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浅川 A面
憂鬱な高校3年間を終えて、上京してきたのは8年前のことだ。
高校時代は友達もできず、福島の何もない町からも早く出たくて、大学は思い切って東京を選んだ。
きっと新しい街で新しい人生をスタートさせたかったのもかもしれない。
「東京」と言うだけで、選んだ街は八王子。
東京に胸を躍らせていたけど、駅から少し歩くと、風景はどことなく福島と似ていて知らない街だけど不思議と落ち着いた。
彼女とは入学後、程なくして出会った。
4月にしては、少し肌寒くて朝から雨が降り続く憂鬱な午後だった。
大学のテラス席でタバコを吸いながら雨が降るのを眺めていると後ろから彼女が声をかけてきた。
「あの、、同じゼミですよね?」
振り返ると、同じゼミの彼女が立っていた。
「あぁ・・」
そんな一言をきっかけに、雨が落ち着くまでの間、自己紹介も兼ねてお互いのことを話した。
彼女は高校時代は陸上で長距離選手だったこと。
家の近くのカフェでバイトを始めたこと。
メグ・ライアンとトム・ハンクスが出てた映画が好きなこと。
ホラー映画は苦手なこと。
気が付くと辺りは暗くなっていたが、雨は止みそうな気配だった。
それから僕らの関係といえば、ご飯を食べに行ったり、八王子に流れる川沿いでビールを飲みながら朝まで語ったりと何かと行動を共にする事が多く、気づけばいつもそばにいてくれた。
しかし、大学2年の夏だった。
「私、彼氏ができたんだ。」
突然の連絡とその内容にものすごく複雑な気分に襲われた。
メールの返信はしたけど、きっとそっけない内容だっただろう。
そして、何となく彼女との間に壁を作って距離を置くようになってしまった。
彼女はそんな雰囲気にすぐに気づいて声をかけてきたけど、邪険な対応をしてしまい、彼女を傷つけてしまっていただろう。
数ヶ月して彼女は恋人と別れて、また今まで通りの関係に戻った。
いつも通り飲みに行くし、電話もするし、一緒に帰る。
傍から見たら普通に付き合っていると思われていたに違いない。
ご飯を食べに行っても仲良くなった店員さんに「付き合ってどれくらいなんですか?」なんて聞かれることもあった。
そんな宙ぶらりんの関係が卒業式まで続いた。
そして、謝恩会も最後の飲み会もいつも通り終えた。
卒業式の1週間後、彼女から手紙が届いていた。
卒業式の最後に二人で撮った写真と裏には
『いつもそばにいてくれてありがとう』
とだけ書かれていた。
きっとそれは「さようなら」と言う意味なのだとすぐにわかった。
そして、僕は彼女の事が好きだったんだと気づいた。
あれから何度目かの春を迎えようとしている。
八王子の浅川沿いは今日も雨降りで、こんな日は不意に思い出してしまう。
友達だった彼女と初めて会った日を。
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