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シード期のファイナンス・最低限抑えるべきポイント


自己紹介

はじめまして。株式会社KenRi代表取締役兼法律事務所KenRi弁護士の西田と申します。
経歴としては、弁護士としてスタートアップ法務を専門にする法律事務所にてスタートアップファイナンスやM&A、訴訟、広告レビュー、労務などを取り扱ってきました。
2024年4月に株式会社KenRiを創業したばかりですが、ご縁に恵まれ、同年7月に7000万円の資金調達を実施することができました。
現在は、同社の経営とご依頼いただいたスタートアップのファイナンスなどを中心に弁護士業をしております。

(是非弊社のプレスリリースをご覧ください!)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000146613.html

弁護士としてスタートアップのファイナンスを見てきたことと、実際に自分が起業家の立場でシードファイナンスを実施したことの双方の立場から、シード期のファイナンスに関して記載できる注意点があるなと思ったので、noteを初めて書きます。

※あくまで個人の見解であり、正確性を担保するものではありません。


はじめに

起業したての皆さん、テキトーにシード期のファイナンスやっていませんか??
もちろん初めてのファイナンスだと、何もわからないと思いますが、少なくとも、私の周りの起業家と交流している限り、「え、そんなんでええの??もうちょい調べて相場くらい理解した方がいいのでは??」と思いながら話を聞いていることがよくあります。

「シード期なんて、売上立っていないし、よくわからん」との気持ちはよく理解できますが、資本政策は一度失敗すると、取り返しがつかないので、慎重に検討してください。

この後の注意点は、実際に周りの起業家を見ていて、よく聞く例を参考に記載しています。


シード期のファイナンスに関する注意点

1. 気軽に生株を渡すな!

「共同創業者に40%渡す」「エンジニアが採用できなさすぎて生株5%渡そう」などと考えていませんか?

結論としては、「なるべく代表者に株式を集中させるべきである」と考えています。

まず、相場を知る必要があります。
IPO時のCTOに就任するようなすごい経歴の持ち主であっても、IPO時の保有株式割合(SO含む。)は、高くて2%程度です。
数%を渡すというのは、過激な言い方をすると、自分の片腕を切り落とすくらいの覚悟が必要だと思っています。そのくらいの温度感です。

また、スタートアップである以上、意思決定のスピードが求められる中で、株式が分散していると、意思決定が遅れてしまう可能性が高まります。
株式比率でいうと、66.66…%、50%より多く株式を保有しているかがラインとなり、株主総会の意思決定への影響の有無が変わってきます。

持株比率が3分の2を超える場合にできることの具体例(株主総会の特別決議ができる)
・事業譲渡
・募集株式の募集事項の決定
・合併/会社分割といった組織変更の決定

持株比率が過半数の場合にできることの具体例(株主総会の普通決議ができる)
・役員の選解任
・計算書類の承認
・資本金の増資

そのため、最初からIPOまでに何回資金調達を実施するのか、それぞれのラウンドでどの程度ダイリューション(希薄化)させるのかを逆算した上で、どのラウンドまでに、66.66…%、50%より多く株式を保有しているかのラインを守るのか、しっかりと考える必要があります。

したがって、最初から資本政策表をしっかりと作っておくことが重要です。

次に共同創業者についてですが、たとえ共同創業者であっても、株式の保有割合は、上記の観点から、ある程度代表者に株式を集中させるべきです。

これに加え、共同創業者とは創業者間契約を締結する必要があります
「友人と創業しているから将来トラブルになることはない」と思っていても、相当数の共同創業者は、会社を去ってしまっているのが実情です。
その際に、株式を持ったまま去られてしまうと、会社の運営上、不都合が生じる可能性が高いです(上記の持株比率の話と重複するため、割愛。)。
そのため、退任時の株式譲渡義務などを定めておくことをオススメします。

2. バリュエーションは高ければ良いって話ではない!

