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令和4年司法試験再現答案(民事系)

こんにちは、NaOyaです。
今回は、民事系の再現答案を載せていこうと思います。
よろしくお願いします!

1.はじめに

前回書き忘れましたが、憲法と行政法は答案用紙6枚でした。
今回の民事系3科目と次回の刑事系2科目は、いずれも8枚程度です。
過去問のフル起案でも刑事系以外は平均6,7枚程度だったので、本番のアドレナリンは馬鹿にできませんね(笑)

今回も、再現答案を頑張って作成したご褒美&司法試験の合格祝いということで、末尾に【1科目100円×3】の有料設定をしています。

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それでは、早速再現答案です。

2.再現答案

民法

設問1
小問(1)
1 CのAに対する請求は、甲土地の所有権に基づく返還請求である。
 Cは、原所有者Aから甲土地を譲り受けたと思われるBから売買契約(契約②)により甲土地を購入した(民法555条、176条参照)。そして、現在甲土地はAが占有していると考えられる。
 したがって、Cの上記請求は基礎づけられる。
2 もっとも、AB間に甲土地譲渡の事実は存在せず、契約②当時、Bは甲土地について無権利であった。したがって契約②は他人物売買であって、これにより甲土地の所有権がCに移転することはない。
3 そこで、Cは、94条2項を類推適用し、AからCへ直接所有権が移転したと主張することが考えられる。
(1) 94条2項は、通謀虚偽表示を信じた善意の第三者を保護する規定である。これは、虚偽の外観が存在する場合に、その作出に寄与した本人の帰責性の下、かかる外観を信頼した第三者を保護する点にその趣旨がある。そうすると、通謀虚偽表示がない場合であっても、それと同視できるような虚偽の外観の存在、本人の帰責性、第三者の信頼があるといえる場合には、同項を類推する余地があるといえる。
(2) 本件では、甲土地の所有権がAからBに移転した旨の虚偽の外観が存在する。そして、AはBに抵当権抹消登記手続を依頼していたところ、Bの求めに応じて漫然と所有権移転登記手続に必要な書類をBに交付しているから、一応その帰責性が観念できる。また、CはAB間の甲土地の譲渡が虚偽であることについて契約②時点で善意であった。
 したがって、同項を類推適用し、その効果としてAから直接Cが甲土地の所有権を取得したと主張できそうである。
(3) 対してAは、Aに通謀虚偽表示と同視し得るような帰責性はなく、本件において94条2項を類推適用することはできないと主張することが考えられる。確かにAはBに対して漫然と所有権移転登記に必要な書類を交付しているが、Aが不動産取引の経験がない一方、BはAの友人でかつて不動産業に携わっていたことから、AがBを信頼してその言う通りに書類を交付したことについて、通謀虚偽表示と同視し得るほど大きな帰責性がAに認められるとはいいがたい。
4 そこで本件では、94条2項と併せて110条の法意をも類推し、本人よりも第三者の保護が優先するのは、第三者の信頼に「正当な理由」がある場合に限られると考えるべきである。
 Cは、契約②に際し、自ら登記を確認してBがAから甲土地を取得した直後であるという不自然な点をBに質問している。これに対する、Aの不安を解消するためBが仲介した旨の説明は特段不合理な点のない合理的なものであり、これを信じたCに過失があったとはいえない。また、そうである以上、Cにさらに直接Aにも確認をすべき義務があったとは考えられない。
 したがって、Cは虚偽の外観の存在について善意無過失であって、「正当な理由」がある。
5 以上より、CのAに対する請求は認められ、Aはこれを拒めない。

