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スカイマティクス 渡邉善太郎氏インタビュー(後編)~リモートセンシング技術を活用した国産初のクラウド型ドローン測量サービス「くみき(KUMIKI)」~

【はじめに】

前回に引き続き株式会社スカイマティクス 渡邉善太郎氏のインタビュー記事をお届けします。今回は、建築業界にリモートセンシングサービスを普及していくための課題や、同社の今後の展望などをお伺いしています。

■プロフィール
渡邉 善太郎
株式会社スカイマティクス 代表取締役社長
早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同年三菱商事株式会社入社後、長年にわたり宇宙・GISビジネスに従事し、多数の新規事業創出、子会社経営を経て、2016年にスカイマティクスを創業。クラウド型ドローン測量サービス「くみき」などユニークな産業用リモートセンシングサービスを提供している。2021年J-Startup選出。
大江 太人
Fortec Architects株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。

ドローン購入・撮影サポートにも対応

大江:御社のサービスの内容と価格を伺って非常に驚いたのを覚えています。御社はどのような技術を使って、ここまでコスト削減と効率化を実現しているのでしょうか?

渡邉:私たちは点群データを生成する方法として、SfM(Structure from Motion=三次元復元処理)という技術を利用しています。このSfMは、モノを立体でとらえている人間を例にして考えると分かりやすいです。人間は、見え方の違う右目と左目で同じ一点を見たときに生じる「視差」を脳内で処理し、立体でモノを見ています。SfMも同様に、同じ点が重なるように多視点から画像を撮って重ね合わせ、三次元復元処理を行っています。

渡邉:6ha程度の点群データは、300枚ほど画像があれば生成できます。ドローンでの撮影にかかる時間は、5分〜10分程度です。その後の画像処理は当社独自のアルゴリズムですべて自動化していますので、例えば午前中にドローンで撮影したデータを取り込めば、夕方には点群データの生成が終わっています。これまでは施主に現場の状況を説明するとき、設計図を見ながら赤ペンで進捗を書き込んだり、スマートフォンで撮影した画像を見せる程度だったかと思いますが、「くみき」で前日に処理を行えば、当日に3Dモデルを活用して臨場感のあるプレゼンをすることが可能です。

岡本:ドローン自体は開発されていないんでしょうか?

渡邉:はい。ドローンは開発していません。「くみき」はどのメーカーのドローンにも対応していますので、お客様がお持ちのドローンを使っていただいています。ただ、以前は早期にドローン測量に関心を持っていたアーリーアダプター層のお客様が多く、みなさんすでにドローンをお持ちだったのですが、最近では「ドローンはないが興味がある」といったお客様も増えています。「何を買ったらいいか分からない」というお客様も多いので、ドローン販売会社と提携して最適な機種をご提案したり、撮影の講習も行い、お客様をサポートしています。

「くみき」は、改修工事の現場でも活用されはじめている

大江:御社の「くみき(KUMIKI)」が土木工事で活用されている事例を伺いましたが、建築分野での利用状況はいかがでしょうか。

渡邉:はい。建築前の造成工事において、土地の形状確認や事業の実現可能性を探るために「くみき」をご利用いただくケースは増えてきています。また、「くみき」は老朽化したインフラや建物の改修工事にもご活用いただいています。例えば、下記はドローンで撮影した配管の写真を「くみき」に取り込んで、画像処理とAIによるデータ解析を行い、発錆箇所を自動抽出した事例です。発錆の判定には、色や表面の浮きなど、さまざまなポイントを考慮しています。

渡邉:また、下記のように「被害度A=補修が必要」「被害度B=経過観察」「被害度C=対応なし」といった基準を設定しておけば、自動抽出する際に色分けして表示することができます。「被害度A」の箇所をピックアップして補修工事を行えば、メンテナンスコストを削減できます。

