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【前編】パブリック・アフェアーズのこれまでとこれから

はじめに

「建設DX研究所」所長の岡本杏莉と、メルカリの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」編集長の高橋亮平氏で、パブリック・アフェアーズ分野の情報発信の必要性、ルール作りにおいてベンチャーが果たせる役割などについて、対談を行いましたので、前後編の全2回に渡りその内容をご紹介します。
前編ではそれぞれがパブリック・アフェアーズの分野に取り組むまでの経緯や、企業が情報発信することの効果などについてお届けします。

なぜパブリック・アフェアーズ分野の情報発信を始めたのか

高橋:私がメルカリに入ったのは2018年だったのですが、メルカリの政策企画専従の1人目として加わりました。当時はまだパブリックアフェアーズ分野の担当である政策企画がチームにはなっておらず、リーガルチームの中の政策企画担当ということで、当時メルカリに在籍していた岡本さんとも一緒のチームでしたよね。メルカリでは、その後、政策企画チームはリーガルチームから独立し、今では15人規模になっています。
今日は、パブリック・アフェアーズ分野における情報発信がテーマということですが、私がメルカリの中で、政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」を始めたのは、入社から2ヶ月後の2018年8月で、先月で3周年を迎えました。

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merpoli(メルポリ)開設3周年
ー政策企画の見える化と情報発信の可能性を考えるー
https://merpoli.mercari.com/entry/2021/08/02

岡本さんは、今年5月に建設DX研究所を開設し、情報発信を始められました。そもそもなぜ、建設DX研究所を作ろうと思ったのでしょうか?

岡本:開設時の記事『「建設DX研究所」を開設します』の中でも書いていますが、建設業界は、私たちが住む家や働くオフィス、街・道路などのインフラを作るなど、人々の生活にとって欠かせないものであり、日本における市場規模だけでも60兆円超・500万人以上の人が働く巨大産業ですが、一方で、過酷な労働環境などが大きな課題となっており、就業者の高齢化も相まって、業界における労働人口は減少の一途をたどり深刻な人手不足に陥っています。
こうした中では、業界におけるDX化は非常に重要だと思っているのですが、一口に「建設DX」と言われても、どこから手をつけたらいいかわからない・関連する情報がなかなか得られないという方も多いかと思いますので、「建設DX」に対する疑問や障壁、これらを解決したり乗り越えていくためのヒントとなるような情報や、建設DX推進のための業界横断でのディスカッションなどを行っていける場にしていきたいと始めました。

建設DX研究所

髙橋さんは、メルカリでなぜmerpoliを始められたのか教えてもらえますか。

高橋:
当時は、メルカリ内においてもパブリック・アフェアーズ分野で情報発信をしていくという発想は、ほとんどなかったように思います。政策企画ブログを始めた理由については、そもそも僕がメルカリに入った理由とも関係するのですが、僕自身のバックグラウンドが、政治・行政・シンクタンクといったパブリックな分野でこれまで仕事をしてきたことがありました。日本の経済成長について、こうしたら成長していくのではないかと成長戦略の作成を働きかけたり、政党の選挙公約作成を手伝い、名目成長率が3%・4%等と書いたりするのですが、こうした経済成長を机上で描いても経済が成長していく訳ではありません。そもそも政治家も官僚もシンクタンクの研究員も基本的にはビジネスを行っている人材ではないことが多いので、特にこうした経済成長に関する政策形成や戦略構築については、もっと民間の第一線でビジネスを行っている人たちが関わった方がいいのではないかとの思いがありました。こうしたことを政治家や官僚だけでなくビジネス分野からの政策形成をとの意味合いから「第3のルールメイキング」が必要だと言ったりしています。
もう一つが、一昔前には、社会課題の解決は、「公務員が税金で行う」と言われましたが、こうした考えも大きく変わりはじめ、PFI(Private Finance Initiative)といった手法など民間活力の活用を含め、企業やNPO、市民までを巻き込んで社会課題解決の当事者にして行こうというPPP(Public Private Partnership=公民連携)の考え方などが出てきています。こうした考えに立って社会変革の必要性を考えた際に、民間企業の中でこうした意識を持った企業や経営者、人材はまだまだ少なく、ビジネス分野の方々に対して、政策企画分野の情報やビジネスにおいても関わることの有用性などを発信していくことで、少しでも関心を持ってもらう方が増えればとの思いがありました。
自分たちの情報発信にどれだけの価値や効果があったかは分かりませんが、社内においては、多くの場面で政策企画の重要性を認識していただけるようになったり、社外においても同様の取り組みを始めていこうという動きが増えてきたように感じており、この3年間でもだいぶ雰囲気は変わってきたなという印象を持っています。

パブリック・アフェアーズ分野の情報発信により期待できる効果

岡本:パブリック・アフェアーズ分野のブログって、当時、「珍しい」という印象があったのですが、企業のオウンドメディアでパブリック・アフェアーズ分野の情報発信という意味では稀だったのではないかと思います。こうしたブログでの発信をされていて、どういった形でパブリックアフェアーズの活動に役立ったか、どういう反響があるのかなど、実際に運用されていてどうだったか教えてもらえますか。