小問(2)
1 請求1について
(1) 請求1は、所有権に基づく妨害排除請求としての甲土地の所有権移転登記手続請求である。Dは、甲土地の所有者Aからこれを購入し(契約③)、現在その登記はCが保有している。
(2) Cは、Cが対抗要件を具備し、甲土地の所有権を確定的に取得したことによりDは所有権を喪失した旨の反論をすることが考えられる(177条参照)。
 177条の「第三者」とは、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。民法が対抗要件制度を採用しており、自由競争秩序を容認していることから、単に二重譲渡であることについて悪意である者であっても、目的物についての権利取得者である限り上記正当な利益を有すると考えてよい。他方、他方譲受人を害する目的で二重譲渡を受けたいわゆる背信的悪意者は、自由競争秩序を逸脱しているといえるから、上記正当な利益が認められないと解する。
(3) Cは、契約⑤により、AからBを経て、甲土地の所有権を取得している。そして、Cは、その当時契約③についてBから説明を受けていたため二重譲渡の事実につき悪意であった。しかし、CはDを害する意図を一切有していなかった。
 よって、Cは177条の「第三者」にあたるといえる。
 この点、Cの前主Bは、専ら恨みのあるDを害する意図でAから甲土地の二重譲渡を受けたのであって、背信的悪意者であるといえる。しかし、背信的悪意者が177条の「第三者」から排除されるとしても、それはDの登記の欠缺を主張することが信義則(1条2項)上許されないに過ぎず、所有権取得の効果自体がおよそ否定されるわけではない。そのため、背信的悪意者からの譲受人も所有権を承継取得し得るし、かかる譲受人が登記の欠缺を主張することが信義則に反するというべき理由もない。
(4) 以上より、CとDは177条の対抗関係に立ち、Cが先立って登記を具備している結果、Dの所有権取得は否定される。
 よって、DのCに対する請求1は認められない。
2 請求2について
(1) 請求2は、AのBに対する甲土地の譲渡行為を詐害行為として取り消し、転得者Cに対して、甲土地をAに返還するよう請求するものである(424条の5第1号、424条1項、424条の6第2項前段)。
(2) AのBに対する甲土地の譲渡は、対価を得てした売買であるが、時価4000万円程度の甲土地を2000万円で売却することは、「相当の対価を得てした」(424条の2参照)とはいえない。したがって、424条によるべき場面である。
 Aは債務超過状態にあり、めぼしい財産は甲土地しかなかったところ、これを時価より安く処分することは、Aの責任財産を減少させ、Aを無資力にするものであって、AのBに対する甲土地の譲渡は、詐害行為性があるといえる。「債権者を害することを知ってした」とは、債権者を害する積極的意図まで必要なものではなく、これにより無資力となって債権者が害されることを認識していれば足りると解される。そして、AもBも、契約④当時、これによりAの責任財産が減少し、債権者たるDを害することとなることについて認識していたといえる。また、AのBに対する甲土地の譲渡は財産権を目的とした行為であり、Dの債権は契約④以前に発生していた(424条2項、3項参照)。
 以上より、「受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合」にあたる(425条の5柱書)。
(3) 契約⑤当時、Cは、Aの無資力についてBから聞いており、詐害行為性の認識があったといえる(同条1号)。
(4) 以上より、424条の6第2項前段に基づく請求2は認められる。

