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母娘百合錬金術ファンタジー

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#ファンタジー

第六章 花の叡智と冥府の神と

 Ⅰ 上書きの記憶

第六章 花の叡智と冥府の神と  Ⅰ 上書きの記憶

「おさらいしましょうか。アイリス」
「うん」
「いま、宝物はどれくらい集まった?」
「えっとね。まずはケレスの『金の穂のブローチ』めるちゃんの『カドゥケスの杖』ユグちゃんの『賢者の石【母なる自然】』イケリアの『蝋の種』」
『あたしもいるよー、ままー』
「うん。『根源の樹木』ちびゆぐちゃん」
「あとひとつは?」
「えっと……『刻のルーペ』。だけどね、これが誰からもらったか分からないの」
「そう」

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Ⅱ 数奇によるユグドラシルの結合

Ⅱ 数奇によるユグドラシルの結合

 頭の中に声が聞こえて。それはお母さんもいっしょだったみたい。でも、そんなことができるのは……だれ?
「音の錬金術師さん?」
「『音の』は今、曲を作っているから出てこないと思うわよ」
「なんの曲? 聞いてみたいなー」
「鳥の声、葉擦れの音、風鳴り、この世に存在する音すべてよ。あの子のライフワークなの」
「えぇ!? あれって『音の』さんが作ってるの?」
「そうよ。小さすぎる音を調律したりして人を導い

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第五章 ダイヤの瑕と生命の瑕Ⅰ 聞こえない声

第五章 ダイヤの瑕と生命の瑕Ⅰ 聞こえない声

「こ、こんにちは……えっと……」
「こんにちは。お嬢さん(マドモアゼル)」
「探したわ。サンジェルマン」
「さんじぇるまん? 女の人だよ?」
「その名前は捨てたのですよ。ミリアム。そちらは罪の子。初めまして、以後お見知りおきを、アイリス」
「は、はじめまして……えっと、なんて呼んだら……」
「今はサンジュリアですわ」
「『聖ジュリア』語源をユリアとするのですね。今度はカエサルを謀ると?」
「ふふふ

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Ⅳ 堕ちた蝋の羽

Ⅳ 堕ちた蝋の羽

「お世話になります。クララ、マリア、アイリス様」
「わ、わ。アイリス、でいいよぅ」
「そういうわけにもいきません。特に、あなた様はホルスの化身であらせられる」
「もう、違うって言ってるのにぃ」
「そんなはずがありません。あの翼は、ホルス神。私が憧れ、模したものにございます」
「お母さぁん。イケリアちゃんが話聞いてくれない」
「そういう時はねぇ『面をあげぇぃ』って言うのよぉ」
「お、おもてをあげぇい

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Ⅲ 生命の泉と守り神

Ⅲ 生命の泉と守り神

 
「――ぁぁぁぁあああ!?」
「あら。すごい」
「アイリスちゃぁん。ちょっと、羽を小さくしてくれないかしらぁ。マリアが降りられないわぁ」
「むりむりむりむりむりぃ!!」
 私は知らないうちに羽を広げて、お母さんごと持ち上げていた。大きな、大きな羽。それは、黄金に輝いてて。なんだろう、重いはずなのにとても軽い。
「ホバリングを覚えましょうか」
「ボバリング?」
「ホバリングよ。鳥さんが花の蜜を吸う

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Ⅱ ツクモグサのつくもん

Ⅱ ツクモグサのつくもん

「あわわわわわわ」
 もう落ちちゃったかと思った。でも、目を開けたら、下の方にお母さんたちが見えた。わけが、わからなくて。ツクモグサもよく見たら集まっていて、なんかもさもさした人みたいな形。早く帰りたいから足を動かして前に行こうとするのだけれど、全然進まない。お母さんたちはにこにこして。ツクモグサが私に向かって声をかける。
『あはは。早くこっち来なよ。アイリス』
「む、むぅ! 私だってそっち行きた

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第四章 蝋の羽と金の羽

 Ⅰ アイリスの受難

第四章 蝋の羽と金の羽  Ⅰ アイリスの受難

「あらぁ! アイリスちゃぁん。覚醒したのねぇ」
「えっと……」
「かわいいでしょう。ほら、いいこいいこ」
「あらあらぁ。照れちゃってぇ」
 私はお母さんに抱っこされながらぐりぐりとほおずりされている。クララさんは相変わらず優しい眼で『にまにま』している。覚醒、そんなこと言われても。なんだかちょっと不思議な感覚があるくらいでいまいち何が変わったかもよく分からない。身体もちっちゃいままだし。
 目を覚

