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解説(第4章国会、第5章内閣)


これから、第4章以降の、統治機構について解説する。新憲法での統治機構を図に現わすと、以下のようになる。


第4章 国会

 
第71条 国会は、国の最高議決機関であって、全国民を代表して立法権を行使する。
第72条(1)国会は一院制とし、国民から直接選挙された議員で組織する。
(2)国会議員の定数は、200名とする。
 
(解説)
 
国会は現行憲法で「国権の最高機関」と書かれているが、試案では、立法、司法、行政の三権分立をはっきりさせるため、国会だけを最高機関とはしないで、「最高議決機関」と表現した。試案では、国会を二院制ではなく一院制にしたのが、大きな変更点である。今の参議院は、衆議院のカーボンコピーで、衆議院と同じ議論を繰り返すだけである。時間ばかりかかり非効率的で意味がない。参議院は「良識の府」で慎重に審議しチェック機能を果たすというが、今はそうなっていない。私も最初は参議院改革を色々考えたが、ふさわしい選挙制度が思いつかなかった。直接選挙にすれば、結局は政党化する。かと言って間接選挙では民意が反映されにくく、貴族院の復活みたいで、私は賛成しない。地域代表制も悪くないが、試案では全国知事会が地方自治関連法案の同意権を持つようにしたので(第140条)、その役割はそちらにゆずった。また試案では、立法に対するチェック機能は、憲法裁判所が十分行使できるようにしてある(第6章)。ウィキペディアで「参議院不要論」を調べたら、次のように書いてあったので、以下に引用する。
 
北欧を中心として、国連加盟国の過半数は一院制を採用している。
フランスの政治家エマニュエル=ジョゼフ・シエイエスが主張した「第二院は第一院と同じ意思決定をするのなら無駄である。また、異なる意思決定をするなら有害である」という伝統的な不要論がある。
 
・・・全くそのとおりだ。というわけで、思い切って一院制にした方が、シンプルで良いと私は思う。それから、国会議員の定数は200名とした。衆議院議員は現在465名で以前よりも減ったが、それでもまだ多い。フィンランドの国会は一院制で200名である。このくらいの人数のほうが、議員一人一人の責任の重みがあって、互いに良く知って議論し合うにも効率的なのではないだろうか。
 
 
第73条(1)国会議員は、各道及び都を選挙区として選出される。
(2)各選挙区の定数は、5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、比例配分される。
(3)各政党は、選挙区ごとに順位をつけない候補者名簿を提出する。無所属の候補者は、1名で1政党とみなす。
(4)選挙権を有する者は、候補者1名に投票する。候補者への投票は、その所属する政党への投票とみなされる。
(5)各選挙区内の各政党の議席数は、各政党の得票数に基づき、比例代表の原則で配分される。
(6)候補者は、選挙区ごとに、その所属政党に配分された議席数の内で、個人名得票の多い順に当選とする。
第74条(1)国会議員に欠員が生じたときは、前条第6項の順位に従って、繰り上げて補充し、その者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が6か月未満であるときには、これを補充しない。
(2)無所属の国会議員が欠けたときは、これを補充しない。
 
(解説)
 
