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解説(第3章 基本的人権の保障)

第3章 基本的人権の保障

(解説)

 第3章のタイトルは「国民の権利及び義務」ではなくて「基本的人権の保障」とした。このほうが、その内容にふさわしいからである。そして、条文を並べ直して内容ごとに分類し、以下の7つの節にまとめた。

第1節 通則
第2節 平等権
第3節 精神的権利
第4節 政治的権利
第5節 社会的権利
第6節 経済的権利
第7節 身体的権利

こうしたほうが、種類別にまとまっていて、ただ条文を羅列するよりも分かりやすい。

第1節 通則

第19条 国民は、すべての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として与えられたものである。
第20条  この憲法が国民に保障する基本的人権は、国民の不断の努力によって保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に他人の権利を尊重し、公共の利益のためにこれを利用する責任を負う。
第21条 (1)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(2)国は、人間の尊厳と価値を保障し、その人格の自由な発展を保護する義務を負う。

(解説)

 第19条は、現行憲法の第11条と97条を合わせたものである。この2つの条文は大変重要であるが、内容が重なっているので、それぞれの表現を残しながら統合した。第20条は、現行憲法の第12条に対応する。「公共の福祉」という言葉は、あいまいで分かりにくい表現であり、「全体のため、お国のために個人を犠牲にする」というように誤解されやすい。なので、ここでは「公共の利益」と書いた上で、その詳しい内容は第22条で具体的に規定した。第21条は、現行憲法の第13条に対応する。ここでは「公共の福祉に反しない限り」を削除した。個人の尊重は、国政上最大の尊重が必要だからである。そして第2項では、人間の尊厳を保障することが国の義務であることを明記した。これはドイツ連邦共和国基本法第1条を参考にしている。

第22条 (1)国民の基本的人権は、憲法及び法律の規定に基づき、又は裁判所により正当に下された判決に基づく場合でなければ、これを制限することができない。
(2)基本的人権に対する制限は、憲法の基本原則を守るため、又は公共の利益、公の秩序、善良の風俗、他人の権利の尊重のため、民主的な社会において必要な最小限度の場合においてのみ行われるべきであって、国民の権利を不当に制限するようなことがあってはならない。
(3)この憲法のいかなる規定も、国、集団又は個人が、基本的人権を破壊し、もしくはこの憲法に定める制限の範囲を超えて制限することを認めるものと解釈してはならない。
(4)いかなる場合においても、基本的人権の本質的な内容を侵害してはならない。

(解説)

 基本的人権は、どのような場合に限り制限が許されるのか、具体的に規定した。まず手続きとしては、憲法、法律又は裁判所の判決によらなければ、制限できない。この制限は、憲法の基本原則(民主、人権、平和)を守るため、公共の利益のため、公序良俗のため、そして他人の権利を尊重するため、に限定される。その上で「民主的な社会において」のみ制限が可能である。逆に言うと、非民主的、独裁的で全体主義的な政治体制下では、人権を制限することは許されない、という意味である。そして、この制限は必要最小限度で行うものであって、不当に制限してはならない。それから「公共の利益」という言葉を利用して、憲法の範囲を超えて人権をいくらでも制限しても良いのだ、と解釈してはならない。最後に、この基本的人権の本質的内容は、どんな場合であっても侵害してはならない。その「本質的内容」とは「人間の尊厳は、人間が生まれながらにして本来与えられており、国や憲法以前に存在しているもので、絶対永久に誰からも侵されてはならない」という考え方である。これらの規定は、世界人権宣言第29条、30条、ドイツ連邦共和国基本法第19条などを参考にしている。

第23条 (1)個人は家族を構成し、家族は地域社会を構成し、地域社会は地方自治体を構成し、地方自治体は国を構成し、国は国際社会を構成する。それぞれの構成員は、互いに自立し尊重し合う。構成員はすべて、共同体の一員として共生し、公共の利益のために責任を負う。
(2)すべて国民は、人間の尊厳が保障される民主的な社会に対して、その連帯を維持するために必要な義務を負う。
(3)この憲法が保障する基本的人権は、私人相互の関係にも適用されなければならない。

(解説)