大江:補修が必要な箇所を洗い出せるのは、改修工事の現場で重宝されますね。ビル等の大規模修繕工事を行う際に、コストを考えてビル全体に足場をかけるか悩まれる事業者さんもいらっしゃいますが、「くみき」を利用して補修箇所を特定できれば、足場工事が必要かどうかの判断もスムーズにできそうです。
渡邉:足場組立にかかるコストは、みなさん悩まれるポイントです。例えば、これも、さきほどの事例と同様に、ドローンでタンクヤード全体を撮影して画像処理を行い、AIで発錆箇所を自動抽出した事例です。発錆箇所が全体に占める割合もわかるので、どのように足場を建てるべきかの判断にも活用していただけます。

渡邉:これは土木の事例になりますが、桟橋の点検でも実証実験を行っています。水上ドローンを走らせて桟橋の下面を撮影して3Dモデルを生成し、画像処理と解析をした上で、発錆箇所をヒストグラム形式で表示しています。長い桟橋のため、すべてを目視で点検すると時間も手間もかかりますが、3Dモデル上に表示されている赤い丸で囲われた発錆の多い箇所のみに絞って目視点検をすれば、大幅な業務効率化が期待できます。まずは、こうした点検業務や補修工事といった面で建築・土木業界でのコスト削減・品質向上に貢献していければと考えています。

渡邉:今後さらに計測の精度を上げられれば、建築現場においても日々の進捗管理や施工不良の発見などに役立てていただけると考えています。例えば、高層ビル建設工事の現場で、毎日ドローンを飛ばして撮影し、3Dデータを作成できるようになれば、日々の進捗もわかり、早期に施工不良を発見できるでしょう。施工不良が後になって判明して対応する場合、手戻りの規模が大きくなってしまいますが、毎日現状を把握して施工不良に対応できれば、より効率的に工事を進めることができます。アメリカでは、毎年施工不良で2兆円の損失が出ているため、現在ドローン測量の活用によって施工品質の向上に努めているそうです。今後は日本でも同様の動きが見られるのではないかと考えています。

スマートフォンでの点群データ収集を可能にしたい

大江:外部からの点検や進捗管理に活用できるとお話をいただきましたが、工場や建物の内部も測量して3Dモデル化できるようになるとさらに便利になると感じました。室内の場合、ドローンを飛行できる場所は限られると思いますが、今後は室内への展開も考えていらっしゃるのでしょうか?

渡邉:今は屋外でドローンを飛ばす案件が多いですが、「くみき」の簡便性の高さに注目していただき、現在では「屋内の3Dモデルを簡単に作ることができないか」といったお声も多くいただくようになりました。やはり今は屋内でドローンを飛ばすのは難しいので、レーザースキャナで取得した点群データを「くみき」にアップロードし、3Dモデルを生成しているお客様はいらっしゃいます。しかし、レーザースキャナは高額ですし、機械も大きいため、ドローンに比べると点群データの取得には手間もコストもかかります。ですから私たちは今後室内での点群データ収集にスマートフォンを活用できないかと検討をはじめています。

大江:前編で「くみき」は、土木公共工事測量の許容誤差に対応していると伺いました。建築工事の測量基準を満たす精度に到達できればさらに活用用途が広がるとは思いますが、現状でも屋内の点検や現状把握には十分活用できそうですね。

渡邉:そうですね。今は重要なポイントだけをウェブカメラで撮影をしているか、人が目視で巡回点検をしているパターンが多いかと思います。それならば、人が歩きながらスマートフォンで撮影し、そのデータから3Dモデル化するのが最も実用化が近くスムーズだと考えています。巡回する工数は減りませんが、自動的にデータが処理されるので、その後の画像処理やデータ出力の手間はぐっと削減できますし、点検や現状把握もスピーディーになると思います。

