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浅川 B面
大学に入学して2日目のオリエンテーション。
朝から雨が降っていた。
4月は意外と雨が多くて憂鬱になる。
大学のシステム、カリキュラムの説明が昼過ぎから始まった。
時間ギリギリに教室に飛び込んで空いている席を見つけて急いで座った。
急いだ拍子に、机がガタンッと音を立てた。
隣に座っていた彼がチラッとこちらを見た。
彼を初めて見た瞬間だった。
同時に彼に一目惚れをした瞬間でもあった。
一瞬で彼を好きになってしまった。
「すいません」の意味を込めて軽く会釈をした。
人見知りな性格もあり、それ以上声をかける勇気はなかった。
1週間後、ゼミが振り分けられ教室に入るとオリエンテーションで横に座っていた彼も同じ教室にいた。
心臓がバクバクとなる音が自分でもわかった。
顔に出ないように平然を装うので精一杯だった。
彼は私のことを覚えているだろうか。
声をかけられるのを少しだけ期待してみるが勿論そんな映画みたいな事は起こるはずもない。
それから数週間して勇気を振り絞って声をかけることにした。
その日も朝から雨が降っていて、4月にしては少し肌寒かった。
一通り授業を終えて、彼を探しているとテラス席でタバコを吸っているのを見つけた。
やっぱり足が竦んで、緊張して指先も冷たくなっている。
けど、ここで声を掛けなかったら、きっと後悔する。
枯れそうな声を絞り出した。
「あ、あの、、、」
声が震えているのが自分でもわかった。
「あの、、、同じゼミですよね?」
やっぱり鼓動が速くなるのがわかった。
けど、そのあとは意外なほど話が弾んだ。
彼が福島出身ということ。
ギターをやっているということ。
ロックが好きなこと。
気がつくとあたりは暗くなっていて、雨も止みそうだった。
このまま、もう少し雨が降り続いてくれればいいのにと願っていたのに。
この日をきっかけに、彼と一緒にいる機会が増えて、ご飯を一緒に食べたり八王子の川沿いで夜通し語り合ったこともあった。
時が止まればいいのにと思った。
しかし、なかなか私たちの関係はそれ以上に発展はしないまま大学2年の夏を迎えた。
そんなある日、サークルの先輩から告白される事があった。
本当は好きでもなんでもなかったけど、彼の気を引きたくて、困らせたくて先輩と付き合うことにした。
彼の反応は少し困ったような複雑そうな感じで段々と距離を置かれているのがわかった。
それが少しだけ嬉しくて少しだけ幸せで、やっぱり前の彼との関係に戻りたくて数ヶ月で先輩とは別れることにした。
それから、私に恋人がいた事がなかったかのように、以前の彼との関係に戻れたけど、こんな宙ぶらりんな関係ではなくて彼の恋人になりたいと思った。
でも、自分から想いを伝える勇気はないまま、卒業式を迎えることになった。
もしかしたら、と少しだけ期待はしたけど、、、
数日後、卒業式の最後に彼と一緒に撮った写真を眺めながら想いを伝えようと思った。
今なら言える気がした。
現像した写真の裏に私なりの精一杯の想いを綴って彼に送る事にした。
『いつもそばにいてくれてありがとう』
今日の函館は快晴で、ポストに手紙を投函したあとは清々しい気持ちになった。
八王子の浅川沿いは今日も雨降りだろうか。
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