設問2
1 請求3は、乙建物の賃貸借契約(契約⑥)に基づく賃料支払請求である。
2 主張アは、605条の2第1項に基づく主張である。
 FG間の乙建物賃貸借契約につき、Gは、目的建物の引渡しを受け、賃借権の対抗要件を具備している(借地借家法31条参照)。そして、乙建物の登記はHの下にあり、その所有権はFからHに譲渡されたと考えられるから、605条の2第1項により、これに伴って契約⑥の賃貸人たる地位もHに移転し、Gが賃料を支払うべき相手方はHとなる。
 したがって、Fによる請求3は認められないというのが、主張アの根拠である。
3 これに対する主張イは、FからHへの乙建物の所有権移転登記は、譲渡担保設定契約(契約⑦)に基づくものであって、乙建物をHに譲渡するものではなく、したがって605条の2第1項は適用されない旨の主張である。
 この点、譲渡担保とは、譲渡の形式をとりつつ、目的物を担保に供するものである。そして、形式上、これが譲渡であるとされる以上、譲渡担保の設定により、目的物の所有権は、譲渡担保権者に移転すると解すべきである。もっとも、担保としての実質も有するから、譲渡担保設定者には、受戻権を基礎づける物権的権利(設定者留保権)がとどまり、その意味で譲渡担保権者への所有権移転は不完全なものと解するのが相当である。また、譲渡担保権者は、目的物を担保の目的としてのみ保持すべき債権的拘束を譲渡担保設定者との間で受けることとなる。
 以上を踏まえると、Hへの譲渡は、契約⑦によるものとはいえ、(不完全ながら)所有権をHに移転させるものと評価すべきである。そうである以上、賃貸人たる地位の移転を基礎づける所有権の移転があるといえるから、605条の2第1項が適用され、主張イの根拠は妥当しない。
4 そこで主張ウをみると、これは契約⑦により乙建物の所有権がHに移転したとしても、FH間に605条の2第2項前段の合意があるため、所有権の移転があっても契約⑥に基づく賃貸人たる地位は依然としてFが有する旨の主張である。
 FH間の合意は、債務αの弁済期到来まで乙建物の使用収益権限をFに留保する旨の合意であって、605条の2第2項前段の合意そのものではない。しかし、使用収益権限の留保には当然にこれを賃貸して賃料(果実)を取得する権限をも当然に留保するものと考えられる。
 これに対してGは、同条3項が賃借人を二重払いの危険から保護するために所有権移転登記を対抗のメルクマールとしていることから、登記を移転した以上は賃貸人たる地位を留保することは許されないと反論することが考えられる。しかし、同項は賃貸人たる地位の移転の対抗要件の規定に過ぎず、登記に公信力を認めるものではないから、かかる主張は失当である。
 よって、FH間の合意は605条の2第2項前段の合意と同視でき、同項を類推して賃貸人たる地位はFの下に留保されていると考えるのが相当である。
5 以上より、主張ウの根拠は適当なものであり、契約⑥の賃貸人たる地位はFの下にあるというべきである。
6 次にGは、FH間の使用収益権限留保の合意は、債務αの弁済期到来までとするものであるところ、かかる弁済期は令和3年5月末日に到来しているから、同年6月1日以降はFに使用収益権限が留保されておらずFは賃貸人たる地位を有しないから、6月分については請求できないと反論することが考えられる。
 しかし、譲渡担保の実行時期の実行時期選択の自由は譲渡担保権者に認められるところ、かかるGの主張を認めると、譲渡担保権者ではない第三者が譲渡担保の実行を強制することとなり、妥当でない。したがって、FH間の上記合意は、乙建物についての譲渡担保が実行されるまでFに使用収益権限を留保する旨の合意であったと合理的に解釈すべきである。
 そうすると、未だHが譲渡担保を実行していない以上、同年6月以降も以前契約⑥に基づく賃貸人たる地位はFの下にあるといえる。
7 以上より、請求3は、5月分6月分ともに認められる。

設問3
1 請求4は、贈与契約(契約⑧)に基づく丙不動産の所有権移転登記手続請求である。
 KはMに丙不動産を死因贈与する旨合意し、丙は死亡した(549条)。LはKの唯一の相続人としてKを単独相続し、その債務を包括承継している(882条、887条1項、896条参照)。
2 主張エは、契約⑧は死因贈与であって554条の適用を受けるところ、契約⑧によるKの丙不動産贈与の意思表示は、その後の丙不動産をN県に遺贈する旨の遺言(以下、「本件遺言」という)により撤回された(1022条参照)という主張である。
 契約⑧は、両当事者の合意により成立しており、書面によるものであるため、一方当事者たるKが単独で意思表示を撤回することはできないのが原則である(550条1項反対解釈)。
 しかし、死因贈与は性質に反しない限り遺贈に関する規定を準用するところ(554条)、1023条1項は、後の遺言と抵触する前の遺贈の意思表示は撤回される旨定めている。その趣旨は、遺贈者の生前の最終意思を尊重する点にあるところ、最終意思の尊重は死因贈与についても同様の要請があると言え、同項の規律は死因贈与契約の性質に反しない。
 したがって、前の死因贈与契約と後の遺贈の意思表示(遺言)が抵触する場合、後者によって前者が撤回されたと解することも許されるといえる。
3 したがって、主張エは妥当であり、請求4は認められない。

以上

民法は個人的によくできたと感じている科目のひとつです。
とはいえ、基本的事項に関する設問が多く受験生の平均レベルも高いと考えられるため、相対評価でどうなるかは未知数ですね。

■民法の主な使用教材は、以下の通りです。
基本書
民法の基礎Ⅰ総則(第5版)
プラクティス民法債権総論(第5補訂版)
基本講義債権各論Ⅰ(第3版)
基本講義債権各論Ⅱ(第3版)
契約法(中田裕康著)
リーガルクエスト民法Ⅵ親族(第5版)


商法(会社法)