現在の衆議院議員の選挙制度は小選挙区比例代表並立制である。これは元々、2大政党制によって政権交代する安定政権を作ることを意図して、1996年から導入された。しかし実際には、2009年から民主党が3年余り政権を維持しただけで、それ以外はずっと自民党政権が続いている。小選挙区制は、1選挙区に1名しか選べないので、第1党に極端に有利になる。野党が統一候補を立てれば当選可能性は高くなるが、各党の利害がからむので実際には候補者調整は難しい。比例代表を加えたとしても、中小政党の議席数は得票率に比べてずっと少なくなってしまう。これでは自民党の1党長期支配が固定化されて、政権交代はますます難しくなる。政権交代が起きないとチェック機能が働かないので、政権党は独善的になり腐敗していくばかりである。
これに対して比例代表制は、各党の得票率がほぼそのまま議席獲得率となるので公平であり、多様化している民意をより正しく反映できる。現在ヨーロッパを始め世界中で採用されており、選挙制度の主流となっている。比例代表制だと、単独で過半数を取る政党はあまり出ないので、連立政権となる場合が多い。「比例代表制は小党分立の連立政権となって政治が不安定になる」という意見があるが、ヨーロッパの大陸諸国では連立政権でも安定した政治が行われている。この試案では議院内閣制ではなく首相公選制を採用しているので、政権は国民が総理選挙で直接選択でき、たとえ国会で少数与党でも政権は維持できる(第95条)。国会が内閣不信任案を可決するには出席議員の3分の2以上を必要とするので、過半数を割ったからといってすぐに政権が崩壊するわけではない(第101条)。また、連立政権だと連立与党内で政策の調整が行われ、互いにチェックし合うので、腐敗が防止される。というわけで、この試案では比例代表制にしたのである。
比例代表制にも色々な種類があるが、ここでは「ブロック単位非拘束名簿式比例代表制」を採用した。ブロックは各道と東京都を単位としているので、全部で11選挙区となる(第132条参照)。5年ごとに行われる人口国勢調査の結果に基づいて、国会議員全体の定数200名を各選挙区に比例配分する。比例配分の計算方法はドント方式、アダムズ方式など色々あるが、それは法律で定めることにする。人口が最も大きい関東道でも定数は47名ほどになるので(2020年の統計から計算)、1議席を獲得するには得票率が最低2.1%以上でなければならない。人口が少ない選挙区なら、その当選ラインはもっと高くなる。もし全国で1区だったら得票率0.5%でも1議席を得られるので小党乱立になりかねないが、これならそれほど乱立にはならないだろう。非拘束名簿式では、各政党が順位をつけない候補者名簿を提出して、有権者は政党名ではなく候補者名に投票する。候補者への投票はその所属政党への投票とみなされる。そして選挙区ごとに、各政党の得票数に基づいて議席を比例配分する。各政党の議席配分が決まったら、その枠の中で、候補者個人名得票の多い順に当選とする。今の参議院の比例代表選出方法は、政党名と個人名のどちらかを記入するので、ある党の候補者は少ない票でも当選し、ある党の候補者はそれよりずっと多く得票したのに落選する、ということが起こる。この試案では個人名だけに投票して、当選ラインはほぼ同じになるので公平である。今の衆議院の比例代表は拘束名簿式なので、リストの順位が上に決められた候補者は、何もしないでもそのまま当選してしまう。しかし非拘束名簿式なら、有権者が候補者一人一人の意見や人格を見て選んで投票できるので、緊張感があって良いだろう。欠員が生じたときにも個人名得票数の順位に従って繰り上げ補充する。しかし、現行制度のように任期満了の直前に繰り上げ補充して、議員の任期が数か月しか残っていない、ということにならないように、残りの任期が6か月未満のときは欠員を補充しないことにした。
 
 
第75条(1)国会議員の任期は、4年とする。但し、解散された場合は、その期間満了前に終了する。
(2)国会は、総議員の4分の3以上の多数による議決をもって、自主的に解散することができる。
第76条(1)国会議員の総選挙は、その任期満了日の30日前の日から起算して20日以内に行われる。
(2)国会が解散されたときは、解散の日から30日以内に、国会議員の総選挙を行わなければならない。
(3)国会は、その任期が満了又は終了した後であっても、新たに国会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。
(4)国の緊急事態において総選挙を行うことができないときには、国の緊急事態が解除された日から30日以内に総選挙を行わなければならない。
(5)総選挙が行われてから2年以内、又は国の緊急事態においては、国会は解散されてはならない。
 

(解説)

 今の衆議院議員の任期は4年であるが、内閣が解散権を乱発しているので任期が満了することはほとんどなく、だいたい3年あまりで終わってしまう。この試案では、内閣の国会解散権は不信任案可決時に限定されているので(第101条)、任期途中の解散はそれほどないだろう。しかし、何か重要な問題があって総選挙をする必要があるときには、総議員の4分の3以上の議決で自主解散できるようにした。(今の地方自治体の議会も、4分の3以上の出席議員が5分の4以上で議決すれば自主解散できる。)それでも、たびたび解散と総選挙が行われると政治が不安定になるので、総選挙後2年以内と国の緊急事態のときは、解散できないことにした。国会議員の任期が満了又は終了(解散のときは終了と言う)しているのに、国の緊急事態のために総選挙ができないときは、新しく国会が組織されるまで、それまでの国会が継続して職務を行うことができる。しかし緊急事態が解除されたら、30日以内に総選挙を行わなければならない。
 
第77条 国会議員は、全国民の代表者であって、一部の選挙人による委任に拘束されることなく、良心に従ってその職務を行う。
第78条 国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
第79条 国会議員は、国会外における現行犯罪の場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、国会の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
第80条 国会議員は、国会内で行った演説、討論又は表決について、国会外で責任を問われない。
 
