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「デザイン思考」が分かりにくい理由

IDEO TOKYOを立ち上げたDesign Directorの石川 俊祐さんが書いたHELLO, DESIGN 日本人とデザインという本が「デザイン思考とは何か?」を非常に分かりやすく教えてくれる良著でした。自分用のメモ兼、「デザイン思考って結局何なの?」と今イチ掴みきれていない方向けに整理してみたいと思います。

デザイン思考って結局何なの?

何からの形でデザインに関わったり、興味を持っている方だったら一度は疑問に思った事があるかと思うのですが、デザイン思考ってかなり分かりづらい概念ですよね。石川さんが本の冒頭でこんな事を書いています。

デザイン思考はビジネス用語の中でもっとも「誤解」されやすい言葉だ。ぼくは常々そう感じています。コモディティ化、シンギュラリティ…(省略)これらは「デザイン思考」より、一見して意味が分かりづらい言葉です。だから、これらに触れたとき、ぼくたちはなんの先入観も持たず、理解に努めようとします。つまり、いきなり「誤解」することはありません。

ところが、本書のテーマである「デザイン思考」はちょっと違います。「デザイン」にしろ「思考」にしろ、言葉として馴染みがある。だから、それら2つを組み合わせた「デザイン思考」という言葉も、なんとなく意味が分かった気になる。

馴染みのある言葉だからこそ、その馴染みのある単語の意味に引っ張られて「デザイン思考」という新しい言葉の意味を誤解してしまう。「確かになぁ」と思います。なんとなく「デザイン思考ってデザイナー的な思考方法の事だよな?でもデザイナー的な思考方法って何なの?って聞かれたら困るな…。」という感じの方は結構いるんじゃないでしょうか。私もこの本を読むまではそんな感じでした。

「デザイン思考」は優秀なデザイナーが行っている思考のプロセスをデザイナー以外でも使える様にパッケージ化した「問題解決の為のプロセス」。

これが現時点で私が一番しっくり来ているデザイン思考の定義です。「デザイン思考=問題解決の為のプロセス」という部分が一番のポイントで、思考法として捉えるより、一連のプロセスとして理解した方が分かりやすいと思います。

「優秀なデザイナーが行っている思考のプロセス」って何なの?

私はデザイナーではないので、おそらくこういう事だよな?というのを想像してみます。まず、デザイナーさんの役割といったらカッコいいフォントとか写真、色とかを組み合わせて、そのデザインを見た人を「おぉ!」と思わせるような素敵な見た目を作る人、というのが一般的な理解かと思います。そしてこの「おぉ!」をつくる為にどんな事を考えているのか?を考えてみましょう。

(例:ある病院のWebサイトのデザインを考える場合)

4, 見た目のデザイン
→この2色を軸に、フォントはヒラギノ角ゴにして写真は白黒にしよう。この要素とこの要素はもう少し隙間を空けた方が清潔感がでるかな。

---- ↑ 一般的に「デザイン」として認識されている領域 ↑ ----

---- ↓ 「4, 見た目のデザイン」をする前の領域 ↓ ----

3, 構成要素、レイアウトのデザイン
→このサイトでは要素としてこういう情報が必要で、それをこんな感じでレイアウトする必要があるな。

2, サイトの役割、ターゲットユーザーの確認

→このサイトは誰をターゲットにどんな目的で作られるんだろう?サイトを使って集客をしたい?それとも既に病院に通っている患者さんに正確な情報発信を行いたい?

1, 根本的な解決すべき問題は何なんだろう?
→サイトを作る事が本当に問題解決になるのかな?もしかしたら、病院に置いてある花の種類を変える事が真の問題解決に必要だったり…?

ざっくりとですがこんな感じでしょうか。

一般的には「4, 見た目のデザイン」がデザイナーの仕事、デザインの定義だと思われていますが、優秀なデザイナーさんになればなるほど、4の前の3,2,1をきちんと考えてデザインをします。石川さんは著書の中でアートとデザインの違いについてこんな事を書いています。

アートは「自分の衝動」から、デザインは「人が抱える課題」からはじまることが多いのです。

「デザイン=課題解決の手段」なので、きちんと考えていけばいくほど「1, 根本的な解決すべき問題は何なんだろう?」まで考える必要が出てくるんですね。

「デザイン」という言葉の意味について

日本語の「デザイン」はDesignの名詞としての意味「図案、意匠」という意味だけで理解されていますが、Designには動詞としての意味「設計する」「企てる」「目論む」といった意味があります。

日本語的な「デザイン」の意味で「デザイン思考」を捉えようとすると「図案思考」となって「見た目の作り方、考え方?」となりますが、これをDesignの動詞としての意味で捉えなおすと「企てる思考」となり、ぐっと本当のデザイン思考の意味に近づきます。