 近代の憲法は、個人対国家という関係の中で、個人の権利を国家権力から守るために憲法を制定する、という形であった。しかし現代社会では、個人対国家という枠組みだけでは人権を守れない。私人どうしの関係(家庭、学校、企業や民間団体など)、地域社会での関係、国際社会の関係など、もっと幅広く複雑な関係の中で、人権をとらえる必要がある。ここでは、社会の構成関係を、以下のように規定した。

(個人)→(家族)→(地域社会)→(地方自治体)→(国)→(国際社会)

 各構成員は自立しているが、共同体の一員として、連帯を維持して協調する責任を負う。自分の権利ばかり主張するエゴイズムや、自分の国や民族の利益だけを守ろうとする極端なナショナリズム、個性を否定する全体主義などは、当然否定される。

第24条 (1)父又は母が日本国民である者は、出生したときから日本国民となる。
(2)日本国籍の取得については、法律で定める。
第25条  国外に滞在する日本国民は、日本国政府の保護を受ける権利を有する。
第26条  日本国に滞在する外国人は、国際法、条約及び法律の定める基準に従い、基本的人権が保障される。

(解説)

 日本社会が国際化しているので、権利保障を受けられる者が誰なのかを、はっきり定義する必要がある。日本国民としての国籍取得は、今の国籍法で定める通りに、出生地主義ではなく血統主義を基本として、詳細は法律に委ねた。また、国内だけでなく外国にいる日本国民も、権利保障の対象となる。国際化に伴って、今の日本でも外国人労働者や留学生が増えている。彼らの人権が当然守られるべきである。しかしその内容は、日本国が締結した条約や、日本国の法律の基準に従って適用される。

第2節 平等権

第27条 (1)すべて国民は、法の前に平等であって、人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
(2)栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第28条  人種、民族、言語、性別、思想、宗教、社会的身分、出生、出身地又は身体精神的障害に対して、差別、憎悪、脅迫、暴力又は侮辱を扇動する言動は、これを禁止する。
第29条 少数民族に属する者は、その伝統文化及び言語の保護を受け、多様性が尊重される権利を有する。
第30条  身体的又は精神的に障害のある者は、その尊厳が守られ、自立して社会参加することができるように、国及び社会の支援を受ける権利を有する。

(解説)

差別禁止の項目の中に「民族」「言語」「思想」「宗教」「障害」などの言葉を加えた。「門地」という言葉は分かりにくいので「出生」とした。「出身地」を入れたのは、部落差別をなくすためである。第2項の栄典の限界は、現行憲法の第14条第3項とほぼ同じである。第2項にあった貴族制度の否認は、現代ではもう存在意味がないので削除した。第28条は、いわゆるヘイトスピーチの禁止である。第29条では、少数民族の権利を規定した。日本には以前からアイヌ人、琉球民族、在日韓国・朝鮮人などの少数民族が存在する。彼らが差別から守られ、その文化多様性が尊重されるべきだ。また第30条では、障害者権利条約や障害者基本法にある理念を明文化した。

第3節 精神的権利

第31条  思想及び良心の自由は、これを保障する。
第32条 (1)信教の自由は、これを保障する。
(2)すべて国民は、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
(3)いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
(4)国及びその機関は、いかなる宗教的活動もしてはならない。
(5)公の財産は、特定の宗教団体の使用又は行事のために支出してはならない。

(解説)

 これは現行憲法の第19条、20条の内容とほぼ同じである。現行憲法の第89条にある、公財産の宗教団体使用禁止規定は、表現をシンプルにした上に「行事」という言葉を加えて、第32条第5項に移した。政教分離なので、神社参拝の玉ぐし料、地鎮祭などの宗教行事に公費を支出するのは、当然憲法違反である。それから、現行憲法で「何人も」とあるのは「すべて国民は」に、「これを侵してはならない」とあるのは「これを保障する」に修正して、表現を統一した。

第33条 (1)集会、デモ行進、結社、言論、出版、報道、放送その他一切の表現の自由は、これを保障する。
(2)検閲をしてはならない。通信の秘密を侵してはならない。
(3)すべての報道機関は、真実に基づいた公平な情報提供に努め、個人の名誉及び人権を尊重し、社会倫理を守る責任を有する。
(4)報道機関に対する不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作は、これを禁止する。
第34条  すべて国民は、自己の個人情報を守り、それを管理する権利を有する。
第35条 (1)学問の自由は、これを保障する。
(2)国は、文化遺産、景観、伝統文化、科学技術、知的財産、芸術及びスポーツを保護し、文化及び学術の発展を奨励する。

