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研究者が大好きな僕が研究者が増えて欲しいなと思うときに思うこと [前編]

働き方が多様な時代,と言われる.

例えばその筆頭的な存在がITエンジニア.ITエンジニアはPC1台あれば仕事ができる.

場所も時間も関係ない.

好きな時に起きて,好きな時に寝ることも可能だ.

だが,研究者はどうだろうか?

彼らは場所と時間に大いに拘束される.

野生(フリーランス)の研究者は多くは生まれない.

その要因としては3つあげられる.

1つ目は,研究するための機材が,手元にないことが多いこと.

2つ目は,チームワークによるところが大きいこと.

3つ目は,稼ぐ手段が極めて限定されていることだ.

前編では,組織に縛られることなく最大限自由に研究生活を送ることを夢見て,野生の研究者になることを目指す場合,どのような困難が待ち受けているかを考えてみる.
また後編では,それらの困難をどのように乗り越えるのか,世の中にある知恵を借りて考えてみる.

1,研究するための機材問題

研究といっても実に様々な分野があるが,前述したようにPC1台で済むことはほとんどない.実験系研究であろうが,シミュレーション系研究であろうが,日常生活では扱わないような貴重な設備機器を必要とする.

それらを所有することは,潤沢な資産がないことには不可能だ.

例えば,細胞の強度を調べるバイオメカニクスの研究者の場合,細胞培養に適した環境,観察のための高価な顕微鏡,荷重を0.001N以下で与えるための精密機器が必要になる.

仮に研究者として資本を持てたとしよう.
実験と研究のための拠点として,機材をおいておく土地を保有するだけでお金はかかるだろう.そして肝心の機材は,培養キット,顕微鏡,荷重調節器などがかかる.
さらに機器にはメンテナンスが必要であり,保険の加入などを考えるとさらに負担はふくれあがる.
これらの費用を資本が上回らなければいけない.

機材を調達するのに自らの資産を投じる場合は,その拘束条件で選ぶ必要があり,最悪の場合は行いたい研究をスタートすることすら叶わない.

2,チームワークの必要性

研究者はシングルな存在だと思われることも多いが,実際は綿密なチームワークによって仕事がなされることがおおい.

例えば昔行っていた質量分析装置を扱った化学反応分析研究がわかりやすい.

質量分析装置の日々の運用には,液体窒素の補充と管理,光学系メンテナンスにおける安全な作業に必要な協同作業,また獲得データの分析には多くの角度からの気づきが必要になるため,有識者とのディスカッションが欲しいこともある.更に,目の前で新しい現象が観測されたと思われる場合でも,次々に現れる論文に目を通していなくては,すでに最近誰かが観測した場合もあり,そのリサーチに時間をかけることも必要だ.その間,機器のメンテナンスや追加の実験,データの整理などの作業は中断せざるを得ない.
また実験結果はコンピュータ・シミュレーションによる結果と照らし合わせてようやく説得力のあるまとめ方ができることも多く,シミュレーションのプロフェッショナルと実験のプロフェッショナルが手を組む必要もある.

これらのことは,一人でも時間をかければ達成される課題かもしれないが,よく設計されたチームに対して一人で戦いを挑むことは現実的ではない.あなたが,あなただけが気づいた観点で,世界唯一の研究を初めて手掛けているならば話は違うが,国際的に最先端の情報が同時に共有されるこのご時世で,一人の人間だけが取り組んでいるテーマはほとんどない.あっても価値を見出されるのに半世紀かかるかもしれない.

3,研究者の食いぶち

では,まず初期費用が必要経費を上回り,さらに協力者のネットワークをうまくこしらえて,フリーランスの研究者として,研究をスタートしたとしよう.

あなたは毎日毎晩研究に打ち込み,あるいはアルバイトで生計をたてながら空いた時間を研究に費やしたとする.

1年ほど経ち,得られたデータをまとめあげ,立派な考察を書き,目の前にはだれの目から見ても苦労の結晶である傑作の論文が誕生した.

そこで思うことは,私の苦労に見合ったリターンが,懐に来る日はあるのだろうか,ということだ.

更に1年間,論文の雑誌投稿や次なる研究に意志を燃やすか,あるいは研究を離れるのか,選択を迫られることになる.

研究所に就職するか,大学の教員として応募するか,はたまた研究とはまったく関係のない仕事に向かうのか,あるいは現在収益を生んでいない研究をフリーランスとして続けるのかは,つまるところ,金銭的な問題に依存する.

また往々にして,今すぐにお金になるような研究というのは,自由を手にすることを目指す者が興奮を感じるようなテーマではないことが多い.


後編に続く

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