J-KISS型新株予約権を用いる場合、バリュエーション(企業価値)は固定されず、算定は先延ばしにされますが、Cap額を定める必要があります。
(J-KISS型新株予約権の説明は、Coral Capitalさんをはじめ、世の中にありふれているので、割愛します。)

Cap額のイメージを持っていただくために、具体例を交えてざっくりと説明します。
たとえば、Cap額を3億円、ディスカウント率0.8として、3000万円の出資を受けたとします。

次回調達時:バリュエーション2億円
2億円×0.8の1.6億円に対して、3000万円を投資してもらったものとして、投資家に18.75%の株式をお渡しすることになります。

次回調達時:バリュエーション8億円
Cap額が適用され、3億円に対して、3000万円を投資してもらったものとして、投資家に10%の株式をお渡しすることになります。

Cap額より低い価格で株式に転換される例を私は現状見たことがない(そもそもその程度のバリュエーションしか付かないなら次回ラウンドに行くことが難しい。)ので、ほぼほぼCap額で転換されることになります。
なので、Cap額がシードラウンド調達時のバリュエーションだと思ってしまっていいと考えています。

次回ラウンドに行くための目安としては、バリュエーションが前回ラウンドの2倍〜3倍には、到達したいです。
その中で、バリュエーションを初期段階で高く設定しすぎると、次回ラウンドに行く難易度がシンプルに高くなりすぎます。

事業をこのまま進めていった場合に、次回調達時に売上がどの程度で、利益がどの程度出るのか、などの予測から、次回調達時に付くであろうバリュエーションを予想することが重要です。

※シードラウンドの相場について
事業内容にもよるので、一概には言えませんが、相場は1.5億円〜3億円くらいが私の感覚的な相場です。

冒頭でも記載しているとおり、株式を渡すということは、自分の片腕を切り落とすくらいの覚悟が必要なことです。
たまに数千万円のバリュエーションで調達しているスタートアップを見ますが、自分の片腕を安く切り落としてしまっているということを忘れないでください。

また、安い金額で、投資家にかなりの割合の株式を保有されてしまった場合、次回ラウンドで調達しようとした際に、他の投資家から敬遠されてしまう可能性が高いです。

自分を守るためにも、次回ラウンドをきちんと迎えるためにも安売りは絶対にしないでください。

3. エクイティ調達はカッコいい訳ではない!

「シリーズB 30億円」など、最近よく聞きます。
「大型調達をしていてカッコいい」などとのコメントをよく聞きますが、大型調達をすることが目的ではないです。
エクイティ調達しなくて済むならしないほうが絶対に良いです。

大型調達は、赤を掘りながら、開発をゴリゴリ進めていく場合や、PMFを終えて、他社に大きな差をつけることを目的とし、成長を加速させる必要があるために、仕方なくするものだと思っています。

株主が増えるということは、株主管理のコストもかかりますし、エクイティ調達自体に、社内のリソースを大きく割く必要があります。
また、何度も言っているように、株式を渡すということは、自分の片腕を切り落とすくらいの覚悟が必要なことなので、エクイティ調達をやらずに成長できるのであれば、やらないに越したことはないです

「本当に今調達しようとしているこのお金は必要なのか」は常に自問自答するべきだと思います。

一方で、矛盾するようですが、資金を集められるタイミングは限られているので、集められるタイミングで「えいや」と腹を決めて集めることも大事です。バランス感覚!

4. サマリー

  • IPO時の役員でも持株割合が高くて2%程度。代表者に株式は集中させるべきであり、初期に何%も株式を渡すべきではない。

  • 共同創業者とは創業者間契約を締結すべき。

  • 次回ラウンドを見据えて、予想売上などからバリュエーションを設定すべき。むやみやたらにバリュエーションを高く設定しすぎない。

  • ただし安売りしすぎない。

  • エクイティ調達は、「本当に今調達しようとしているこのお金は必要なのか」常に自問自答するべき。

スキームどうする

詳細は、個別にご相談いただければお話ししますが、注意喚起だけ。
シード期のスタートアップに投資した経験のない事業会社から出資いただく際などにあるあるなのですが、役員の選解任権など、シリーズAやBのリード投資家にしか与えられないような権限が、シード期の投資契約書に入れられてしまっているケースがあります

この場合、自分たちがシンプルに不利になるだけでなく、次回ラウンド以降の投資家にそのような投資家がいることが原因となって敬遠されてしまいます。

J-KISS の雛形そのままとかでない限り、必要コストとして、弁護士に相談されることをオススメします。

最後に

シード期のファイナンスは、失敗すると、その後のすべての会社の成長に悪影響を及ぼします。
資本政策、バリュエーションの考え方、投資スキームそれぞれについて、初期段階から専門家の意見を得ておく必要性は高いです。

もし、ご依頼されたい等ございましたら、ぜひDM等でご連絡ください。

私と同時期に、また、これからチャレンジされるすべての起業家がシードファイナンスが原因で躓かず、皆んなで新しい産業を生み出していくことを心より願っています。

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