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若者のアカルイミライ

若者の未来は明るい。
 
なんて嘘くさい言葉だろう。
 
実際のところ、多くの若者は先の見えない未来や、まだ何者でもない自分の無力さに悩み、苦しみ、不安に押し潰されていることだろう。
 
そんな若者に「君の未来は明るいよ」なんて言ったところで嘘くさすぎて気休めにもならない。
 
少なくとも約20年前、20歳そこらだった自分にとってはそうだった。
 
先のことは分からない、自分が何をしたいのかも分からない。
 
漠然と「ビッグになりたい」という野心はあるものの、どこから手を付けたらいいのか分からず、ただただ無駄な時間を過ごしているような気がして自己嫌悪に落ち込む。
 
そんな暗い毎日を送っていた当時、偶然ケーブルテレビで観たのが『アカルイミライ』という映画だった。
 
黒沢清監督、主演は浅野忠信とオダギリジョー。
 
話のあらすじはほとんど覚えていないけど、工場労働で陰陰滅滅(いんいんめつめつ)とした毎日を送る若者2人(浅野忠信とオダギリジョー)の話。
 
2人は部屋の水槽でクラゲを飼っていて、そのクラゲがきっかけで警察のお世話になるようなトラブルに巻き込まれていく。
 
とにかく画面は終始暗く、陰鬱で、希望がない。
 
ところが映画終盤、いろいろなトラブルが少しずつ落ち着いていくところで暗い川を大量のクラゲがぼんやりと光を帯びながらゆっくりと流れていき、THE BACK HORNの「未来」という曲が流れる。
 
空虚さと焦燥感を思わせるドラムのビートに、真っすぐに透き通った力強い歌声。
 
若い頃のあの感じ。
 
若者にとってのアカルイミライっていうのは、煌々と光り輝く眩しい太陽のような光ではなくて、こういう暗い川をゆっくりと流れていくクラゲが発するようなぼんやりとした光なんだなと。
 
妙なリアリティと納得感とともに、ほんのちょっとの希望を感じたシーン。
 
そして最後に制服の下にゲバラのTシャツを着た男子高校生たちが段ボール箱を蹴りながら街を闊歩するシーンも、とても記号的ではあるけどまさに若者のアカルイミライ。
 
若者の未来は明るい。

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