設問1
1 まず、甲社の定款変更・Dの不再任が実質的なDの解任であると評価できるかについて検討する。
(1) Aが取締役任期短縮の定款変更をしたのは、「信任を得る機会を多くし、取締役の業務に緊張感を持たせ」るためであるという。
 しかし、甲社株式のうち60%はAとその親族でこれに同調するBCが保有しており、その他を甲社従業員が保有している。そうすると、Aらは、自分たちの議決権だけで自らを再任することが可能でありAらにとって緊張感をもって業務執行を行うインセンティブは生じない。また、Aら以外のDEについてはかかるインセンティブが生じ得るが、Aらが議決権の過半数を持っているということは、結局のところ、株主の信任を得るというのは取締役間の対立があった場合にAらが自由に再任の可否を決めることができるにすぎず、上述したAのいう目的達成にはつながらないと考えられる。
 よって、Aの提案した定款変更には、上記目的とは異なる隠れた目的が存在するものと考えられる。
(2) かかる定款変更に先立ち、Dは、Aが慣例に従ってDに4年で退任するように示唆したところ定款記載の任期満了(10年)まで取締役を務める旨応じ、AD間に対立が生じている。また、Aらが東北進出を計画するのに対し、Dはこれに反対意見を述べており、この点でもAらとDとの間に対立があったといえる。
 そうすると、Aの上記定款変更の提案は、上記のようなAらの方針に反するDに取締役をやめさせるためになされたものと考えることができる。
(3) Aは、定款変更の後、Aらの反対によってDを不再任としている。これは、もともと取締役任期があと8年、慣例に従ってもあと2年残っていたDを上記経緯によってAらが実質的に解任したものと評価できると解する。
2 そこでDは、会社法339条2項を類推適用し、甲社に対して損害賠償請求をすることが考えられる。
(1) 上述の通り、Dは実質的に「解任された」といえる。
(2) Dは、実質的解任と因果関係のある損害として、定款規定の任期残期間8年分の報酬相当額(月額40万円×12か月×8年分)の賠償請求をするものと考えられる。
 しかし、甲社には、乙社出身の取締役は定款規定にかかわらず、4年で取締役を退任する旨の慣例が存在した。そしてかかる慣例は、Dが甲社取締役に就任した時点で既に8年物長期にわたっていた。そして、Dは取締役就任にあたり、甲社代表者Aとの間で、4年間のみ取締役を務めることを前提とした合意をしている(事実4「61歳まで後者の取締役を務め」参照)。以上の事情を考慮すると、甲社とDとの間で、Dの任期を4年間とすることが取締役任用契約の内容となっていたと解すべきである。
 その後、Dは定款記載の任期満了まで取締役を務める旨述べているが、任用契約の内容を合意なく一方当事者たるDが勝手に変更することはできない。
 したがって、平成30年に就任したDの残期間分報酬に対する期待は令和2年時点で残り2年分についてのみ存在していたと考えるのが相当である。
(4) よって、Dの上記請求は、2年分の報酬相当額(月額40万円×12か月×2年分)についてのみ認められる。
(5) なお、DはAらと対立していたものの、取締役として不適格というべき事情はなく、Aらの東北進出計画に対する反対意見も、2年連続営業損失計上という根拠に基づく合理的なものであったといえる。したがって、Dの実質的解任について「正当な理由」があるとはいえない(339条2項参照)。

