見出し画像

令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業 中間発表レポート(前編)

【はじめに】

国土交通省では、BIM(※)の活用による生産性向上等のメリットやその普及に向けた課題解決の検証等を行うワーキンググループを設置し、建築分野でのBIMの推進等を議論しています。

(※)BIM(Building Information Modeling):コンピュータ上に作成した主に三次元の形状情報に加え、室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げなど、建物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築するシステム。

こうした中、国土交通省は、「令和3年度 BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」と銘打ち、設計・施工等のプロセスを横断してBIMを活用する試行プロジェクトについて優れた提案をした応募者に対し、国が当該プロジェクトに係る費用の一部補助を行う取組みを実施しています。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回の記事では、2021年10月に実施された上記モデル事業の中間報告の模様をいくつかピックアップしてご紹介します。興味深い報告が多かったため、ボリュームの都合上、前編・後編の2本立てでお送りしたいと思います。

【株式会社アンドパッド】
~木造住宅における、BIMとクラウドサービスを用いた、CDEとECIの効果検証・課題分析

中間報告資料:
https://bim.services.jp/meeting/pdf/20211011_04.pdf

本件の骨子となるテーマは、①CDE(※1)下でのBIM活用を通じた生産性向上、②BIM活用とECI(※2)の採用に伴う工期削減の2点です。アンドパッド社が提供するクラウド型建設プロジェクト管理システム「ANDPAD」を用いてCDE環境を構築し、これとBIM技術やECI手法を組み合わせることで生産性向上を図っています。

(※1)CDE(Common Data Environment):建設プロジェクトの情報が格納され、プロジェクトに関わる各プレーヤーがアクセス可能なクラウド領域。

(※2)ECI(Early Contractor Involvement):従来型の設計・施工分離発注方式とは異なり、設計段階から施工者が参画し、施工の実施を前提として技術協力を行う手法。施工者の技術力とノウハウを設計段階から投入できるので、コスト縮減・工期削減を図れることがメリット。

具体的には、アンドパッド社が施主となった実験住宅「ANDPAD HOUSE」の設計・施工を通して「10年先に実現する設計・施工のDX」を先行実証するための産学連携プロジェクトで、木造建築におけるBIM活用の効果と知見を深め、共有していくことを目指しています。

画像1

●  ①CDE下でのBIM活用を通じた生産性向上

①に関しては主に以下の成果が上がっており、移動の手間がなくなることによる会議出席率の向上、通常参加しない役割の方(構造担当者など)の参加も可能となったことによる意思決定の迅速化といった副次的効果も生まれたそうです。

- データ共有の83%をCDE下で実行
- CDE下のチャット機能の利用により、電話・メールの回数が90%減少
- 会議のオンライン化により、これまで必要であった移動時間を300時間削減
- BIMおよびMRデバイス・ウェアラブルカメラの利用による遠隔監理の実施

画像2

●  ②BIM活用とECIの採用に伴う工期削減

②に関しては、各プレーヤーが早期段階から関わるECIの特性を活かし、施工を想定した実施設計と迅速な危機補足の結果、従来比1.5ヶ月、異常時比3ヶ月以上の工程短縮を実現しました。

- 設計段階で施工工程の製造部材を決定し、早期に作図を開始することで工期を1ヶ月削減
- 設計段階で施工性を考慮した仕様調整を検討することで、設計者・施工者双方の手間を省き、工期を0.5ヶ月削減
- ウッドショックの影響下、施工者からの調達可能部材の変更提案によりタイムロスを最小化

画像3

【スターツアセットマネジメント株式会社】
~建材と施工の電子商取引に向けたBIMデータ連携の効果検証・課題分析

中間報告資料:
https://bim.services.jp/meeting/pdf/20211011_06.pdf

本件は、BIMを通じたデジタルデータの活用により、建築分野における電子商取引を促進し、設計・施工・生産の各分野における生産性の向上や新たなサービスの創出を目指すプロジェクトです。建築生産プロセスに関わる様々なプレーヤー間でBIMを連携させ、BIMに紐づく建材情報を可視化・共有化することにより、発注価格の透明性を向上させるとともに、IPD(※)等の利用による発注者主導の効率的な発注形態の実現を目指しています。

