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狭小空間に特化した小型ドローン「IBIS」による点検管理DX

【はじめに】

前回に引き続き、株式会社Liberaware 林昂平氏のインタビュー記事をお届けします。今回は、建設・土木業界での活用方法を中心に、今後の展望などをお伺いしています。

■プロフィール

林 昂平
株式会社Liberaware 取締役
一橋大学卒業後、2009年に新日本製鐵株式会社(現:日本製鉄株式会社)へ入社。自動車業界向け鋼材の製販調整など、鋼材のサプライチェーンマネジメント、需要予測を担当。2011年、海外に活躍の場を求めて東レ株式会社に入社。浄水器の国内営業を経て、中国市場向け事業企画へ。中国での浄水器の販売戦略、生産移管、商品企画・開発を担当。その後は、東レの香港法人に駐在し、大手アパレル向け縫製品の生産管理を担当する。東レでの事業企画の経験を活かし、ゼロからの事業立ち上げに携わるべく、2020年にラクスル株式会社へ入社。印刷会社のサプライチェーンマネジメントを担当した後、印刷+広告の新サービスを開発。2021年、株式会社Liberawareへ入社。

社会インフラの点検にも「IBIS」が活躍

増井:前編では、製造業・鉄道事業者で御社のソリューションが活用されていることを詳しくお伺いさせていただきました。建設・土木業界においても、狭小空間の点検ニーズはあると思いますが、建設・土木業界での活用事例も教えていただけますでしょうか。

林:製造業や鉄道事業者と同様に、建設・土木業界でも設備点検にともなうニーズは高いです。例えば、箱桁橋の定期点検でも「IBIS」を利用していただいています。箱桁橋は、箱型に製作した桁を組んで渡している橋で、箱桁の中は空洞になっています。この箱桁内の点検は、点検孔から人が入って行う場合もありますが、中は暗いですし、有害ガスが発生していたり、酸素濃度が低下していたりと、人体への影響が懸念されます。そこで、ある自治体ではこの箱桁内の点検を「IBIS」で実施していただいています。

林:また、横断歩道橋の内部の点検に「IBIS」を活用している自治体もあります。横断歩道橋の内部は狭く、段差もあるので車輪型ロボットが中を進むのが難しいです。そこで、天井裏の点検で豊富な実績を持つ「IBIS」を採用していただきました。

林:そのほかの公共施設では、ごみ処理施設の点検に利用していただいている事例もあります。ごみ処理施設の窯炉(ようろ)は、内部を耐火物で施工しているのですが、高温で焼却を繰り返していくと耐火物が剥がれ落ちて設備を損傷したり、効率良く焼却ができない事態が発生します。窯炉の内部点検も、以前は炉内に足場を組み立てて、人が目視で点検を行っていましたが、この点検も「IBIS」での実施が可能になっています。現在では、ドローンで撮影した動画をもとに内部を3Dモデル化し、損傷箇所の判定にも役立てていただいています。高所作業や、点検中の落下物による災害発生のリスクがなくなり、足場架設のコストも削減できた事例のひとつです。

BIM化サービスも提供、修繕工事・更新工事に貢献

髙橋:撮影した動画データの解析や3D化もニーズがありそうです。建設業界での事例があれば、教えていただけますでしょうか。

林:現在、さまざまなBIM化サービスが登場していますが、そのなかで私たちが価値を提供できるのは、設備やインフラの老朽化にともなう修繕工事や更新工事の分野です。

建設から長い時間が経過している建物やインフラは、紙で情報が管理されているため、修繕工事や更新工事を行う上でさまざまな課題を抱えています。例えば、何冊もある図面台帳から情報を探し出すのに苦労したり、図面の情報と現況が異なっていたり、そもそも図面がない…などといった事態も発生しています。点群データで状況を把握できる方もいらっしゃいますが、やはり現場の方々は図面ベースで業務を進めることが多いので、「ドローンで撮影した現況の点群データをもとに図面化してほしい」といったお声をよくいただきます。

例えば、2023年には、東京消防庁(消防学校)と協働し、庁舎図面のデジタル化に取り組みました。庁舎は築25年でそれほど老朽化はしていなかったのですが、紙での図面管理によって、修繕工事の入札事務が非常に煩雑になっていたり、図面と現況が異なるときの対応に苦労されたりしていました。また、図面や情報を理解している担当者が異動してしまうと、新しい担当者は一から情報を探し出さなければならず、業務の属人化も課題になっていました。そこで、庁舎全体の図面をBIMで管理し、誰が見ても分かる状態にしようとプロジェクトがスタートしました。

林:このプロジェクトでは、一般的な執務室はレーザースキャナで、設備室の上部や天井裏、地下ピットなど、人が立ち入りにくい場所は小型ドローンでと、空間に合わせた機器を併用してデータを収集し、BIMデータを作成しました。小型ドローンとレーザースキャナを組み合わせたBIM化プロジェクトは、大手ゼネコンとも一緒に取り組んでおり、オフィスビルでの事例もあります。

髙橋:点群データをもとにBIM化する際には、材質や部材などの情報入力が必要かと思いますが、自動処理で対応しているのでしょうか?