設問2
1 Jは、Gに対し、423条1項の責任を追及して甲社への損害賠償を請求するものと考えられる。
2(1) 「任務を怠った」(任務懈怠)とは、具体的法令定款違反のほか、取締役が会社に対して負う善管注意義務(330条、民法644条参照)に違反することをいうと解する。
 この点、業務執行上の判断のうち、高度な経営判断については、取締役に広範な裁量権が認められていることを前提とすべきである。なぜなら、会社はリスクをとって利益を獲得することが不可欠であるところ、そのような経営判断は専門的事項であって裁判官よりも経営の専門家である取締役の判断の方が尊重に値するし、事後的な裁判所の介入が大きくなされると、取締役が委縮して十分なリスクテイクをすることができなくなってしまうからである。
(2) 本件では、本件事業譲渡(譲受)をするにあたり、Gがデュー・デリジェンス(以下、「デューデリ」という)をしなかったことが任務懈怠にあたらないかが問題となり得るところ、事業譲渡をするか否か、その際にデューデリをするか否かは、まさに会社経営上の重要な判断であって上述した広範な裁量権の範囲内の事項といえる。
 そこで、上記裁量を考慮し、判断の基礎とした事情の収集・判断の過程が著しく不合理である場合に限り、Gの本件事業譲渡契約締結に至る一連の行為が善管注意義務違反としての任務懈怠と評価できると解すべきである。
(3) Gは本件事業譲渡契約の締結にあたり、乙社の資産状況が悪化している事実(事実8,9参照)を知っていた。また、Hから、乙社の日用品製造販売事業の在庫価値低下・知的財産権上の問題がある可能性、および、そのような事情がある場合にはデューデリをすべきである旨の専門家(弁護士)の意見があることを聞いていた。そうすると、必要な情報の収集はしており、その誤認もないことから、判断基礎事情の収集に著しい不合理はない。
 上記事実は、Gが本件事業譲渡契約締結に先立ち、日用品販売事業を過大評価して戊社が損害を被ることを回避するために、デューデリをすべきであることを示す事情であるといえる。そこで、そのような事情を基礎としてもなおデューデリをしないことが(厳密にそう言えなくても)一応合理的であると言えなければ、判断過程に著しい不合理があるものと考えることができる。
 この点、Gは戊社の親会社である甲社の利益を図って迅速な本件事業譲渡の実現をするためにデューデリをしない旨の意思決定をしている。しかし、甲社は戊社の完全親会社ではなく、戊社には甲社以外の株主が40%も存在する。そのため、Gは戊社取締役として、戊社独自の利益を図るべき立場にあり、特定の株主のみの利益のために戊社が損害を被ることがほとんど確実な行為をするべきではない。また、Gは甲社代表取締役Aから再任しない旨の脅しを受けているところ、そのような個人的利害を考慮して経営判断を行うことは、戊社の利益最大化という観点からすると他事考慮であって、これを判断根拠としているのであれば、不合理である。
 以上より、Gが上記基礎事情を認識しつつあえてデューデリをしなかったことに合理的理由があるとはいえず、判断過程は著しく不合理なものと評価すべきである。
(4) よって、Gには善管注意義務違反の任務懈怠があるといえる。
3 Gは本件事業譲渡を受けることを決定した取締役会の決議には参加していないものの、その前にデューデリを行うべきでない旨説明しており、これによって本件事業譲渡が決定されているから、戊社がデューデリなしに本件事業譲渡契約を締結したことにより生じた損害とGの判断には因果関係があるといえる。
 本件では、本件事業譲渡契約の締結それ自体ではなく、デューデリをしなかったことがGの任務懈怠となる。そして、仮にデューデリをしていれば、本件事業譲渡の対価は1000万円とされていたはずである。そうすると、実際に支払った対価と上記金額との差額として3000万円が、Gの判断により生じた損害と考えられる。
 428条1項反対解釈から、423条1項の責任が生じるには任務懈怠についての故意・過失を要するといえるが、任務懈怠を注意義務違反と解する以上、その判断と過失の存否判断とは実質的に重複する。よって、Gには過失も認められる。
4 以上、JはGに対して、423条1項の責任追及として、甲社への3000万円の損害賠償請求をすることができる。