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Ⅵ 確かに動く時間の中で

Ⅵ 確かに動く時間の中で

「ふげぇ!」 
「起きたの。さぁ。食事にしよう」
 お母さんはまだ、ずっと眠っていた。
 私は、ふわふわとした気持ちのままベッドから起き上がると。うまく立てなくて。おばあちゃんがおんぶしてくれた。
「まだ力が入らんだろうから。しばらくは私でがまんせい」
 そう言って、木の実や、果物を食べさせてくれる。もちろん、レーズンもある。ただ、一つ気になることが。
 ――木の器に入ったスープに丸く切った木が浮

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Ⅴ 再構築

Ⅴ 再構築

 
「アイリス。大丈夫よ」
 
 優しい声が、聞こえた。そして、刃は止まっていた。私の首のすぐ横で。
「ひ……う……」
「『花の』往生際が悪い」
「まだやり残したことがありますから。アイリス。少し複雑になるわ。ただ、従って。大丈夫。お母さんに任せて」
「う……うん……」
「復唱要求。『我、メルクリウス・トリスメギストス【反転の大地】よ。来ん』」
「わ、われ……『我、メルクリウス・トリスメギストス【

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Ⅳ 磔刑のマリア

Ⅳ 磔刑のマリア

「お母さん!」
「あぁ……アイ……リス……ご……挨拶して……樹木の神『エス』よ……」
「っ! お母さんを離せ!」
「ならん。元凶よ。身の程を知れ。しかし『木の』は何をやっておる。あやつの不肖でろうに」
「ふ……ふふ……花隧道の……中におられます……あすこの……」
「弟子に絆されおってからに」
 やれやれと、ため息をつくその人は、私でも分かるくらいに大きな存在だった。身体が、大きいとかではなくて。も

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Ⅲ アイリスが目にしたものは

Ⅲ アイリスが目にしたものは

「あわわわわわ。おばあちゃ……! はやい……!」
「がまんおし! あと、おばあちゃんって呼ぶんじゃないよ!」
 おばあちゃんが作った枝のほうきに乗って私たちは世界樹に近づいていく。でも、その途中で木の構造が大きく変わってしまった。おばあちゃんが創った木の道はあっという間に、花の道に変わった。私たちを飲み込もうとするように後ろから迫ってくる花たち。前にも広がっていくから、急いで飛んで、そこを脱出しよ

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Ⅱ 必要な痛み

Ⅱ 必要な痛み

「……そろそろ……お師様から話を聞いているころかしらね……んっ……あぁっ!」
 樹木の枝が肉を貫き、果実の酸が肌を溶かす、新芽が、種子が身体中から這い出る。神経を含め、あらゆる器官から無限とも言える増殖を繰り返す痛み。五大元素『木』に当たる花と木以外のすべてが私を蹂躙していく。指一本動かせず、磔刑にされた聖人のようにただうなだれる。
「アイリス。あなたには、こんな姿見せられないわね」
 世界樹の中

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第三章 木と花と賢者の石と

 Ⅰ 木の錬金術師ダフネ・ローリエ

第三章 木と花と賢者の石と  Ⅰ 木の錬金術師ダフネ・ローリエ

「おばあちゃん?」
「えぇ。厳密にはそういう続柄でもないのだけど。でもあなたにとってはそうね」
「どんな人かな。やさしいひとだといいな」
「ふふ。私のお師様だから、優しいわよ」
「そっかー!」
「いっしょに行く?」
「うん!」
 そろそろ外も暖かくなってきて。ほわほわと花の香りが舞うころ。『光挿す部屋』で私は花冠を編んでいた。シロツメクサでできたこれは、お友だちにあげようと思っていたんだけど。せっ

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Ⅸ 夜来光(イェライシヤン)

Ⅸ 夜来光(イェライシヤン)

 アイリスが就寝すると、マリアは大きな花びらに変わった。その花びらがアイリスを包み。そして、別の場所。食事部屋で紅茶を飲むクララの前に、マリアは現れた。
「あいかわらず、神出鬼没ね」 
「あなたこそ、万物の水じゃない」
「ふふ。確かに。それで? 今回の件はどうだったのかしら」
「あの子、泣いていたわ」
「ニュクスの闇に触れたからでしょう。『彼女』との結合の片鱗ね」
「そうね」
「すべて、予定通り。

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