季節外れの

「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう」


山下達郎の『クリスマス・イブ』

この曲を聴くと浮かんでくるのはイルミネーションが煌めく街の様子である。



恋人なのか片想いの相手なのか。はたまた別れた人なのか。

誰かはわからないが、イルミネーションが煌めく街でその人を一人待ち続けているのである。

周りにはイブの夜を楽しく過ごすカップルもいるだろうし、家族と過ごすために家路を急ぐサラリーマンもいるだろう。

その中で自分だけは、来てくれるかどうかも分からない人を待つ。孤独な時間を過ごしているのである。

周りに対する羨ましさや眩しさ、寂しさや不安など、その心中は穏やかではないだろう。


「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ」

「心深く 秘めた想い 叶えられそうもない」

「必ず今夜なら 言えそうな気がした」

クリスマスイブの今夜、今まで秘めていた想いを伝えるために勇気を出して誘ったのだろう。

しかし相手が来る気配はない。

今夜なら言えそうな気がしたのも強がりで、もしかするといざその人を目の前にしたら伝えることはできなかったかもしれない。

待っている間の来てくれるか分からない不安は、今となっては来ないことへの悲しさや辛さへと変わり、あるいはひょっとすると想いを伝えるのを先延ばしできた安堵感も心の片隅には湧き出てきたかもしれない。


「まだ消え残る 君への想い 夜へと降り続く」

伝えることが叶わなかった想い。

本来であればどのような結果になろうとも、この夜で心から消え去るはずだったもの。

消すことのできなかったこの想いは、降り続く雨と共に、この人をまだ纏っているのである。


「街角にはクリスマス・ツリー 銀色のきらめき」

「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう」

降りしきる雨は夜更け過ぎには雪へと姿を変え、ホワイトクリスマスを演出しようとしている。

しかしこの人は変わることがなく、いや変わるはずだった自身を変えることができずにいる。

変化するこの環境とは裏腹に、まるで一人だけ、きらびやかなクリスマスイブのこの夜から切り離されているような状況に置かれているのである。


「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ」

「Silent night, Holy night」

きっとこの人は相手のことをしばらく待つのであろう。

周りの喧騒から切り離され静かな聖なる夜をじっと味わうのである。

しかし日付が変わり、「クリスマス・イブ」が終わったその人に、「ひとりきり」ではないクリスマスが来ることを祈りたくなる。


そんな切ないラブソングを私はこれからも聴き続けるのであろう。

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