(解説)
 
 今の国会議員は、自分の選挙区の住民や、自分を支援してくれる利益団体のために、国から予算を運んでくる人になってしまっている。しかし国会議員は一つの地域の利益代表ではなく、全国民の代表者として、国全体の利益を考えて行動すべきである。なので、第77条では上記のように規定した。第78条、第79条、第80条は、現行憲法の第49条、第50条、第51条とほぼ同じである。ただ現行第50条に「法律の定める場合を除いては」とあるのは、国会法第33条によると「院外における現行犯罪の場合」のことなので、その規定をそのまま憲法に「格上げ」した。
 
 
第81条 通常国会は、毎年1月第3週に招集され、11月末に閉会する。但し、法律の定めるところにより、夏期休会その他の休会を定めることができる。
第82条(1)内閣は、臨時国会を招集することができる。
(2)総議員の4分の1以上の要求があるときには、その20日以内に、国会議長が臨時国会を招集しなければならない。
第83条 国会議員の総選挙があったときは、その選挙の日から30日以内に特別国会を招集する。
 
(解説)
 
 現行憲法では「常会」「臨時会」「特別会」と書かれているが、一般的には「通常国会」「臨時国会」「特別国会」と呼ばれているので、ここではわかりやすく一般の呼び方の通りにした。今の通常国会は、毎年1月中に召集され会期は150日間なので、6月中に会期終了となる。しかし、会期延長をめぐって与野党が「かけ引き」を行うことが多い。諸外国では通年国会が多く、今の地方自治体の議会も、通年の会期とすることができる(地方自治法102条の2)。この試案でも通常国会を1月から11月までとして、ほぼ通年国会のような形とした。但し法律によって夏期休会やその他の休会を定めることができる。臨時国会は、現行憲法第53条に、総議員の4分の1以上の要求があれば召集しなければならない、と書いてあるのに、政府の都合で召集されないことがあった。こんなことが起きないように、試案では「20日以内」に招集するよう期間を明記した上で。国会議長が招集することにした。また、現行憲法では天皇が国会を召集する形を取っているが、試案では内閣がそれを行うので(第104条)、召集ではなく「招集」と書いている。
 
 
第84条(1)国会の中に、国会議員20名からなる常設委員会を置く。
(2)常設委員会は、国の緊急事態において国会を開くことができないときには、国会の代わりに決議をすることができる。
(3)前項において採られた措置は臨時のものであって、次の国会開会の後10日以内に国会の同意がない場合には、その効力を失う。
(4)常設委員会委員は、各政党の所属議員数の比率により、各政党に割り当てて選任される。この選任は、国会議員の総選挙後に初めて国会が招集された日から10日以内に行われる。
(5)常設委員会委員長は、国会議長が兼任する。
(6)常設委員会は、国会議員が任期満了するか、又は国会が解散されたときでも、次の常設委員会が組織されるまで、引き続きその職務を行う。
 
(解説)
 
 ここでは「常設委員会」を新設した。これは、緊急事態などで国会を開けないときに、国会の役割を代行できる機関が常にあるほうが良いと考えたからである。名前は似ているが、予算委員会などの「常任委員会」とは別のものである。名前の通り「常設」されているので、国会が閉会、休会、解散、又は任期満了していても、いつでも活動できる。また、常設委員会は、公務員や裁判官を弾劾するための訴追を議決する、という役割も持っている(第114条、第115条)。
 
 
第85条(1)国会は、その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失わせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
(2)1年以上会議を欠席している議員は、その議席を失う。
第86条(1)国会は、その総議員の過半数の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
(2)国会の議事は、この憲法に特別の定めがある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
 
(解説)
 
 第85条第1項は、現行憲法の第55条とほぼ同じである。第2項では、1年以上会議を欠席している議員は議席を失うものとした。せっかく国民から選ばれても仕事をしないのなら、議員の資格はない。第86条の定足数は、現行憲法では3分の1以上の出席となっているが、これでは少なすぎる。諸外国の議会や法人の総会でも、定足数は過半数であることが多い。なので、ここでは「総議員の過半数の出席」とした。
 