設問3
1 丁銀行は、会社法22条1項を類推し、これに基づいて戊社に乙社の残債務の弁済を請求することが考えられる。
(1) 戊社は乙社から「事業を譲り受けた会社」であるところ、乙社の商号を俗謡しているわけではないから、同項を適用することはできない。
 もっとも、同項は、事業譲渡があった場合において、取引相手方が、譲受会社が譲渡会社であるまたは譲受会社が譲渡会社の当該事業にかかる債務を引き受けたものと信頼し得る場合において、そのような信頼を生じさせるような外観作出に寄与した譲受会社の帰責性を捉えて、上記信頼を保護する点にその趣旨がある。よって、商号自体の続用がなくても、屋号その他取引相手方に譲受会社が譲渡会社であると誤信させるような行為があった場合には、同項を類推適用できると解する(ゴルフクラブの名称続用につき22条1項の類推を認めた事例がある)。
(2) 戊社は、本件事業譲渡を受けた後、「乙」と記載された登録商標Pを使用し、これを付した日用品を一般消費者に対して販売している。一般消費者にとって、商標Pが付された商品は、「乙」との記載がある以上乙の商品であると考えるのが通常であり、戊社は登録商標Pを描写した看板を設置し、ウェブサイトでも商標Pを用いて宣伝するなど、そのブランドを一般消費者に特に認識させて上記日用品を販売している。たしかに乙社は従前卸売しかしておらず、また乙社商品は従前主として首都圏で販売されており戊社が販売しているのは関西地方であるという事情はあるものの、一般消費者にとっては販売を行っている会社は重要ではなく、同じ商標が付されている以上同じ主体の商品と考えるであろうし、情報流通も活発である。また、乙社・戊社間では、商標Pに顧客誘引力があることを前提にその続用を認める合意をしている。
(3) 以上から、一般消費者にとって戊社を乙社と誤信するような外観が存在し、それを戊社が作出していると評価できる。
 よって、22条1項を類推適用し得る。
(4) もっとも、乙社の丁銀行に対する債務は、事業譲渡がなされた日用品販売事業について生じたものではなく、乙社のその他の事業も含めた全体について生じたものである。したがって、事業譲渡がなされた「事業によって生じた債務」にはあたらず、丁銀行との関係では、22条1項を類推適用する基礎に欠けるといえる。
(5) よって、丁銀行の上記請求は認められない。
2 次に丁銀行は、戊社に対し、23条の2第1項に基づき、乙社の残債務の弁済を請求することが考えらえれる。
(1) 丁銀行に対する債務は、本件事業譲渡の対象となっていない。
(2) 取引安全の見地から、残存債権者を害するか否かは、帳簿価格を基準に考えるべきである。本件事業譲渡は、帳簿価格上4000万円の価値のある事業を、2000万円の対価で譲渡するものであり、これにより乙社は無資力となる。
 よって、残存債権者を害する。
 「害することを知って」とは、譲渡会社の責任財産の減少の認識をいい、積極的に残存債権者を害する意図まで要するものではない。乙社は財産状況の悪化を知りつつ、負債を残して本件事業譲渡をしているから、悪意がある。
 戊社も乙社の業績悪化を知っているから悪意または重過失。
(3) 「承継した財産の価額を限度」とするから4000万円。

(途中答案)

商法も途中答案になってしまったこと以外は、概ねよくできたと感じています。
なお、個人的こだわりポイントは、問題文中にDという人物が存在するため「DD」は不適切と考え、デュー・デリジェンスを「デューデリ」と定義した点です(笑)
あまりコメントすることがなくて困っていますが、成績通知を受けてからまた追記したいと思います。

■商法の主な使用教材は、以下の通りです。
基本書:リーガルクエスト会社法(第4版)
演習書:会社法事例演習教材(第3版)


民事訴訟法

設問1
1 課題1について
(1) 甲が被告となる見解として、意思説がある。意思説とは、原告が被告であると考えている者を被告側の当事者として確定する見解である。
 かかる見解は、民事訴訟手続きという紛争解決手段をわざわざ用いた原告の意思を尊重し、紛争の実質的・一回的解決に資することを根拠とする。
(2) 本件では、Ⅹは賃貸借契約の相手方たるMテックを被告として、かかる賃貸借契約の解除に基づく目的物返還請求をしている。そうすると、Ⅹとしては、Ⅹとの賃貸借契約の当事者であったMテック、すなわち甲を被告とする意思を有していたと解するべきである。
(3) 以上より、意思説からすると、本件訴訟の被告は、甲となる。
(4) 乙が被告なる見解として、形式説がある。形式説とは、訴状の当事者欄(民事訴訟法133条2項1号参照)に当事者として記載された者を当事者として確定する見解である。
 かかる見解は、手続的安定性を重視するもので、訴状の送達を受けるのも訴状に被告として明示された者のみであることから被告側に過度の負担をかけない点に根拠がある。この見解からは、意思説に対して原告の便宜のみを重視して手続安定性・被告の応訴の煩を軽視しているとの批判があり得るほか、行動説や規範分類説といった他の見解に対しては、訴訟の開始時点で当事者が確定していないのはおかしいとの批判がなされるところである。
(5) 形式説からすると、Ⅹが本件訴訟の訴状に記載したMテックとは現在の乙を指すものであるから、本件訴訟の被告は、乙となる。

