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限界集落の古民家事情その2・遺影と仏壇のある家で暮らす家守

今回は岐阜県のとある限界集落に移住した地域おこし協力隊が暮らす、仏壇と遺影あるいはその他のものが残り、時折法事も開かれる空き家事情について踏み込みます。田舎の空き家特有の事情を知っていただけたらと思います。

空き家を取り巻く状況

元の大家さんが亡くなられて以来物件はその現在の大家さんが相続したものの、10年近く住むことは無くなっていました。しかしお盆、法事あるいは墓参りといった行事の際は大家さんや親戚の方が戻られるため、なかなか人に貸すこともできず、長期に渡って空き家となっていました。

家は人が住まないとどんどん痛むと言います。実際、過去には真冬に水道管が凍結し破裂した結果、床が水浸しになって修理をしたことや豪雪時に集落の方が協力して雪おろしをすることなどもあったようです。

加えて、家が所有する農地が日本型直接支払い制度に加入しているため、農地の維持が必要であることから、年に数回大家さんが戻ってきて農地維持のためだけに草刈りをしていました。年に数回とはいえ一日では到底終わらせられない作業量ですので、負担はなかなかのものです。

そこに来たのが地域おこし協力隊として赴任して来たどこぞの若者、初めて来た時はその広さに圧倒されました。なんせ以前の住居は6畳のみでしたので。その家には仏壇、遺影、お墓はもちろんのこと、古い布団、置物、食器類もフル装備でした。こうしてリアル家守としての私の生活が始まりました。

では現代を生きる家守はどんなことをしているのでしょうか。ざっくりいうと以下のようになります。

・生活している
・家賃を払う
・掃除をする
・法事のときに家を使わせる
・庭の手入れ
・農地の管理
・カビた布団など不要品の廃棄

法事のときに家を使わせる、というなかなか珍しい項目もありますが、家が広く、仏間とその隣のお部屋などは常に空いているため、案外うまく暮らせています。では、こんな形での家の貸し借りはどんなメリットがあるのでしょうか。

貸し手のメリットとデメリット

メリットは何よりもまず家賃収入が毎月入ることでしょう。空き家にしていたら固定資産税、修繕費、火災保険料、区費などを支払い続けるだけであったところに毎月決まった額が収入として入ってきます。いくら土地柄家賃が安いとはいえ、マイナスだったものがプラスになるのでは全くもたらすものが違います。

管理の手間が大きく減ります。住んでいれば部屋の掃除をしますし、部屋の換気も当然でき、仮に大雪が降れば雪下ろしもします。ハードワークの草刈りも代行しているので、わざわざ大家さんが草刈りに戻る必要もなくなりました。

デメリットとしては以前のように自由に家を使えなくなったことですが、普通の賃貸物件でしたらそもそも入居者がいる家を使えないので(笑)、まぁデメリットというほどのことではないでしょう。

借り手のメリットとデメリット

では借り手のメリットは?大家さんが戻ってきたり、残置物があったり、農地の整備をしたりと不自由が多いのでは?となりますが、メリットはあると思っています。

ひとつは必要な備品購入の費用を抑えられることで、これから仕事や物件の購入など生活を少しずつ整えていきたい移住者の仮住まいとして都合がいいことです。例えば、冬の古民家はなかなかに冷え込むのですが、コタツやストーブなどは最初からいくらでもあるので購入不要ですし、キッチンの設備や洗濯機なども備え付けのものを使わせていただいています。

同様に山奥の古民家というは基本的に何らかの形で農業に関わっていた家がほとんどであり、何らかの形で農に携わってみたい人にとって高額なトラクターのような農機具を初期投資ゼロで、しかも家の管理をするという名目でお借りすることができる可能性があります。(もちろん借用については事前にしっかりと相談が必要です)

もうひとつ重要なのは古い家を守っていると近隣の方からも喜ばれるということです。小さな集落の方達というのは年月を遡れば、多くの人が親戚同士であり家も土地も同じルーツをもつのです。

集落の方達はそれぞれの家を昔からの呼び名である「屋号」で親しみをもって呼びます。集落の一部の家と農地を守るということはその近隣の方達にとって長らく縁のある場所を守っていることに近いと感じます。

なのでこれをしっかり守ることで移住者でも地域における信用が少しずつ溜まっていくんじゃないかなと思っています。裏は返せばしっかりできないと信用を落とすことになるのでプレッシャーでもありますが。

現代に蘇る家守という仕事

江戸時代には家守という仕事があったようです。実際に大きな家や土地を管理することを仕事としていた人がいたそうです。

や もり [1] 【家守】
① 家の番をすること。また、その人。
② 江戸時代、地主・家主に代わって、土地・家を管理し、地代・家賃を取り立て所有者に納める人。町人の待遇をされた。差配人。大屋。

最近では定額住み放題のサービスを提供するADDressさんが、各地のADDressの家での生活をサポートする方を家守として採用されているそうです。家守は現代の仕事としてついに蘇ったのですね。

個性的な「家守(やもり)」
家守とは、ADDressの家での生活をサポートするコミュニティマネージャーです。
各物件には個性溢れる地域住人が管理者として担当に付き、地域との交流の機会やユニークなローカル体験、その地に暮らしているからこそ分かる情報をご提供します。

家守には次のような役割が任されており、月々数万円の報酬があり、場合によっては住み込みで働かれている方もいるようです。確かにその仕事はかつての家守に近いようです。

Community 地域に住む人と訪れる人の架け橋になり、コミュニティを育みます。
Hospitality 滞在の受け入れや、周辺のお店の紹介など日々の暮らしをサポートします。
Cleanliness 共有部分の清掃やゴミ出しなどを行い、清潔な家を保ちます。

今後さらに空き家が増えることは間違いありません。そしてそれらの空き家が仮に放置されて老朽化して特定空き家として認定されれば税制上の優遇も受けられなくなります。

今回紹介した事例は本当に一つの事例であり、それを一般化するということは難しいものです。ですが、一つ言えるのは、空き家を放置せずに向き合いどうするのが良いかをしっかり考えれば案外、活用の道はあるのではないかということです。ぜひみなさんもそこにある空き家と向き合ってみてください。

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限界集落の古民家に入居させていただくことになった経緯と周辺の知人たちの物件探しの様子はこちらの記事をどうぞ。


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