化粧品会社の事例などがあるそうです。

データサイエンスで物流課題にもアプローチ

脱炭素を推進する取組としては、CO₂排出削減につながるような行動をアプリケーションを通して人々に登録してもらい、登録して付与されるポイントに応じて地域限定のクーポンなどのインセンティブが付与されるという仕組みの運営を通して、地域活性化を図りながら、把握が難しい生活者のCO₂排出量や削減量のデータを収集・分析する実証実験も行われています。この実証実験の結果は脱炭素社会の実現に取り組む企業のビジネスモデルの1つとして活用されていくそうです。

名古屋市での地域活性化と脱炭素を組み合わせた取組

また、身近な交通の領域では、観光シーズンや天候・気温といった外部データから需要の増加を予測し、これまで経験則を中心に行われていた鉄道の増便や車両編成数を増やすといった調整がより正確に行えるようになったという鉄道会社の事例も伺いました。このように、すでに私たちの生活周辺の多様な領域でデータ分析を通した課題解決が行われているとのことでした。

より正確な特急券需要予測で鉄道を必要とするより多くの人の利用が可能に

建物内におけるデータ活用「空間ID」とは?

こういったデータ活用の取り組みは建物内でも行われています。
杉井さんによると、建物内でのデータ活用では、空間上のある領域を重複することなく固有に示す「空間ID」という単位を活用することで、図面や建物内の利用者により蓄積されるデータから新たな価値を創出できるとのことです。この「空間ID」はまだ国内の取り決めで、経済産業省とデジタル庁などが共通規格として提唱し、現在ISOなどの国際的な規格の整備に向けた取り組みが進められています。
「空間ID」は幅60cm×奥行60cm×高さ50cmのボックス単位で現実空間を区切ったもので、そこにIDを付与するとともに、さらにそのボックスに空間情報、気象データ、災害データ、人流データといった様々なデータを属性データとして割り当てます。空間IDが無い場合、例えば、空間を移動するロボットやドローンは個々のセンサーで状況を判断しなければならず、データ処理に時間がかかり、かつ機器同士の衝突リスクもあります。空間IDによりデータが区画として整備されることで、ロボットやドローンを動かすアプリケーションの高速処理やAI予測エンジンの活用が可能になり、協調的に機器を動かすことができるようになるそうです。

空間IDの仕組み
空間IDによる基盤構築

実証実験も進む「空間ID」の活用

建物内の混雑予測を空間IDに落とし込んで活用することで、様々なサービス連携も可能になるそうです。実際に行われた実証実験では、GoogleMapsで提供されている混雑度などの過去の実績データと、建物レイアウトや人の動き、人数などのリアルタイムのデータとを組み合わせて分析し、さらにそこから予測した混雑度を空間IDに割り当てることで、ロボットや人の移動状況を可視化できるようになったとのことです。これまでロボットは自己のセンサーによって「進めるか、進めないか」の2択を判断していましたが、建物内の混雑度がデータとして可視化されたことで、都度都度の判断が不要となり、ロボットの動きが70%も効率化したとのことでした。また、ロボットだけでなくマーケティングの視点から活用すれば、特定の人物が通った際にその人物に合わせた適切なデジタルサイネージを表示させたり、ビル管理の視点から活用すれば、建物内のデジタルツイン化でデータを見える化して活用することもできるそうです。

今後の発展のために必要な要素は「人の介在」

ここまでお話いただいたのは「ロボット」が主体となって空間IDを活用した際にどう動けるかというお話でした。杉井さんによると、今後空間IDの活用で求められることは、人間が空間IDを通したコミュニケーションを行い、さらには空間に指示を出して得た情報を活用できるような基盤の構築だということです。例えば、空間IDと紐づいたSNSでの投稿が出来れば、タワーなど高層の建物にいるからこその特有の感想や情報が共有できます。また、オフィス内で特定の場所の物を片づけてもらいたいときには、場所を文書で表現せずとも空間IDを伴ったやり取りで要望が伝わります。こういった空間を利用した人同士のコミュニケーションができるということに加えて、DATAFLUCT社では、「Spatial Link」という、人間が空間IDを通してロボットやIoTへの指示出しを行いやすくする基盤作りが進められています。こういった基盤が整備されれば、空間上のどこから空間上のどこに関する指示が行われたのかをロボットやIoTに正確に伝達できるようになります。今後の構想としては、警備ロボットの生成AIと連携してAIに指示出しを行うことで地震後に建物の指定した箇所の状態確認などを行えるようになったり、空調などの建物設備と連携して1人1人に快適な空間を整備できるようになるなど、ロボットやIoTと人間が空間IDという基盤で相互的につながることで建物利用者にデータ活用の効果がより還元されるようになるとのことでした。

設備との連携で一人ひとりに合わせた空調設定が可能に
警備ロボットの生成AIと連携して指示出しが可能に

建設DX研究所事務局より

今回は「空間ID」という空間にデータを紐づけるという新しい考え方についてインプットいただきました。人は人生の9割を建物内で過ごすと言われているそうです。住居やショッピングモール、駅構内など、建物を利用することで気が付かないうちにデータを蓄積させているのだということにも驚きました。これらのデータが空間IDで整備され、社会基盤となることで、私たちの生活環境にも大きなメリットがありそうです。まだ日常生活で意識したことはありませんが、近い将来には大型施設などでこの空間ID活用の恩恵を受けることがありそうだと考えると非常に楽しみです。この枠組みは、大阪万博をまずマイルストーンとして国際化に向けた取り組みが進められるというお話でしたので、今後のルール作り、基盤構築にも期待が高まります。
建設DX研究所では、今後もこうした勉強会・定例部会を定期的に開催していくほか、情報発信・政策提言等の活動も実施していきます。 建設DX推進のためには、現状の建設DX研究所メンバーのみではなく、最先端の技術に精通する建設テックベンチャーをはじめ、数多くの事業者の力・横の連携が不可欠だと考えています。 建設DX研究所の活動・定例部会などにご興味をお持ちいただける方は、ぜひプレスリリースを御覧いただき、お気軽にお問合せいただけると嬉しいです。