 
第87条(1)法律案は、国会議員又は内閣がこれを提出する。国会議員は、1名で自由に議案を発議することができる。
(2)国会議員は、行政機関に対して、法律案作成に必要な調査研究資料又は情報の提出を要求することができる。
(3)選挙権を有する者は、法律の定めるところにより、その総数の1パーセント以上の署名によって、国会に法律案を提出することができる。
 
(解説)
 
 今の日本の国会では、政府提出法案がほとんどで、議員立法が少なすぎる。その原因の1つは、国会法第56条で、議案を発議するのに衆議院議員は20人以上、参議院議員は10人以上の賛成を要件としているからだ。それでここでは、どんな議員でも1名で自由に議案を提出できることにした。また、今の国会議員は法案を作成する能力も、それを支えるスタッフも足りない。なので、法案作成に必要な調査研究資料や情報を、行政機関に要求できるようにした。こうすることによって、国会議員一人一人の政策立案能力が高まるだろう。また、「国民発案」制度を導入した。有権者の1%以上の署名で、直接国会に法律案を提出できる。有権者の1%は、105万6千人ほどである(2021年の統計から計算)。もちろん議会制民主主義が基本ではあるが、この試案では他にも直接民主制の要素を多く取り入れている(第116条など)。
 
 
第88条(1)国会の会議は、公開とする。但し、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
(2)国会は、その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、一般に頒布しなければならない。
(3)出席議員の4分の1以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
第89条(1)国会は、その議長、副議長その他の役員を選任する。
(2)国会は、その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、国会内の秩序を乱した議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
第90条(1)国会は、総議員の4分の1以上の要求によって、国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
(2)前項の調査は、裁判を拘束せず、司法権の行使に影響を及ぼさない。
第91条 総理、閣僚及び法律の定めるその他の公務員は、議案について発言するために、何時でも国会に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、法律に定められた場合を除き、出席しなければならない。
 
(解説)
 
 第88条と第89条は、現行憲法の第57条、第58条とほぼ同じである。第90条は国政調査権についてである。今の国会では、国政調査権は有効に活用されていない。それは証人喚問をしようとしても、与党が過半数を握っているため、否決されてしまうからだ。そうならないために、試案では、総議員の4分の1以上、つまり25%以上の要求によって、国政調査権を発動できるようにした。これによって野党は、政府をチェックするという本来の機能を、もっとしっかり果たせるようになるだろう。しかし、司法権の独立を守るために、現在裁判で係争中か、判決確定後の問題については、国会における国政調査は影響を及ぼさないと規定した。第91条は、現行憲法の第63条とほぼ同じである。
 
 
第92条(1)国の選挙、投票及び政党に関する事務は、中央選挙管理委員会が管理する。
(2)中央選挙管理委員会は、委員5名で構成する。任期は4年とし、国会が、その出席議員の3分の2以上の多数による議決をもって任命する。
(3)中央選挙管理委員会の委員は、国会議員及びその他の公選による公務員を兼ねることができない。又、政党に所属してはならず、選挙及び投票権行使以外の政治活動をしてはならない。
第93条(1)公務員の選挙に関する法律案は、事前に中央選挙管理委員会に諮問し、その答申に基づいて、国会が議決する。
(2)前項の法律案の修正には、中央選挙管理委員会の同意を必要とする。但し、国会の出席議員の3分の2以上の多数で議決したときには、この限りではない。
 
(解説)
 
 中央選挙管理委員会を憲法上の機関とした。そして選挙だけでなく、国民投票や政党に関する事務も管理するようにした。選挙管理運営の政治的中立性は、近年ますます重要になっている。選挙が自分に不利な結果になると「これは不正選挙だ」と主張して、民主政治のルールを否定しようとするグループさえいるからだ。だから、委員の選出には、与党だけで決めないように、国会の出席議員の3分の2以上の議決を必要とした。また、選挙制度を改革しようとすると、議員は自分の当落に直接関係するので、国会で審議したらどうしても党利党略になりやすい。そこで、選挙関連法案は、事前に中央選挙管理委員会に諮問して、その答申に基づいて議決することにした。こうすることによって、国民の側に立った、より公正な選挙が期待できる。
 
 

第5章 内閣


第94条(1)行政権は、内閣に属する。
(2)内閣は、その首長たる総理及び閣僚で組織する。
第95条(1)総理は、国民が直接選挙する。総理選挙は、国会議員の総選挙が行われるときに、同時に行う。
(2)総理の選挙は、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。
(3)過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。
 
(解説)

