震災と居久根(屋敷森)のこと
twitterで、不意に居久根(いぐね・屋敷森/屋敷林のこと)の話になった。
以下、一連のtweetの中から少し拝借。
以前読んだものの中に、「居久根は東北から関東平野にかけての呼称」とあった気がしていて、それを確かめたく会話した。
正しくは、「東北から北関東にかけての呼称」とのことだった。
「居(い)」=家、「久根(くね)」=地境
であるとされる。
東北新幹線を下ると、宇都宮を過ぎたあたりでも屋敷森が平地に“浮かぶ”ような風景が車窓から見える。
前述のように北関東にもその呼称があるとのことで、栃木でも「居久根」の呼び方があるのかどうか気になっていたところだったが、なかなか調べられずにいた。
twitterの会話の中では、埼玉あたりでも生垣を「クネ」と呼ぶことがわかった。
これは、栃木で調べる大きな手がかりになりそうだと思っている。
震災後、仙台沿岸部の復興のプロジェクトの一環で、「みんなの居久根」というものを展開した。
フィールドワークやワークショップを重ね、現代の暮らしに沿った新しい居久根を「みんなの居久根」と呼び、復興(暮らしの再建)の環境づくりの一助となれば良い、という提案だった。
これは、ワークショップや聞き取りで、(主に)高度経済成長期を境に暮らしやそれを取り巻く環境が変わり、居久根が減少してきた過程が十分に窺い知れたからだ。
もちろん、復元できれば良いのだが、それは今の暮らしに適当なものか、という問いが残る。
であれば、地域の特徴の一つである「居久根」を残しつつ、現代の暮らしに沿った形の環境づくりを「みんなの居久根」という新たな形で捉えてみてはどうか、と。
これは、居久根を居久根所有者のみのものではなく、新たなコミュニケーション/コミュニティによるみどりづくりであるという意味も込めている。
「みんな」の標榜は揶揄される傾向にあるのは承知の上、そのような理由もあって敢えてつけたネーミングだったと記憶している。
この「みんなの居久根」のプロジェクトについては、追い追い書きたい。
ワークショップやヒアリングでは、屋敷森が果たす役割が聞き取れた。
しかし、実際に屋敷森を訪ねたフィールドワークの際に、それらの一端を体験し、実感を得た。
プロジェクト内で作成した「仙台平野みんなの居久根プロジェクト igune Hand Book」からご紹介したい。
<居久根の効用・役割>
●防ぐ
防風、防雪、防砂、防潮、防火、防犯、洪水対策
●住みやすくする
夏:植物の蒸散によって周囲の気温を下げる
冬:冷たい季節風を防ぎ、日溜まりの中庭は暖かい
●裏山として
燃料、肥料、用材、食料の供給
●目印と物差し
隣家との境界
大きさによって家の歴史を判断する時間指標
これらの効用や役割があった。
▲仙台平野みんなの居久根 igune Hand Book
震災前の仙台沿岸部の南蒲生地区の写真をみると、自然堤防上に立地する集落が屋敷森に囲まれて、田んぼに浮かぶ島のようにも見えた。
▲仙台市南蒲生の東日本大震災前(2001年)の風景(撮影:高橋親夫氏)
この風景には「理由」があったわけだ。
見学させていただいた、大崎市古川の居久根では、それらのうちの大半が実感でき、同時に暮らしの豊かさも感じることができた。
▲大崎市古川の居久根
たぬきが訪れたり、様々な鳥が姿を見せたり、季節ごとに花やみどりも移り変わり、楽しめる。
庭の畑では野菜もとれる。
そして、冬に訪れた時には、冷たい風から守られていることも実感できた。
▲大崎市古川の居久根の断面スケッチ
もちろん、豊かさの指標は人によるものだろう。
しかし、自然環境の中に身を置き、自然と共に生きるということが、「その価値を生活者自身も十分に感じ取れる」という意味での“豊かさ”は、決して単なる個人の趣味嗜好の範囲では無いものだと私は考える。
さて、ただし、これらは一方で個人の財産でもある。
そして、当然のことながら、植物は植えることが目的ではなく、始点となる。
育てなければならない。
その点で非常に難しさも感じながらのプロジェクトとなった。
現代の暮らしに合った形での居久根の再生は、途中のまま仕事としての復興サポートを終えてしまい、個人的は心残りも多いのだが、震災10年を経た新しい暮らしに「みんなの居久根」の考え方が活きることを今も陰ながら願っている。
居久根については、またあらためてここに書きたい。
※本記事で挙げた効用・役割のうち、「防潮」「洪水対策」については、実際にどこまでそれらの役割を発揮できるか懐疑的な意見もあるので、一応書き添えたい。
追記:
世界農業遺産に指定された「大崎耕土」のページには、居久根のある農村景観を解説する箇所がありました。
この図中の「かこい」「にわ」「むかえ」は、「みんなの居久根」のプロジェクトの中で都市デザインワークス(当時私が所属)が発案した空間文節を引用したものです。
プロジェクトのワークショップに参加いただいた大崎市古川の居久根所有者の方が進言されたものだとのことで、大変光栄です。
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▼これらは、都市デザインワークスの仕事の一環で行ったものです
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