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Joeのはなし。

南の小さな島にも髪を切る店は何軒かあって。

どの店も当然、日本の美容室のようなセンスやテクニックは期待できないし、期待もしてないんだけど、とはいえ周りから「あそこはマシだよ」と言われた店で散髪してます。

茶色の長髪で、おばさんのようなおじさんのJoeがやっている店。ハサミは滅多に使わず、バリカンだけで器用にカットしてくれます。

いつも割と混んでる店だけど、ある土曜日の朝、早めに行ったら僕がその日最初の客で、一人。

Joeの英語と僕の英語はなんだかすごいズレててよく通じないんだけど、僕が日本人だと分かると、問わず語りにJoeの話をしてくれました。ときどき、なよっとした笑いを挟んで、ときどき、僕の肩を触りながら。

1989年からヘアーカットの仕事を始めた。
この島に来て12年になる。
若い頃、日本に行ったことがある。日本では週末にダンスの練習をしていたわ。
日本で稼いだ友達が何人もいる。フィリピンに戻ってジャグジー付きの大きなプールがある家や、コンドミニアムのビルを建てた。そこによく誘われたのよ。
日本は自分みたいなゲイでも問題なかった。性転換して豊胸手術してダンサーやって稼いだ友達もいる。私はそうしなかったけど。
あんな札束を見たのは、あのときだけだったわ。
マニラは日本と同じ、なんでもある大きな街。この島では稼げない。でも、いいの。使うところもないから。ここにマニラみたいなショッピングモールはないでしょ。服も靴も、中国製の売ってるものを買うだけ。
いつか、また日本に行くとき、あなた手伝ってくれる?

* * *

そうか、日本でフィピンパブが流行って、フィリピン人ダンサーがたくさんいた頃のはなしで、たぶんJoeは、ルビー・モレノと同じくらいの世代。

Joeはいつもより時間をかけて、僕の髪はいつもよりだいぶ短くなりました。



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