「大臣」という呼称は、古代律令制から使われて来て「天皇の政治を輔弼する臣下」という意味なので、ここでは使わずに、内閣総理大臣は「総理」、国務大臣は「閣僚」と呼ぶ。そして試案では、いわゆる「首相公選制」を導入して、国民が総理を直接選べるようにした。今の議院内閣制では、国会が首相を指名するので、多くの場合、多数党の党首が首相となる。その党首を決めるのは、その党の党員だけである。自民党総裁選の場合は、派閥のパワーゲームや談合などで決められてしまうことも多く、国民は全くカヤの外である。自民党総裁選の報道を見ながら「国民が直接選べたらいいのに」と感じる人は、私以外にも多いのではないだろうか。「日本は天皇制だから議院内閣制でなければ」と言う人がいるが、ヨーロッパの立憲君主制の国で議院内閣制を採用しているからといって、必ずしも同じようにしなければならないわけではない。象徴天皇制と首相公選制は何ら矛盾せず両立共存できる。天皇は国政に関する権能を有しないので、天皇制の存在が、国の政治システムを決めるのに制約になることはない。
現在、地方自治体の首長は住民が直接選挙している。首長の党が議会で少数党になる、いわゆる「ねじれ」状態でも、首長の地位が安定しているので、それほど問題にはならない。むしろ、2元代表制なので、互いにチェックできる。地方自治体で、すでに首長公選制が定着しているのだから、国政でも可能である。国の政治のトップリーダーは、やはり国民が直接選ぶべきである。
 総理選挙は、国会の総選挙と同日選挙とした。そのほうが「ねじれ」は起こりにくいだろう。有効投票の過半数を得た者を当選として、過半数を得た者がいないときは、上位2名による決選投票を行う。フランスやブラジルなど、諸外国の大統領選挙の多くは2回投票制である。今の地方自治体の首長選挙は1回投票制なので、野党は統一候補を立てるのが難しく、保守も分裂したりする。候補者が多いときは、得票率が30%程度でも当選してしまうので、残りの70%が反対する候補者が総理となることになる。2回投票制なら、過半数の得票が必要なので、国民のより多数の支持を反映した結果となる。第2回目のときに、2位以下の候補者たちは連合しやすいので、1位の候補者と接戦になり、政権交代が起きやすいだろう。
 
 
第96条(1)総理選挙に立候補するには、国会議員又は国会議員選挙に立候補した者20名以上の推薦を必要とする。
(2)総理は、国会議員と兼ねることができない。
(3)総理候補者は、同時に行われる国会議員の総選挙にも重複して立候補することができる。但し、両方とも当選したときには、国会議員を辞めなければならない。
 
(解説)
 
 総理選挙に立候補するには、国会議員立候補者20名以上の推薦を要件とした。これは、国会内に支持基盤のない一時的な大衆扇動的政治家の立候補を防ぐためである。議院内閣制では首相は国会議員の中から選ばれるが、ここでは総理の国会議員兼職を禁止した。今は立法と行政が癒着してしまっているので、三権分立を明確にするには、このほうが良いと思う。但し、総理選挙と国会議員総選挙との重複立候補を認めて、両方とも当選したときには、その人は総理となって、国会議員は辞める、というシステムにした。こうすれば、ある党の党首が総理選挙で落選しても、国会議員総選挙で当選していれば国会議員になれるので、野党党首として国会で総理と直接討論できるし、次の総理選挙にもチャレンジしやすいだろう。
 
 
第97条 総理は、就任に際し、国会において、この憲法の遵守と職務の誠実な執行を厳粛に宣誓しなければならない。
第98条(1)総理の任期は4年とし、再任することができる。但し、合計して8年を超えて在任することはできない。
(2)国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。
 
(解説)
 
 総理は新しく就任するときに、国会で宣誓式を行う。これは、諸外国の大統領の多くが就任のときにそうするように規定されているので(ドイツやイタリアなど)、それを参考にした。総理の任期は国会議員と同じ4年で、再選できるが合計8年までとした。「合計」としたのは、以前の総理在職日数をカウントに入れる、という意味である。もし「連続3選禁止」と書くと、総理を一旦辞めた後しばらくしてから再登板することによって、何年も総理のイスに座り続けようとする者が起こるかもしれないので、それを防止するためである。また、総理の任期に関する憲法改正は、その提案当時の総理には適用できない(第151条)。国会議員の任期が満了又は終了したときには、総理の任期も同時に終了する。なので、国会議員総選挙のときには、毎回同時に総理選挙が行われることになる。
 