2 課題2について
(1) 自白とは、口頭弁論期日において弁論としてなされた、事実についての主張のうち、自己に不利益なものであって、相手方の主張と一致するものをいう。
(2) 本件訴訟の被告は、乙であり、Aがその代表者として訴訟追行をしている。
第2回口頭弁論期日におけるAの陳述は、Ⅹの主張する請求原因事実(1)(2)(3)について、これを全面的に認める旨の陳述である。これは、事実についてその存在を認めるという主張で、弁論としてなされたものであり、相手方Ⅹの主張と一致する。
 自己に不利益とは、主張立証責任が相手方に分配されていることをいうと解される。そして、請求原因事実の存在は、法律要件分類説の下、その存在を証明して効果の発生を求める原告に主張立証責任があるといえる。本件では、賃貸借契約の解除に基づく目的物返還請求権の発生についてⅩは(1)(2)(3)の主張立証責任を負っており(民法601条、541条本文、545条1項本文参照)、乙代表者Aは、これについて認めている。よって、自己に不利益な事実についての主張といえる。
(3) 以上より、上記Aの陳述について、自白が成立するといえる。
(4) 自白が成立すると、私的自治の原則の訴訟法的表れである当事者主義・弁論主義に由来する自白法則(裁判所は当事者に争いのない事実を判決の基礎としなければならない旨の原則)により、自白が成立した事実について争うことができなくなる効力・不要証効(179条参照)のほか、撤回制限効が生じる。これは、自白が成立したという相手方の信頼を不当に害さないようにするためである(たとえば相手方がかかる事実についての証拠を破棄してしまうなど)。
 そのため、自白を撤回し得るのは、一定の場合、具体的には相手方の同意がある場合、刑事上罰すべき行為によって自白をさせられた場合、自白した事実が真実に反しそのことについて錯誤があったために自白をした場合に限られると解される。ひとつめは上記撤回制限効を生じさせるべき根拠が妥当しないため、ふたつめ・みっつめは、真意に反して自白をした者の保護の要請が相手方の自白成立に対する信頼の保護よりも上回るからである。
(5) 本件において、X乙間には何らの契約関係も存在せず、したがってⅩ乙間についてみる限り、上述した(1)(2)(3)の事実は、いずれも真実ではないことは明らかである。
 したがって、Aは上記各事実が真実に反することを立証できる。反真実が立証された場合、事実上、自白が錯誤に基づくことが経験則から推定される。しかし、本件では、AはⅩの訴訟提起による紛争解決を害するために登記手続をして、Ⅹに甲乙を誤認させている。そのようなAとしては、Ⅹが甲と誤って乙を被告に訴訟提起していることを当然認識しているといえる。そのため、Ⅹ乙間についてなされた上記各事実の主張がすべて真実でないことについても、当然認識していたといえ、反真実についてAに錯誤は存在しない。
 よって、代表者Aに錯誤がない以上、乙にも錯誤がないといえる。また、Ⅹの同意はないし、Aが他者の働きかけによって自白をしたという事実もない。
(6) 以上より、第3回口頭弁論期日におけるAの自白撤回は認められない。

設問2
1 本件訴訟においてⅩの主観的追加的併合の申立て(以下、「本件申立て」という)が認められることを論ずるにあたり、まずはこれを許容しえない論拠(最判昭和62年の挙げる問題点の第2から第4に相当)が、本件訴訟に妥当しないことを論じる。
(1) まず、主観的追加的併合は二当事者対立構造を採る第1の請求に他の第三者を相手方とする第2の請求が併合されるものであり、一つの手続にかかわる当事者が増加する点で、一定程度訴訟が複雑化することは否めない。
 もっとも、本件において新たに加わる当事者たる甲は、その代表者をBとするものの、実質上、BはAの意思に従ってその実態に反し形式上甲の代表者になったにすぎず、依然甲はBを介して事実上の主宰者たるAの意思の下に動く存在であるといえる。そうすると、甲が新たに加わるとしても、その実は乙の訴訟追行を行う代表者Aと同視でき、複雑化の程度は非常に低いといえる。また、後述するように甲(代表者B)にはⅩ乙間の訴訟状態を承認すべき義務が課されると解されるところ、これによっても複雑化の弊害はほとんど生じなくなるといえる。
(2) また、本件においてⅩが本件申立てをするに至った経緯は、Yが甲乙の登記簿登録を利用してⅩに乙を甲と誤認させたことに基づく。そうすると、Ⅹが紛争解決のために本件申立てをせざるを得なくなった理由を作出したのは被告側の乙であって、原告の濫訴という弊害が本件訴訟で問題となることはない。
(3) 訴訟遅延の弊害につき、設問1の通り、Ⅹ乙間の請求について、すでにⅩの請求原因はAが全面的に認めて自白が成立しており、その撤回も認められない。そうすると、Ⅹ乙間の請求は既に機が熟しており、判決ができるといえる(243条2項、3項)。
 よって、本件申立ての結果、別訴提起がなされた場合よりも訴訟遅延の弊害が生ずるということはないと考えられる。
(4) 以上より、一般的には再犯昭和62年の通り主観的追加的併合を認めるべきでないとしても、これによる弊害がほとんど生じず、むしろこれを認めるべき合理的理由がある場合には、主観的追加的併合を許容してよいと解する。
2 本件において、上述の通り、甲はBを代表者とするものの、その実はAの支配下にある実体であり、しかも甲乙の存在はⅩの本件訴訟を徒労に終わらせるためだけにAが作出したものである。そうすると、甲乙の法人格は実体法上否定され得るし、そうでなくとも、甲乙がBを介してAと同視できる以上、Aの意思を受けた甲(B)が、Ⅹ乙間の訴訟状態(Aによる自白成立も含む)を承認せず、これに反する主張立証を行うことは、信義則上許されないと解すべきである。
 したがって、Bには信義則上、Ⅹ乙間の訴訟状態を承認すべき義務があり、本件において、Ⅹ乙間の訴訟状態は、当然にⅩ甲間の請求に流用できる。よって、本件において主観的追加的併合を認めるべき合理的理由があるといえる。
 なお、同時審判申出共同訴訟(41条1項参照)があり得る以上、主観的追加的併合を認めるべきではないとも思えるが、これによる場合控訴審以降では合一確定が図られない可能性があり(同条3項参照)、なお主観的追加的併合を認めるべき実益があるといえる。
3 以上より、本件において主観的追加的併合を認めることによる弊害はなく、これを認めるべき合理的理由があるから、本件申立ては認められると解する。