(解説)

 表現の自由の項目の中に「デモ行進」「報道」「放送」という言葉を加えた。現代は情報化社会となって、自分の意見を表現する方法は多様化している。また、新聞やテレビ、インターネットなどによって、マスメディアの影響力も強くなっている。ここでは、マスメディアの倫理責任を規定すると共に、マスメディアに対する不当なコントロールを禁止した。そしてプライバシーを守り、自分の個人情報を管理する権利を明記した。また、学問の自由と共に、文化学術の奨励を規定した。これはイタリア共和国憲法第9条を参考にしている。

第4節 政治的権利

第36条 (1)公務員を選定し、罷免することは、国民固有の権利である。
(2)すべて国民は、法律の定める基準に従い、ひとしく公務につく権利を有する。
(3)すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。公務員は、公共の利益のために勤務し、国民に対して責任を負う。
第37条 (1)すべて公務員は、清廉と公正をもって、その職務を行わなければならない。
(2)総理、閣僚、国会議員及び裁判官は、法律の定めるところにより、その在任中、報酬のある他の職務に従事することができない。
(3)総理、閣僚、国会議員、裁判官及び法律に定めるその他の公務員は、その在任中毎年、活動の収支及び資産を国政監査院に報告しなければならない。
(4)公務員の職にありながら、贈収賄罪、選挙に関する犯罪及び法律に定めるその他の犯罪により刑に処せられた者は、その判決が確定した後10年間は、公務員となることができない。

(解説)

 公務員の選定罷免権の後に、第2項として公務就任権を加えた。これは世界人権宣言第21条を参考にしている。第3項では、公務員が国民に対して責任を負うことを明記した。第37条では、公務員の清廉公正義務を規定した。また、総理、閣僚、国会議員、裁判官は、他の職業との兼職を禁止した。そしてその在任中に毎年収支資産報告をすることを義務付けた。また、汚職や選挙違反をした公務員は、判決後10年間は公務員就任を禁止した。このように、公務員の倫理基準を厳しく規定することによって、日本政治の金権腐敗体質は変えられていくだろう。

第38条 (1)公選による公務員に対する普通、平等、自由、直接及び無記名選挙は、これを保障する。
(2)満18歳以上のすべての国民は、公務員の選挙及び国民投票において投票する権利を有し、義務を負う。
(3)満18歳以上70歳未満のすべての国民は、公選による公務員の被選挙権を有する。
(4)立候補における供託金制度は、禁止する。
(5)すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。
第39条 (1)国外に居住する日本国民は、法律の定める方法によって、選挙及び投票に参加する権利を有する。
(2)日本国政府により永住を許可された外国人で、満18歳以上の者は、法律の定める基準に従い、その居住する地方自治体の公務員の選挙及び住民投票に参加することができる。
第40条  すべて国民は、一人一人が主権者としての自覚を持って政治に参加し、意見の多様性を尊重し、互いに理解し合い、十分に話し合うことによって、健全な民主政治の発展に努めなければならない。

(解説)

 選挙権を18歳以上と明記すると共に、義務投票制とした。特別な理由なく投票に行かなかった者には、罰金が科せられる。このような義務投票制をしている国は、イタリア、スイス、オーストラリアなど、数多く存在する。今の日本は政治に無関心な人が多くて、投票率が低すぎる。これは国民が自分の権利を投げ捨てて、独裁政治を招くようなもので、民主主義の危機である。義務投票制を導入することによって、民主政治を守り発展させることは国民の義務であることを自覚させ、国民の政治意識を高めなければならない。このことは、第40条でも規定してある。民主主義とは何かを啓発する主権者教育も必要になるだろう。すぐに多数決を取るのではなく、少数意見を尊重して、相手の意見に耳を傾け、ルールを守りながら上手に話し合い、一致点を見いだしていくことを、子どものときから練習しなければならない。18世紀のフランスの哲学者ヴォルテールはこう言っている。

