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賓頭盧(びんずる)さん

 善光寺の賓頭盧尊者像が盗まれるというショッキングな出来事が起きた。

 賓頭盧さんは、昔から「なで仏」と呼ばれ親しまれてきた仏さんである。昔の家では、おくどさん(かまど)のある土間(今でいうキッチン)には三宝荒神を祀り、居間には賓頭盧さんを祀るという文化があった。東大寺でも、修二会の食堂には賓頭盧さんがちゃんと祀られている。

 この賓頭盧さんが、どんな仏さんなのかについて少し記したい。

 賓頭盧さんは、十六羅漢(『法住記』)のお一人で、神通力に優れた方だった。神通力に優れた方といえば、十大弟子のお一人である目連尊者が有名であるが、賓頭盧さんも凄かったらしい。ただ、賓頭盧さんは、獅子吼第一といわれるほど、人々を教化し説得する能力が抜群であった。この点、目連さんは、神通第一と呼ばれているから、神通力だけでいうと目連さんには敵わなかったのではないだろうか。

 賓頭盧さんの神通力に関してこんなエピソードがある。

王舎城(古代インドのマガタ国の首都)のある長者が、木鉢を竿の先に吊して高く掲げ、「神通あるものはこれを取れ」といった。名だたる行者ら(六師外道)が試みるも徒労に終わった。これを大石の上で眺めていた賓頭盧は、同じ仏弟子の目犍連にそそのかされ、坐した大石とともに空中に躍り上がり王舎城の上を巡ったのち、やすやすと鉢を取って長者の家に下ったという。 この神通に長者は大喜びだったが、釈迦は「神通で凡俗の歓心を買うなど修行者のすべきことではない」と賓頭盧を戒めた。そして、「汝は我(釈迦)に随うことも涅槃に入ることもできぬ」とし、永く俗世にとどまり、世の大福田(善き行為の種を蒔く者)になるよう命じたという。

本田不二雄(2017)p.136

このように、お釈迦さんに咎められたことで、閻浮提(南贍部州...我々が今いるところ)に住することを許されず、寿命が500年と言われる「西牛貨州」に移ったのだ。そのせいか、多くの寺院で賓頭盧さんはお堂の中ではなく、外陣に安置されることが多いのである。

本来、お堂は仏さんを安置する場所であるから、ちょっと可哀想な話でもある。

東大寺の大仏殿でも、賓頭盧さんは軒下に安置されている。(二月堂下の食堂では、当然、中に安置されている。)


東大寺大仏殿

 この賓頭盧さんは神通力に優れていたからか、身体の悪いところを触れると治してくれると言われている。それが「なで仏」として親しまれてきた所以である。

 ただ、この東大寺大仏殿の賓頭盧さんは、かなり大きいので肩などの上の方に触れるのは身長が高い人でも厳しいのではないだろうか。

お近くのお寺にお参りした際に、賓頭盧さんを見かけたら触れてみてください。(COVID-19等の感染症対策のため、禁止されているところもありますので、そのお寺の指示に従ってください。)

さらにもし、可能な方は、家のリビングにお祀りしていただきたい。そして、食事する時に、賓頭盧さんにも一部お供えしていただけたらなと思います。

(参考文献)
1. 本田不二雄『ミステリーな仏像』駒草出版、2017年。

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