設問3
1 「文書」とは、民事訴訟法上の証拠方法のひとつであって、特定人によって作成され、その者の意思・観念が表示されているもののうち、人間の視覚作用によって直接当該意思・観念が読み取れるものをいい、権利・義務・法律関係またはその他の事実の証明に用いることができるものをいうと解する(権利・義務・法律関係の証明に用いるものを処分証書、その他の事実証明に用いるものを報告証書という)。
2 USBメモリは、電磁的記録媒体であってコンピュータ等を用いなければその内部に記録された内容を読み取ることができない性質を有する。よって、視覚作用による可読性がなく、これは「文書」とはいえない。
3 231条は、書証の規律によるべき文書以外の物の準用規定であるところ、技術発展とともにそのような要請のある物件は増加していくから、同条記載の物件は例示列挙であると解される。したがって、USBメモリが同条に列挙された物件度同様の性質を有するといえれば、同条を類推適用し、書証の規定を準用できると解する。
 USBメモリは、内部に情報ファイルを保存した電磁的記録媒体である。その内部に記録された各情報ファイルは、すべてログをたどればだれがいつ作成したものか確認可能である。また、かかる各ファイルは、文書の性質を有するもの(PDF)ないし、図画・写真・録音テープ・ビデオテープなど、231条に列挙され、書証についての規律を準用し得るものに限られる。そうすると、USBメモリは、書証の規律が妥当する物の集合体という性質を有するということができる。したがって、231条に列挙された物件について書証の規定の準用が認められる以上、その集合体たるUSBについても同様に証拠調べをする必要があるし、可能であるといえる。
4 よって、USBメモリは、231条に例示列挙された物件に類似する性質を有するから、同条を類推適用し、書証の規律によって取り調べることができると解する。

以上

民訴は2日目最後の科目でかなり疲れていました。
形式的表示説を「形式説」と書いたり、主観的追加的併合が問題となっているのに同時審判申出共同訴訟の話を持ち出したりと、明らかに集中力が欠けていたことが伺えますね(笑)

■民訴の主な使用教材は、以下の通りです。
基本書:リーガルクエスト民事訴訟法(第3版)


■2022/09/22追記

司法試験の成績が開示されました。
民事系は、211.47点(民法A、商法A、民訴A)で39位(上位約1.56%)でした。

3.おわりに

民事系はいかがだったでしょうか。
個人的には、昨日公開した公法系と比べると、良くも悪くも無難な答案をそろえているな~という印象です。
もっとも、今年はほとんどの受験生がそうだと思いますが(笑)

再現答案の公開は、次回の刑事系で最後となります。
今回も読んでくれてありがとうございました!
よろしければ、投げ銭よろしくお願いします!


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