「私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は、命をかけて守る。」

・・・・これこそが真の民主主義である。

 それから、議員だけでなく、総理や自治体の首長も含めて、全ての公務員の被選挙権年齢を18歳以上70歳未満とした。今の日本には、もっと若い政治家が出て来てほしい。そして、高齢の政治家が引退しないで議席に居座り続けるのを防止するためである。それと同時に、官僚や裁判官などの定年も70歳とした(第108条、第123条、第129条)。そして、選挙に立候補するときにお金を預ける供託金制度は廃止した。売名や泡沫候補乱立を防止するための供託金だと言うが、今の選挙はお金がかかりすぎて、志がある人でもお金がないと立候補すらできない。アメリカ、フランス、ドイツ、イタリアなどでは供託金制度はなく、制度がある国でも金額は日本ほど高くない(ウィキペディア「供託金」参照)。泡沫候補は、お金によってやめさせるのではなく、選挙で国民が審判すれば良いのである。
 第39条は、外国にいる日本国民の参政権を規定した。郵便にするかネット投票にするか、具体的方法は法律に委ねた。日本にいる外国人の地方参政権は、今色々と議論されている。ここでは、永住権を取得している外国人に限り、地方自治体の選挙投票権のみ(被選挙権はない)を認めることにした。「日本に不利益になる、乗っ取られる」などという意見があるが、永住権を許可するかどうかは日本政府が決めるのだから、危険な場合は永住権を与えなければいいのである。日本が国際化社会になり、外国人が日本に何十年も住んで税金も払っているのに、政治に参加できないというのは、理にかなっていないと思うからである。

第41条 (1)すべて国民は、政治的意思の形成に参加するために、自由に政党を結成する権利を有する。
(2)政党活動の自由及び複数政党制は、保障される。
(3)国会に議席を有する政党は、法律の定めるところにより、その活動の収支及び資産を、毎年国政監査院に報告しなければならない。
(4)政党及びすべての団体は、憲法の基本原則を擁護しなければならない。
(5)団体の活動目的として、刑法律に違反する活動、又は憲法の基本原則を暴力によって破壊する活動を行った団体に対して、憲法裁判所は、その活動の停止、又は団体の解散を決定することができる。

(解説)

 政党は、現代政治において重要な役割を果たしているので、憲法の中にしっかり規定しておく必要がある。まず、政党結成と活動の自由、そして複数政党制を保障する。その上で、政党活動の収支資産報告を義務付けた。国会に議席を持つほどの政党となれば、公的な存在として社会的責任があるからである。また、政党は憲法の基本原則(民主、人権、平和)を擁護する義務を負い、それを否定し破壊するような活動をした政党は、憲法裁判所の判決によって、活動停止や解散が命じられる。これは、ドイツ連邦共和国基本法第9条や大韓民国憲法第8条を参考にした。

第42条  すべて国民は、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、その請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第43条  すべて国民は、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第44条 (1)すべて国民は、国の機関又は公共団体に対して、法律の定めるところにより、その事務に関わる情報の公開を請求する権利を有する。
(2)前項の権利は、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがある場合にのみ、制限を受ける。

(解説)

 第42条、43条は、現行憲法の第16条、17条とほぼ同じである。第44条では、知る権利、情報公開請求権を規定した。ただし、国家機密や個人のプライバシーなど、公序良俗を害するような請求は制限される。

第5節 社会的権利

第45条 (1)家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。
(2)結婚は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
(3)配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、結婚及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。

(解説)

 家庭は社会の土台であり、当然守られるべきものである。個人の尊重が第一であるにしても、家族関係の大切さを否定する人はいないだろう。第45条は、世界人権宣言第16条を参考にしているのであって、かつての封建的家制度の復活などでは決してない。第45条第2項と第3項は、現行憲法の第24条とほぼ同じである。

第46条  女性は、雇用、社会活動及びその他の分野において、男性と均等な機会及び待遇が確保され、妊娠、出産及び育児において、特別の保護を受ける権利を有する。
第47条 (1)子どもの生存、成長、安全及び参加に対する権利は、これを保障する。
(2)胎児の生命は、受胎したときから保護される。
第48条 (1)すべて高齢者は、健康を維持し、治療及び介護を受け、社会に参加し、尊厳を守られる権利を有する。
(2)すべて国民は、自分の親を敬い、高齢となった家族を介護しなければならない。

(解説)