(※)IPD:発注者、施工者、専門工事業者など、プロジェクトに関わる各プレーヤーが初期段階から協力することにより、有効な意思決定を実現するための協業形態。

こうした取組みにおいては、①発注価格の見積もりに必要な属性情報を上記目的に即した形でBIMに登録すること、②各プレーヤー(各領域の専門工事業者)がそのBIMから見積作成に必要な情報を取得する過程の効率性を向上させること、③実際に見積作成をするために各プレーヤーが使用している見積システムとBIMとの対応連携を十全化すること、といった要素が重要となります。

①については業界共通の属性情報や分類コードの採用の検討、②については各プレーヤーにおけるBIMビューアソフトへの習熟度向上(工数ごとに図面確認が必要な項目と、属性情報から確認できる項目の整理)、③についてはBIMとの対応連携のための見積システムの改良といった課題があり、本件プロジェクトでは、電気設備工事業者(照明器具)、金属製建具業者(アルミサッシ)、組立工事業者との受発注プロセスを通じて課題解決のための検証を行っています。

画像4

画像5

中間報告段階における各検証項目の内容、目標および課題と取組状況は以下のとおりとのことです。

キャプチャ

【大和ハウス工業株式会社】
~業務効率及び発注者メリットを最大限に創出する「役に立つBIM」の効果検証

中間報告資料:
https://bim.services.jp/meeting/pdf/20211011_07.pdf

本件は、業務効率および発注者メリットを最大化するために、①全国チェーン施設を題材にしたBIM標準化、②デジタルツインを用いた施設維持管理の効率化といった2つのアプローチから発注者メリットを検証するプロジェクトです。

①については、大和ハウス工業社が主体となってドラッグストアなど物品販売の全国チェーン施設の仮想物件を用いた検証を実施し、②については、施工を担当したフジタ社が主体となって大和ハウスグループ社の研修施設「みらい価値共創センター」を題材にしたデジタルツイン維持管理についての検証を行っています。

画像7

●  ①全国チェーン施設を題材にしたBIM標準化

各店舗に展開する「標準作成フェーズ」と「実行フェーズ」それぞれの検証項目を設けており、現在は標準作成フェーズの検証が進行中です。BIMを用いた共通データ環境でバージョン管理を行うことで更新事項が可視化され、情報伝達の手間の削減、使用データの明確化などを図っているとのことです。

実行フェーズの事業確定フローについては、共通データ環境でのチェックやスムーズな情報共有、建物モデルおよび内装モデルのバージョン確認、都市データを活用した周辺環境の確認、打ち合わせの回数や会議にかかる時間、そして承認までに要する日数等を検証し、意思決定の効率化を図っていく予定とのことです。

画像8

●  ②デジタルツインを用いた施設維持管理の効率化

こちらは、施設の維持管理に係る情報を蓄積していくためにBIM-FMシステム(※)を構築し、このシステムをルーティンワークとして定着させるためのフォローをしながら、施設の維持管理業務のデジタライズ効果を検証するものです。

(※)BIM-FMシステム:BIMを用いたファシリティ・マネジメントシステム。従来、設計、施工など個別プロセスでしか用いられてこなかったBIMを統合し、竣工後の維持管理に係るデータも含めて維持管理することで、建物のライフサイクル全体を管理するもの。

画像9

現在は、日常点検業務や中央管理アラート対応業務など、従来の維持管理業務のやり方との比較をしながら効果測定を行い、発注者を交えて定期的な経過観察とヒアリングを実施しています。

今後は、データ連携上の課題分析を行い、竣工BIMモデルから引き継いだ機器情報と実際に設置された機器との整合性担保などの課題について検討していく予定とのことです。

BIM-FMシステムの利用による効果は、建物管理業者のメリットだけでなく、オーナーメリットとしても反映されていくため、このシステム導入をきっかけといて施設管理業務全体がDXしていくことが期待されます。

【終わりに】

以上、今回は3つの案件について中間報告レポートをさせて頂きましたがいかがだったでしょうか。

アンドパッド社の木造住宅におけるBIMやCDE活用は、非住宅領域でも参照可能となりそうです。スターツアセットマネジメント社のBIMを起点とした電子商取引は、今後、電子受発注などへの拡張性を感じさせます。また、大和ハウス工業社の検証は、標準化×維持管理を進めることで今後、建築の製造業化などの発展性を予感させます。

このように、いずれの取組みも大変興味深く、最終的な成果についても引き続き注視していきたいと思います。近日、(後編)についても投稿させて頂きますので、そちらも是非ご覧ください!!