林:まだ自動処理はできておらず、人の手で入力している状態です。やはり新築とは異なり、「図面がない」「図面と現況が異なる」といったケースがあるので、映像と点群データを両方見ながら逐一確認したり、場合によってはお客様にも設備内容を確認しながら、当社のBIMオペレータが図面の作成・復元作業を進めています。

福島第一原発、能登半島地震の被災地支援でも利用が進む

髙橋:2024年に入ってから新しい動きも多くなっていると伺っています。最近のトピックスもぜひ教えてください。

林:「福島第一原子力発電所1号機 原子炉格納容器内部調査」において「IBIS」が、採用され、ペデスタル(原子炉本体を支える基礎部)内部など、これまで確認ができていなかったエリアの撮影に成功しました。2011年の東日本大震災以来、初めてのペデスタル内部の調査に成功したことは当社にとっても大きな意味を持っています。

また、KDDIスマートドローンと大林組と共同で、建設施工・災害情報収集における高度化(省力化・自動化・脱炭素化)の技術開発・実証のためのプロジェクトもスタートしています。これは、ドローンでの撮影で必要なデータを収集して3次元化データを生成し、その3次元データを建設管理システムに連携して一気通貫で管理していくようなシステムを構築するプロジェクトです。

能登半島地震の被災地支援への参加も、「IBIS」の新たな可能性を見い出すきっかけになりました。2024年1月1日の地震発生後に、「倒壊した家屋の内部など、狭い部分に入り込めるドローンは『IBIS』しかない」と、輪島市の要請を受けたドローン団体から連絡があり、当社のメンバーが1月4日に被災地へ出発し、1月5日に現地入りしました。

当初は、行方不明者の救助活動にドローンを活用することを想定していましたが、まだドローンでの捜索は一般的ではないため、実施することができませんでした。ただ、余震による二次被害が想定されるなかで、「家屋や商業施設、発電所などの内部状況を確認したい」といった要望が上がったので、その分野で「IBIS」での調査を実施しました。当社のドローンは狭小部向けで粉塵にも強いので、他のドローンにはできない調査ができ、その後も継続的にご依頼をいただいています。

「IBIS」による能登半島地震の家屋調査の様子

林:今回、被災地でドローンを飛行させる手続きは問題なく完了していたのですが、人命救助に関わるのは難しかったです。この経験を踏まえて、今後は「IBIS」を災害の救助活動にも利用できるような環境を整えていきたいと思いました。消防や自衛隊の方々は、過去の経験から場所を判断し、救助活動を行っていると聞きますが、ドローンの調査でいち早く救助者の位置が分かれば、いち早く人命救助ができますし、隊員の方々の安全確保にもなります。今後もドローンの活用に向けて、さまざまな関係者に働きかけを続けていきたいです。

2024年7月に上場、今後は海外でのサービス展開も視野に

髙橋:御社は、2024年7月に東証グロース市場に上場されています。今後の展開についても教えてください。

林:今後は、国内はもちろん、海外にも当社の技術を広めていきたいと考えています。橋梁やトンネル、設備に関わる課題は世界共通だと思いますので、海外での設備点検にも「IBIS」を利用していただけるように事業を展開していく予定です。また、小型ドローン以外のデバイス開発やデータ解析技術の向上にも取り組んでいきたいと思っています。

また、便利な機器や革新的な技術を提供している企業との連携も進めていきたいですね。当社だけで完結するというよりは、いろいろな企業と協働したり、技術やサービスを掛け合わせたりして、現場で困っている方々が手間なく安全に業務ができる、価値のあるサービスを創出していきたいです。

髙橋:最後に、建設DX研究所の設立から参加していただいている企業として、メッセージをお願いします。

林:DXの必要性が叫ばれるようになり、今まさに古い体制を変えるために頑張っていらっしゃるキーパーソンが増えてきていると感じています。私たちは、こうしたキーパーソンの活動を自社の技術やサービスで後押ししていきたいと考えています。同時に、建設DX研究所の参加企業として、DX推進を広く認知してもらうための活動やルール整備などにも取り組んでいきたいと思っています。今回は、大手企業の事例を多くご紹介しましたが、中小企業からの問い合わせも多くいただいていますので、屋内狭小空間の設備点検にお困りの方は、ぜひご相談ください。

【おわりに】

後編では建設・土木分野での活用から、今後の展望まで幅広くお話を伺いました。
橋などの狭小空間が生じてしまう公共設備や、官公庁施設のBIMデータ化など、特に継続した維持管理が必要な公共サービス関連の場所での活用が伺えました。
また、福島第一原発内の調査や、記憶に新しい能登半島地震での「IBIS」による現場確認は有事の際の画期的な確認手段となることを示唆する事例ではないでしょうか。今後災害時のユースケースの蓄積や、こういったDX技術の活用を進めるためのルール作りが必要ではないかと思います。
上場を経て、新たな段階に進んだLiberawareさん。点検管理の領域で、今後より一層建設DXの推進が期待されます。

本研究所では、今後も建設DXに係る様々なテーマを取り上げてご紹介しますので、引き続きよろしくお願いします!