高橋:僕らの始める前にも、この分野でもGoogle・Amazonなど、外資企業はアメリカでこうした発信をしていました。ただ、日本ではこうした政策的・社会的な内容を発信しようというIT企業はあまりなかったように思います。そうした中で数少ない実施してきた企業が、例えば、ヤフーや楽天だったのだと思います。一方で、こうした大手以外のところがやるという発想は今まであまりなかったのではないでしょうか。その意味では、メルカリがmerpoliを開設して発信を始めたことで、イメージを変えた部分もあるのではないかと思っています。
メルカリとしては、パブリック・アフェアーズ分野の情報発信をしていくことで、「パブリック・アフェアーズ分野と言ったらメルカリだよね」という認識をしていただけるようになり、こうした分野に関心がある省庁関係者の方などが、転職の選択肢にも入れていただけるようになったというのもあるかもしれません。
これまでは、官僚の方々がITベンチャーへ転職するというのは、かなりレアケースであったかと思いますが、最近、メルカリも含めITベンチャーなどに行かれる方が増えてきたような気がします。官僚の方々が省庁を辞めても行政経験を生かせる場所として、こうしたパブリック・アフェアーズの分野の仕事があるということを認識してもらえ始めたような気がします。そこにこうした情報発信の影響もあるのではと思っています。
もう一つあるのが、政府や省庁が、民間の意見を聞こうとしてくれるケースです。これまで企業の話を聞くという際は、どうしても大手の企業や業界団体などが一般的でしたが、プレイヤーの一つとしてメルカリにも話を聞いておこうかという形になってきているように思います。

ルール作りにおいてベンチャーが果たせる役割

岡本:やはり存在感というか、プレゼンスが上がって来たということでしょうか。メルカリのこれまでのパブリック・アフェアーズ分野での活動の中で象徴的なものはありますでしょうか。

高橋:メルペイができて、フィンテック分野における活動があげられるかと思います。まだ法整備も整っていない分野であったため、政策形成の中で、国も民間に意見を聞くことはそれなりにあったのですが、通常は既存のプレイヤーに意見を聞くことになります。一般論ですが、金融政策においてはメガバンク等に話を聞くことが多いと思いますが、これまで金融事業を担ってきた事業者に、これまでやって来ていないフィンテックの分野についても意見を聞くことになると、当然、新たに事業を始めるフィンテックベンチャーにとって有利な制度設計になることは難しく、既存の既得権を持つ側に有利なルール形成になり、新規参入がより難しい環境が作られていく可能性があったりします。
これはある種単純化して説明した事例ではありますが、これまで政策形成において民間側の意見を聞こうとすると、どうしても大手企業を始めとした、これまでの経済を担ってきた方々から意見を聞く構造になっていたのではないでしょうか。
そうすると既存の法体系にどちらかというと守られている方々の声が強くなり、ベンチャー企業のようにこれまでになかった新たなビジネスを始めようという方々がルールメイキングに関わろうというチャンスはほとんどなかったのではないかと思います。
こういったルールメイキングの仕組みをどう変えていけるかというところは、今後、物凄く重要だと思っているのですが、そうは言っても、始めたばかりのスタートアップがリソースを割いてやり始めるというのはなかなかハードルが高かったりもします。その意味でも、メルカリのような企業が始めることによって、さらに多くのベンチャーがやってみようとなっていっているとすれば、良い影響と言えるかなと思います。

岡本:そうですね。ベンチャー企業でもパブリック・アフェアーズが大事だよねという先駆けのような存在になったというのはあるかもしれませんね。

高橋:そうなっているといいなとは思います。政治業界では象徴的に言われていたのは、シリコンバレーなどに行くと、UberやAirbnbが基本で、特に若者は宿泊場所をAirbnbで取って、タクシー会社が全滅し移動はすべてUberになったりしていました。これがシリコンバレーだけでなくアメリカ全土に広がり、世界に広がっていっているわけですが、日本だけがこうしたAirbnbやUberがそこまで浸透しませんでした。
これは良くも悪くも象徴的で、日本は、既得権に対する規制が物凄く強く、新規参入を難しくしている側面があるように思います。
これは外資だったからということもあるかもしれませんが、これが新しいビジネスに対して寛容になったら、もう少し異なった国の形があるようにも思います。
個人的に思うのは、Japan as No.1と言われたような経済大国であった時代においては、既存の仕組みを守っていけば、世界の中での経済大国という形を維持できる可能性もあったのかもしれませんが、もはや日本の経済はどんどん廃れていってしまっており、先進国という位置づけすらなくなりつつある状況のように感じたりします。そう考えると、既存のまま変えないというよりは、新しいものをどんどん生む国にしていかなければならないと思うので、もっとベンチャーを含めた民間を巻き込んだルールメイキングについても省庁や政治がリンクして連携していく必要があるように思います。

岡本:
日本だけのガラパゴス感がありますよね。UberやAirbnbは、まさにその象徴と言えそうですね。

おわりに

パブリック・アフェアーズ分野の情報発信にいち早く取り組んだメルカリ。その動きは徐々にベンチャー企業を中心に拡がり始めています。
後編ではよりパブリック・アフェアーズを深堀り、その必要性や課題感等について両者が持つ考えをお届けします。

■プロフィール
高橋 亮平(Ryohei Takahashi)
メルカリ会長室政策企画参事 兼 merpoli編集長、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、 神奈川県DX推進アドバイザー、国立大学法人滋賀大学講師ほか。1976年生まれ。元 中央大学特任准教授。松戸市部長職、千葉市アドバイザー、東京財団研究員、政策工房客員研究員、明治大学客員研究員、市川市議、全国若手市議会議員の会会長等を経て2018年6月より現職。AERA「日本を立て直す100人」に選出。著書に「世代間格差ってなんだ」(PHP新書)、「20歳からの教科書」(日経プレミア新書)、「18歳が政治を変える!」(現代人文社)ほか。
■インタビュアープロフィール
岡本 杏莉
日本/NY州法弁護士。
西村あさひ法律事務所に入所し国内・クロスボーダーのM&A/Corporate 案件を担当。Stanford Law School(LL.M)に留学後、株式会社メルカリに入社。日米法務に加えて、大型資金調達・上場案件を担当。
2021年2月に株式会社アンドパッド 執行役員 法務部長兼アライアンス部長に就任。