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テクノロジー(全般)

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建設DXに関する最新テクノロジーについてのレポートです。
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記事一覧

ICON ‐ 3Dプリンターによる建設プロセスの革新に挑む

建築業界において3Dプリンターの技術が急速に注目され始めています。以前、建設DX研究所で筆者が執筆した記事「建設業界における3Dプリンターの可能性」では建物を建設する際に3Dプリンターを利用する際のメリットや今後の課題を取り上げました。無人で効率的な施工が可能となり、かつ、自由なデザインを実現しやすいというメリットがある一方、技術者の不足や法的制約が課題となっているのが現状です。 世界では建設3Dプリンター技術革新の競争が激しくなっていますが、その中でもアメリカのICONは技

米TestFitが開発を進める設計プロセスの自動化プラットフォーム

1990年代、コンピューターの急速な普及に伴い、建築業界にも大きな革新がもたらされました。それはCAD(Computer Aided Designの略)の誕生です。設計事務所や施工会社のオフィスに製図板が並んでいた時代が終わり、設計士が手書きで図面を書いていた方法が、CADの発明により全てPC上で行われるようになりました。これによって、製図板が実務で使われることはほぼなくなり、設計のプロセスが根底から変わりました。しかし、「Computer Aided」つまり「コンピューター

AIを活用したリモート現場管理 - Open Space

建物を建設するプロセスの特徴の一つは、プロジェクトに応じて敷地が異なり、建てられる建物も一品生産であることだと言えます。建材は工場で製造されるケースが多いですが、何万点という建材は各地から現場に運び込まれ、ほぼ全ての組み立て作業が現場で行われます。そのため、建設現場はモノに溢れ、かつ刻一刻と変化しています。 建材(モノ)と取り付ける作業員(ヒト)の流れを適切に管理し、工期内に建物を完成させることは現場作業員の重要な役割です。しかし、昨今の高齢化や、人手不足の問題により、現場

建設ファイナンスDX 〜Built Technologiesの挑戦

事業の元手となる資金を確保するためのファイナンスの仕組みはビジネスの根幹を担います。建設業界も例外ではありません。建設プロジェクトの特徴として、投資額が大きく期間が長い点が挙げられます。そのため、工事を行うための資材や機材の費用、作業員の給与や外注費など多額の資金が必要となる一方で、竣工までの期間が長いため、施主からの入金に先行して多くの資金が必要となることが一般的です。 また金融機関にとっても、建設プロジェクトのリスク評価は簡単ではありません。製造工程が同じで完成までの期

モジュール住宅供給による垂直統合型DXの挑戦 - Factory OS

以前の記事「カテラの経営破綻から学ぶ垂直統合型DXの限界と可能性」では、世界中から2,000億円以上の資金調達を行った後に経営破綻に陥ったカテラの事例から、建設業界において設計から部材の製造、施工、さらにはその後の維持管理までのサプライチェーンを垂直統合するビジネスモデルの実現がいかに難しいかをご紹介しました。 しかし、この「垂直統合型モデル」を住宅という領域に特化して実現している会社があります。今回の記事では、その最前線にいる米国の企業、Factory OSを紹介し、今後期

建設業界における、入札プロセスDXの可能性(後編)~米国における先進的事例:Building Connected~

前回の記事では建設業界における入札プロセスの仕組みと実態、事業主や施工会社がどのような課題を抱えているのかをご紹介しました。 前回の記事でもご紹介したとおり、最も課題となるのは以下の2点、①信頼できるパートナーとのマッチングと②コミュニケーションの負荷であるといえます。 課題① 信頼できるパートナーを見つけ出すことが困難 無数にある施工会社の情報をWeb上で拾うことは難しく、統合されたデータベースが存在しません。そのため、工事を頼む時に、そもそも入札にどの会社をエントリーす

建設業界における、入札プロセスDXの可能性(前編)〜入札の仕組み・課題とDXがもたらすメリット~

建物の値段とはどのようなプロセスで決まるのでしょうか?(なお、本記事の内容は住宅・店舗などの小規模建築から、大規模オフィスビルまですべて対象になります。) 工場で作られた製品とは違い、全く同じ建物は存在しません。外見が同じような住宅でも建てる場所が違うと基礎の形状や資材の搬入方法が異なるため、全く同じ見積内容となることはないのです。 全てが一品生産である建物の値段を決める方法は、厳密に分類すると多くの種類があるため、複雑で難しいと誤解されがちですが、実はエッセンスはシンプルで