 第46条では、女性の権利について、特に男女雇用機会均等法の理念を明文化した。第47条では、子どもの権利条約を参考にして、その理念を要約して書いた。第47条第2項では、胎児の生命保護を規定している。胎児は、母の胎内にいるときから一人の人間であり、母親の身体の一部ではない。母親だけでなく、胎児の人権も守るべきだ。だから人口妊娠中絶や堕胎は当然禁止される。これは、ハンガリーやアイルランドの憲法を参考にしている。もちろん禁止するだけではなく、望まない妊娠をした女性に対する心身のケア、養子縁組紹介などの活動を支援する政策も必要となるだろう。第48条は、高齢者の権利である。日本も高齢化社会となっている。高齢者が大切にされ、十分な介護が受けられるように、福祉制度が充実されなければならない。また国民も、親を敬い最期まで介護する責任を持つ。これはフィリピン共和国憲法第15条を参考にしている。

第49条 (1)すべて国民は、健康で文化的な生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
(3)すべて国民は、国民皆保険制度に加入することによって、病気、けが、事故、老齢、障害、配偶者の死亡、失業、災害、貧困その他の生活困窮の場合に、必要な補助を受けることができる。
(4)すべて国民は、適切な住居に住む権利を有する。
第50条 (1)すべて国民は、安全で快適な環境を享受する権利を有する。
(2)国の全ての機関、国民及び事業者は、安全で快適な環境の保全に努める義務を負う。
(3)森林、湖沼、河川、海岸、野生動植物、その他の天然資源及び自然環境は、法律の定めるところにより、国の保護を受ける。

(解説)

 生存権について、現行憲法の第25条にある「最低限度の」という言葉は削除した。国民皆保険制度への加入を明記して、何かあっても安心して生活していけるようにする。適切な住居に住むことも、権利として加えた。第50条では、環境権を規定すると共に、環境を守ることを、国、国民そして事業者(企業)全員の義務とした。また、天然資源や自然環境の保護も規定した。これはスイスやスペインなど、世界各国の憲法に規定されている。

第51条 (1)すべて国民は、その適性に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
(2)すべて国民は、自分の子どもを保護し教育する権利を有し、その義務を負う。
(3)公立の学校教育は、満6歳から満18歳に至るまで無償とする。
(4)大学及び私立学校に通う学生は、法律の定める基準に従い、学費の補助を受けることができる。
(5)国及び地方自治体は、満5歳以下の子どもに対する教育及び保育のための施設を整備する。
(6)国は、生涯学習の振興に努める。

(解説)

 現行憲法の第26条には「能力に応じて」となっているが、「適性に応じて」のほうが良い表現だろう。親は子どもを教育する権利を持ち、その義務も負う。義務教育というのは、子どもを学校に行かせる義務のことではない。まず第一に親が、責任をもって子どもを教育する義務がある、という意味である。親がその責任を放棄して、学校にまかせて丸投げ、ではないし、ましてや国家が教育するのでも決してない。親が子どもを教育するのを、助けサポートするのが学校であり、その教育施設や支援体制を整備するのが国の役割である。公立学校では、満6歳から18歳、つまり小中学だけでなく高校までの授業料を無料とする。私立学校の授業料も、公立と同じ程度になるように、国や自治体が補助する。大学の授業料も同様である。満5歳以下の子どものための施設(保育園、幼稚園、こども園)を整備することも規定した。また、子どもだけではなく、大人や高齢者のための生涯教育も盛んになるように、国がサポートする。これは大韓民国憲法第31条を参考にした。

第52条 (1)教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な日本及び国際社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の尊厳を重んじ、勤労と社会責任を尊び、自主的精神に充ちた、心身ともに健康な人間の育成を目的として行われる。
(2)すべての学校は、各自の教育方針を定め、教師、学生及びその保護者が協力し合って自治的に運営することができる。
(3)国は、各学校の教育内容に対して、不当な統制、干渉、介入、圧力又は操作をしてはならない。

(解説)

 教育の目的を明記した。これは教育基本法第1条の、2006年に改正される前の条文を参考にした。その上で、各学校の教育方針は、各自が自由に決めて、自治的に運営するようにした。教育内容は、全国一律同じではなく、親や学校にまかせたほうが、多様な価値観の中で自由に選択できる。国は施設や財政面でのサポートに徹するべきだ。今のように、教育指導要領や教科書検定制度などによって、政府が自分の価値観を押し付け、上からコントロールすることを禁止した。