岡本:今はウェブカメラやスマートフォンでデータを残している会社も増えていますが、蓄積されたデータの二次利用などに悩まれている企業も多いと感じています。

渡邉:たしかに撮影したデータが活用されず、保存されたままになっているのはもったいないですよね。こうしたデータには位置情報が含まれているので、データを管理・活用する上では、地図上で管理するのが一番わかりやすいのではないかと私は考えています。GoogleMapは、地図情報をベースに店舗や観光地の紹介、クチコミ、交通手段など、さまざまな情報がレイヤーで管理されています。「くみき」も同様に活用していただき様々な情報を重ねて管理していただければ、現場の方々にもメリットがあると考えています。

建設現場のDXは、ドローン測量やICT建機といった「現場作業」と、データを取得した後の3Dモデル化や事務作業といった「現場以外の作業」、両方を考えなければいけないと思います。その点「くみき」は双方の業務効率化を実現できるサービスです。創業以来、社会インフラを支える方々が「危険な場所で働くことがないように」「煩雑な業務で疲弊しないように」との思いでサービスを作ってきたので、今後もスマートフォンの活用といった現実的なアプローチで現場の負担を軽減していきたいですね。

リモートセンシングを世界一社会実装する企業を目指して

岡本:では最後に、御社の今後のビジョンを教えていただけますでしょうか。

渡邉:私たちが最終的に目指しているのは、「産業版GoogleMap」のような存在です。例えば、グルメアプリはたくさん種類がありますが、最終的にレストランの場所を確認するときには、どのアプリもGoogleMapが立ち上がります。このGoogleMapと同じく、例えば、点群編集ソフトやANDPADといった各種ツールを利用するときに、オルソ画像や点群データが必要になる場面では、裏で当社のプラットフォームが動いているような存在になりたいと考えています。

当社はAPI連携にも力を入れていますので、すでに大手企業やSIerとタッグを組んで「くみきAPI」を外部アプリケーションで活用する事例も出てきています。私たちは、リモートセンシングに特化していますので、他のサービスと競争することは考えていません。お互いの機能を活かしながら連携し、さまざまなサービスをサポートできればと考えています。

また、今後は海外のマーケット開拓にも力を入れていきます。商習慣は違えど、建設現場は世界中どこにでもありますし、測量業務も必ず行われる行為です。オルソ画像や3Dモデル生成に対するニーズも変わりませんし、当社のサービスは直感的に操作ができるので、ローカリゼーションの必要もないのです。今私たちがターゲットに据えているのは東南アジアです。その第一歩として、カンボジアで「くみき」を提供するために、カンボジアの公共事業運輸省と公共事業運輸局との連携もスタートしています。

リモートセンシングは、軍事や防衛など、政府機関で利用されることが多く、官需依存で成長してきました。これまでは衛星データやレーザースキャナ、画像処理ソフトなど、高額な費用を払える機関や企業しか手が届かない技術領域でしたが、今後はさまざまな産業・企業規模のお客様がリモートセンシングを活用できるようになるでしょう。リモートセンシングという高度な技術を誰でも使えるように民主化し、世界に社会実装していくことが、私たちの掲げる最終的な目標です。

【おわりに】

後編では、コスト削減と効率化を実現する技術力、建築分野での活用事例、今後の展開・ビジョンなどについてお伺いできました。
点群取得からデータ生成までをその日のうちに完了できることなど具体的な事例も伺うことができ、現場の業務効率化のための導入イメージが湧いた方も多いのではないでしょうか。
高価なレーザースキャナーに代わり、スマートフォンで撮影された写真から点群生成も目指されているとのこと、これが実現されれば導入へのハードルがぐっと下がり、一気に普及が進むことも期待できます。
「産業版Googlemap」という非常にわかりやすい表現もありました。建設に関する必要な情報が、実は全てひとつのプラットフォームに紐づいているという世界観。すでに様々なアプリケーションやサービスがあり、今後もますます増えていくことが想像に固くない建設業界ですが、こうしたアプリケーションやサービスの相互のデータ連携がますます重要になってくるのではないでしょうか。

本研究所では、今後も建設DXに係る様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!