 
第99条(1)任期の途中に総理が欠けたときは、30日以内に国民の直接選挙による補欠選挙を行い、当選した者が残りの任期を全うする。但し、残りの任期が1年未満であるときには、国会が総理を選出する。
(2)総理の補欠選挙においても、有効投票総数の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときは、1週間後に上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。
(3)総理の補欠選挙において国会が総理を選出する場合、国会議員の有効投票の過半数を得た者を当選とする。過半数を得た者がいないときには、直ちに上位2名による決選投票を行い、多数を得た者を当選とする。
(4)国会議員は、総理の補欠選挙に立候補することができる。但し、当選したときには、国会議員を辞めなければならない。
(5)総理が欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、副総理がその職務を行う。
(6)総理と副総理が同時に欠けたときには、新たに総理が選出されるまで、国会議長が総理の職務を行う。この場合、国会議長の職務は、国会副議長が行う。
 
(解説)
 
 アメリカの大統領選挙では、副大統領もワンセットで同時に選出して、後でもし大統領が任期途中で辞めたときは、副大統領が大統領になる。しかし、アメリカの副大統領候補の選び方を見ると、大統領候補の支持層と違う支持層を補うために、大統領候補とは別のタイプの候補者が選ばれる傾向がある。副大統領は、あくまでもサブリーダーであって、その人がトップリーダーにふさわしいタイプであるとは限らない。また、大統領が任期途中で辞めるときというのは、何か重大な事件があってそうなることが多いので、その時点で副大統領が国民の過半数の支持を得ているわけではない。なので、ここではそのやり方にしないで、総理が辞めたときには、もう一度国民が直接選挙で選び直し、残りの任期を全うさせるようにした。このほうが、そのときの民意をリアルタイムで反映できるからである。しかし、残りの任期が短くて、就任したばかりなのにまた総理選挙をする、というのでは良くない。そこで、残りの任期が1年未満であるときには、特例として国会が総理を選出することにした。こうすれば、今の地方自治体の首長選挙のように、議会選挙との時期がずれないで、毎回同じサイクルで同時選挙にすることができる。
公選による補欠選挙でも国会での選出でも、やはり過半数を当選要件として、過半数を得た者がいないときには上位2名で決選投票をする。総理が辞任してから30日以内に、この補欠選挙を行う。その期間、総理不在では困るので、新総理が選出されるまで、副総理が職務を代行する。だから、副総理が総理代行を務めるのは最長30日である。もし戦乱やテロなどで、総理と副総理が同時にいなくなってしまった場合は、国会議長が総理の職務を代行する。もちろんそれも、30日以内に新総理が選出されるまでの間だけである。


第100条(1)総理は、閣僚を任命する。
(2)閣僚のうち1名は、副総理として任命される。
(3)閣僚は、行政各省庁の長官、委員会の委員長又は無任所閣僚として任命される。
(4)閣僚の人数は、20名以下とする。
(5)閣僚は、国会議員と兼ねることができない。
(6)総理は、任意に閣僚を罷免することができる。
 
(解説)
 
 総理は閣僚を任命し、そのうちの1名は副総理として任命する。「大臣」という呼称は使わないので、例えば外務大臣は「外務省長官」と呼ぶようにする。閣僚は20名以内である。現行憲法と違うのは、閣僚の国会議員兼職を禁止したことである。国会議員がもし閣僚になるなら、国会議員を辞めてからである。そして閣僚を辞めた後でも、次の総選挙まで国会議員に復職することはできない。今の与党議員は「大臣病」という言葉があるくらい、みんな大臣になりたがって、当選回数が多くなれば入閣させる、という傾向がある。能力がなくても大臣になれるので、行政のことは何も知らずに、大臣になってからその省庁の仕事を勉強する、という始末である。また、内閣改造も頻繁にあってすぐに辞めてしまうので、大臣がその省庁をリードすることができず、全部官僚まかせになっている。三権分立を徹底させるためには、やはり国会議員は立法に専念して、行政はその道のプロに任せるべきである。
 