第53条 (1)すべて国民は、労働の権利を有し、義務を負う。
(2)賃金、就業時間、休息、有給休暇その他の労働条件に関する基準は、法律で定める。
(3)児童を酷使してはならない。
第54条(1)労働者の団結する権利、団体交渉をする権利及び同盟罷業その他の争議行為によって団体行動をする権利は、これを保障する。
(2)前項の権利は、一般公務員にも保障される。但し、警察官、自衛官及び法律の定めるその他の公務員は、この権利について一部制限を受ける。

(解説)

 現行憲法の第27条では「勤労の権利」となっているが、「労働の権利」のほうが一般的な呼び方なので、そのようにした。労働基準の項目の中には「有給休暇」を加えた。労働者の団体行動権には、「同盟罷業(ストライキ)その他の争議行為によって」という言葉を加えた。日本では、一般公務員のスト権は禁止されているが、イギリスやフランスなどでは認められており、ILO(国際労働機関)も日本政府に対して改善するように勧告している(ウィキペディア「労働基本権」参照)。ここでは一般公務員にもスト権を認めたが、警察官や自衛官などは制限されるとした。

第6節 経済的権利

第55条 (1)すべて国民は、公共の利益に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
(2)外国に移住し、又は国籍を離脱する自由は、これを保障する。
第56条 (1)財産権は、これを保障する。
(2)財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。
(3)私有財産は、相当な補償の下に、公共のために用いることができる。
第57条  消費者の安全、情報入手、選択機会及び被害救済に関する権利は、これを保障する。
第58条  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。

(解説)

 第55条、56条、58条は、現行憲法の第22条、29条、30条とほぼ同じである。第57条には、新しく消費者の権利を規定した。これは、アメリカのケネディ大統領が提唱した消費者の4つの権利を参考にしている。

第7節 身体的権利

第59条  すべて国民は、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第60条  すべて国民は、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
第61条 (1)すべて国民は、裁判所において公平で迅速な裁判を受ける権利を有する。
(2)裁判にかかる費用は、国から補助を受けることができる。

(解説)

 第59条、60条は、現行憲法の第18条、31条とほぼ同じである。第61条では、現行憲法の第32条第1項に、「公平で迅速な」という言葉を加えて、第2項では、裁判費用の補助を規定した。今の裁判は、お金と時間がかかりすぎて、裁判を受けたくてもできないことがあるからである。

第62条  すべて国民は、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第63条 (1)すべて国民は、理由を直ちに告げられ、かつ直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。
(2)すべて国民は、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
(3)警察署に設置する留置場は、刑事施設として代用することができない。

(解説)

 第62条、63条は、現行憲法の第33条、34条とほぼ同じである。日本では、警察署の中にある留置場を代用監獄として利用し、そこで長時間の取調べが行われている。これは国際人権(自由権)規約第9条に違反しており、国連の規約人権委員会からも、代用監獄制度を廃止するように勧告されている(日本弁護士連合会のサイトを参照)。なので、第63条第3項として、代用監獄の禁止を明記した。

第64条 (1)すべて国民は、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を有する。
(2)前項の権利は、現行犯として逮捕される場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
(3)捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により行う。
第65条  拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。
第66条 (1)すべて刑事事件においては、被告人は、公平で迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
(2)刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
(3)刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自ら依頼することができないときは、国でこれを附する。
第67条 (1)すべて国民は、自己に不利益な供述を強要されない。
(2)強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
(3)すべて国民は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

(解説)

 第64条は、現行憲法の第35条の内容を、わかりやすく書き直した。第65条では、現行憲法の第36条にあった「公務員による」という言葉を削除した。66条、67条は、現行憲法の第37条、38条の内容と、ほぼ同じである。

第68条  すべて国民は、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
第69条  すべて国民は、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第70条  他人の犯罪行為によって生命若しくは身体の被害を受けた者、又はその遺族は、法律の定めるところにより、国の救済を受けることができる。

(解説)

 第68条、69条は、現行憲法の第39条、40条と、ほぼ同じである。第70条は、犯罪被害者への救済を規定した。これは、大韓民国憲法第30条や読売新聞社の憲法改正試案第47条を参考にした。


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