「企てる思考」

いいですね。「デザイン思考」という言葉を見たら頭の中で「企てる思考」と変換してみてください。そうしたら既に日本人の頭にこびりついている「デザイン」の意味に引っ張られないで「デザイン思考」を理解出来そうです。

「デザイン思考」4つのプロセス

このあたりはググれば幾らでも分かりやすい記事が出てくるのでそれを読んで頂ければと思いますが、簡単に整理しておきます。

1, デザインリサーチ(観察/インタビュー)
→ユーザーを観察し、課題、問題を発見するフェーズ。

2, 問いの設定
→1で見つかった課題、問題の中でどれが「解くに値するか?」を絞り込むフェーズ。良い問題設定が出来ないと良いアウトプットは出せないので、一番大事。

3, ブレスト、コンセプト作り(アイデア出し)
→2で設定した問いを解くためのアイデア出し。まずは沢山のアイデアを出して、そこから集約していく。

4, プロトタイピング&ストーリーテリング
→3で作ったアイデアをなるべく迅速に、コストをかけずにプロトタイプ化してユーザーに体験してもらう。ストーリーテリングは、ユーザーの体験状況、その際の感情の変化も含めて「どんなふうにユーザーの体験が解決策を通して変化するか?」を物語として分かりやすくし、関係者に共有しやすい形にする。

このプロセスを3カ月程度の期間で行い、それぞれの工程を行ったり来たりしながら「本当に解決すべき問題」とその問題に対する「最適な解決方法」を探っていく問題解決のプロセスが「デザイン思考」になります。

最後にあらためて、デザイン思考が分かりづらい理由

・日本語での「デザイン」の意味が「図案、意匠」に限定されている為、混乱を招いている
・Designには「設計する」「企てる」「目論む」といった意味があり、「デザイン思考」におけるDesignはこっちの意味
・「思考」というと「考え方」で止まってしまう感じがあるが、デザイン思考では「思考プロセス」といったように「プロセス」をつけた方がデザイン思考の本当の意味の理解に繋がる

今回のnoteでは「デザイン思考とは何か?」の言葉の定義の部分にフォーカスして書きましたが、HELLO, DESIGN 日本人とデザインの中では石川さんが携わってきた様々なプロジェクトを紹介しながら、デザイン思考のやり方、その効果について具体的に書かれていて非常に分かりやすいです。これを読んだら「実際にデザイン思考を使って問題解決してみたい!」と強く思いますね。

すごく分かりやすい本なので、サービスデザインとか、UXデザイン、デザイン思考を勉強中の方だけでなく、勉強なんて全然した事ないけど興味はあるよ!といったビギナーの方にもとてもおススメな本だと思います。


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以下、内容を忘れない為の個人的な読書メモです。
面白い本だったのでメモが多い。

・デザイン思考は誰でも使える問題解決の為のプロセス
・これからの時代は「自分はこう思う、こうしたい」というアーティスト的な主観を持ったハイブリッドなデザイナーがますます活躍する
→背景にある思いの強さが人を動かす重要な要素になってくる
・デザインにおける「記号」とは「人がそれまでの人生で身に付けてきた、無意識の意味づけ」
→毛皮のコートを見たら「リッチ」と意味づけしてしまう
・日本企業は問題設定が下手
・優れたデザイナーの条件は「自分の主観」に自信を持っていること
・論理的に仮説を積み上げれば、競合他社も同じ回答に行きつく
・クリエティブコンフィデンスを持つための4つのマインドセット
①曖昧な状況でも楽観的でいること
②旅行者/初心者の気分でいること
③常に助け合える状態をつくること
④クリエイティブな行動を信じること
→「差別化」という視点も結局行きつく先は同じになってしまう
・デザイン思考のチームは3,4人、それぞれ違う職能/スキルを持つプロフェッショナルでチームを作る
・自分の観察からスタートする
→コツは自分の「快・不快」に注目すること
・インタビューでは嘘をつく
→できるだけ「リアル」に近い場所で実施した方が良い
・エクストリームユーザーにヒントがある
→母数の多いユーザーに聞いても想像の範疇を越えない
・いいサイズの問いを考える
→✕どうすればこの掃除機を○万台売ることができるか?
→○どうすればモノが多い家でもストレスなく掃除できるか?
・ステイタスではなく「どんなふうに考え、行動するか」でユーザー象を考えていく
・助け合いの文化が長い目で見た時に高い成果に繋がる
・プロジェクトの管理
→プレフライト、ミッドフライト、ポストフライト、それぞれのタイミングでプロジェクトを客観視する機会を作る
・日本人には「パッケージ化」する能力が足りない

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