建設業界における3Dプリンターの可能性

家を24時間で建てる、工場要らずで現場でビルを建てる、そんな夢のような建設プロセスを可能にする技術が3Dプリンターです。3Dのデジタルモデルを利用し、薄い層を積層させてあたかも立体物を「印刷」するかのように作り上げていくため、3Dプリンターと呼ばれています。これまでは比較的小さな造形物にしか利用されてきませんでしたが、2010年以降の技術革新により、巨大な建造物を取り扱う建設業においても注目を集めるようになり、長らく生産性向上を実現できていなかった建設業界を大きく変えるツール

第3回目となる建設DX勉強会を開催しました!

【はじめに】 初回記事でもご紹介したとおり、建設DX研究所では、建設業界が抱える様々な課題を解決する一助として、建設DXに関する情報その他建設業界の未来に関する情報を定期的に発信しておりますが、建設DX勉強会では、単なる情報発信に留まらない取り組みとして以下の目的を達成するための活動を行っています。 ・建設DX推進に関する現状及び課題の共有 ・建設業界の今後のあり方・課題解決方法等について検討・政策提言 ・産官学での垣根を超えたフラットな意見交換 (スタートアップ企業・行政

都市を記述すること~都市の三次元モデルとそれを基盤としたスマートシティ(後編)

はじめに半年ぶりに緊急事態宣言が解除され、都市に人が戻ってきました。一方で、オンライン体験の充実化によって変わった都市と私たちの距離感はこのまま固定化しそうにも思えます。リアルな都市との距離が開いていくのと反比例するように、サイバー上の都市空間が充実化しています。 前回の記事(都市を記述すること~都市の三次元モデルとそれを基盤としたスマートシティ 前編)では、スマートシティにおいて、都市OSに個人情報を含めた様々なデータアセットが提供されていくことの重要性についてご紹介しまし

令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業 中間発表レポート(後編)

【はじめに】 本記事では、前回に引き続き、2021年10月に実施されたBIMモデル事業の中間報告(※1)の模様をピックアップしてご紹介します。今回も興味深い内容となっていますので、是非ともご一読ください。 (※1)国土交通省は、「令和3年度 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」と銘打ち、設計・施工等のプロセスを横断してBIM(※2)を活用する試行プロジェクトについて優れた提案をした応募者に対し、国が当該プロジェクトに係る費用の一部補助を行う取組みを実

令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業 中間発表レポート(前編)

【はじめに】 国土交通省では、BIM(※)の活用による生産性向上等のメリットやその普及に向けた課題解決の検証等を行うワーキンググループを設置し、建築分野でのBIMの推進等を議論しています。 (※)BIM(Building Information Modeling):コンピュータ上に作成した主に三次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げなど、建物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム。 こうした中、国土交通省は、「令和3年度 BI

建築DXが環境負荷低減に貢献する可能性 - DPR ConstructionによるZEB化の取り組みから学ぶ

建設業界では建物を建てる際のコストに目が向きがちですが、一般的に、建物を建てるためにかかる費用(設計料や建設費を含む)は、ライフサイクルコスト(建物がつくられてから、その役割を終えるまでをトータルでとらえたもの)のわずか25%程度と言われています。(以前の記事「オーナー視点がBIMの生み出す価値を変える」を参照) そのため、建物のオーナーにとっては、完成後にかかる運用コストを下げることが重要になってきます。そこで生まれた概念がZEB(ゼブ)です。ZEBはNet Zero En

都市を記述すること~都市の三次元モデルとそれを基盤としたスマートシティ(前編)

はじめに 筆者は地図をみながら町を散策するのが楽しみの一つなのですが、地図を見ていて一番得にくいのは、高さの情報です。古地図、また現代の地図にも通常はZ軸情報、つまり3次元情報が与えられていないので、大地の痕跡がどれほどの高さ・深さだったかを知りたい場合には、主に文献調査に頼ることになります。 近世以前において、測量という科学的手法によって記録された空間がアウトプットされるのは専ら二次平面でした。3次元情報を持つ絵図や設計図でも、建築物や構造物の高さ情報を持っていたくらいで、