 
第101条(1)国会が、出席議員の3分の2以上の多数をもって、内閣の不信任決議案を可決したときは、総理は、任期途中であっても解任され、内閣は総辞職する。
(2)前項の場合に限り、内閣は、不信任決議案の可決後10日以内に、国会を解散することができる。
(3)内閣の不信任決議案は、総理の選挙が行われてから2年以内は、これを議決することができない。
(4)内閣の不信任決議案が否決された後1年間は、同一の総理に対して、再び内閣不信任決議案を提出することはできない。
第102条(1)総理の任期が満了又は終了したときには、閣僚も同時に総辞職する。
(2)内閣は、総辞職した後も、新たに内閣が組織されるまで、引き続きその職務を行う。
 
(解説)
 
 国会が内閣不信任案を可決するには、過半数ではなく、出席議員の3分の2以上を必要とした。総理は国民の直接選挙なので、その地位を安定させて、簡単には辞めさせられないようにしてある。そして、内閣が国会の解散するのも、今のように首相が自由に決めるのではなく、不信任案が可決されたときに限定した。不信任や解散が、そうたびたびあったら政局不安定になる。なので、不信任案議決は、総理選挙後2年以内は禁止した。また、不信任案が否決されたら、その後1年間は、同じ総理に対して再び不信任案を提出できないことにした。総理が辞職したときは、閣僚も総辞職する。しかし、新しく内閣が組織されるまで、継続して職務を行うものとする。
 
 
第103条 総理は、内閣を代表して、一般国務及び外交関係について国会に報告し、閣議を主宰し、行政各省庁を指揮監督する。
第104条 内閣は、他の一般行政事務の外、次の事務を行う。
1,法律を誠実に執行し、国務を統括すること。
2,憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
3,国会を招集すること。
4,国会議員の総選挙及び国民投票の施行を公示すること。
5,外交関係を処理すること。
6,条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を必要とする。
7,大使及び外交使節を信任し、接受すること。
8,法律の定める基準に従い、行政機関の職員を任免し、その事務を処理すること。
9,法律案及び予算案を作成して国会に提出すること。
10,この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
11,大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。但し、事前に最高裁判所の承認を必要とする。
12,栄典を授与すること。
第105条 法律及び政令には、すべて主任の閣僚が署名し、総理が連署することを必要とする。
第106条(1)国会で議決された法律又は予算は、法律でその公布日を指定された場合を除き、その議決後30日以内に、内閣によって公布される。
(2)内閣は、国会の議決した法律案又は予算案について異議があるときは、その議決から10日以内に理由を示して、これを再議に付することができる。
(3)前項の場合、国会が出席議員の55パーセント以上の多数で再議決したときは、法律又は予算として成立し、内閣はこれを30日以内に公布しなければならない。
 
(解説)
 
 総理の職務には「閣議を主宰し」を加えた。そして、現行憲法では天皇の国事行為だった事項のほとんどは、内閣の職務とした。そのほうが実態に即しているからである。また、大赦等を決定するには、事前に最高裁判所の承認を必要とした。大きく変わったのは、内閣に法律案と予算案の拒否権を与えた点である。しかし、国会が出席議員の55%以上で再議決したときは、その法律案・予算案は確定する。総理の所属する党が国会で少数党であり、他党と連立しても過半数に届かない「ねじれ」状態のときには、内閣が提出した議案が通らないことが起こりうる。内閣と国会の2元代表制なので、このようなときは調整しないと、政治が停滞してしまう。今の地方自治体でも首長に拒否権があるが、議会が出席議員の3分の2以上で再議決したときには、その議案は確定する。ただ、もし3分の2以上にするとハードルが高すぎて、国会に対する内閣の権限が強すぎてしまうので、ここでは55%とした。
 
 
第107条(1)人事院は、法律の定めるところにより、国家公務員の採用、給与、任免、研修、懲戒その他の人事行政の公正の確保及び公務員の利益の保護に関する事務をつかさどる。
(2)人事院は、人事官3名で構成する。人事官は、国会の同意を得て、内閣が任命する。任期は4年とし、再任されることができる。但し12年を超えて在任することができない。
第108条 (1)行政機関の職員は、満70歳に達した時には退官する。
(2)行政機関の職員は、法律の定めるところにより、その離職後5年間は、以前在職していた機関と密接な関係のある団体又は企業に再就職することができない。
 
(解説)
 
 人事院は、内閣からある程度独立した中立的機関として重要であるため、憲法上に規定した。人事官の人数や任期などは、現行と同じである。第108条では、官僚の定年を70歳にして、退職後も年金と合わせて安定した老後を送れるようにする代わりに、天下りを禁止した。
 
 
 
 

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