暖冷房負荷を手計算で求めてみよう(1)
暖冷房負荷を手計算で求める方法について紹介します。
今回は第1回目です。
暖冷房負荷とは?
以前、暖冷房負荷について説明させて頂きました。暖冷房負荷が減ると暖冷房のエネルギー消費量も減ります。暖冷房の省エネ・光熱費削減などには、暖冷房負荷とは何かを理解し、その減らし方について勉強することが大事です。
今回、暖冷房負荷という概念をより詳しく理解するために、手計算で暖冷房負荷を求めるということをやってみます。
室温をあげる熱とさげる熱
暖冷房負荷を計算するにあたって、「室温をあげる熱」と「室温をさげる熱」という概念が重要であることを述べました。そして、この「あげる熱」と「さげる熱」とがアンバランスになった時に暖冷房負荷が発生するということも述べました。
従って、暖冷房負荷を計算するにはこの「室温をあげる熱」と「室温をさげる熱」を計算することが大事です。
計算の前提
暖冷房負荷は簡単にするため、LDKの1室で求めたいと思います。次の図は、自立循環型住宅プロジェクトで公開されている平面プランです。
ここでは、住宅全体を対象にするのではなく、1階のLDKを対象とします。
また、断熱性能や日射熱取得性能は、詳細な説明は省きますが、建築物省エネ法における平成28年基準相当であるとします。
暖房負荷の計算
前提条件
暖房負荷を計算するにあたって、次のような前提を置きます。
地域:6地域
室温:20 ℃
外気温度:0 ℃
日射量:500 W/㎡
何を計算するか?
暖房負荷を計算するにあたって、次の熱流を計算します。
<室温をあげる熱>
・日射によって入ってくる熱
・日射によって屋根や壁から熱伝導により入ってくる熱
・日射によって窓から入ってくる熱
・内部発熱
・人体からの発熱
・冷蔵庫などの家電からの発熱
・調理による発熱
<室温をさげる熱>
・室内外温度差によって壁や窓などを伝わって出ていく熱
・換気によって出ていく熱
日射によって入ってくる熱
日射によって入ってくる熱は次の2種類あります。
・屋根や壁などの不透明な部位から(熱伝導によって)入ってくる熱
・窓などの透明な部位から(透過と一旦ガラスで吸収された熱の再放熱によって)入ってくる熱
詳しくは、次の記事で説明しましたので参考にしてください。
いずれにせよ、日射によって入ってくる熱は次の式で計算することができます。
日射量は、水平面において計測するのが一般的です。これを水平面全天日射量と言います。「全天」という言葉の説明の詳細はここでは省きますが、太陽から直接くる日射が「直達」、一旦、大気中の水蒸気などによって拡散されてから間接的にやってくるのが「天空」、それらを合わせたのが「全天」というイメージです。単位は W/㎡ です。
m値とは、水平面全天日射量が 1 W/㎡ だった時に、最終的に部屋の中に何ワット熱が入ってくるのかを表す指標です。この値が大きいと日射によって熱が入ってきやすいといえます。m値の説明は次の記事を参考にしてください。
ここで計算しようとしている自立循環型住宅プロジェクトにおける住宅のプランのLDKにおけるm値を求めます。m値は、暖房期と冷房期で方位係数の違いにより異なる値をとります。今回計算するのは暖房負荷ですから、暖房期のm値、mH値を求めます。LDKのmH値を、壁・屋根・ドア(勝手口)・窓ごとに集計したのが次の図です。窓から入ってくる日射量は多いため、方位によって東と南に分けて集計しました。
やはり窓から入ってくる日射量は相対的に多く、南の窓だけで半分近くを占めています。これらの値を合計したmH値は4.06 W/(W/㎡) でした。これに日射量をかけると部屋に入ってくる日射量がわかります。日射量は 500 W/㎡ ですから、
4.06 W/(W/㎡) ✕ 500 W/㎡ = 2030 W
となります。これが日射によって入ってくる熱となります。
内部発熱
次に内部発熱を求めます。内部発熱には、
・人体からの発熱
・冷蔵庫などの家電からの発熱
・調理による発熱
があります。
人体からの発熱は室内の温度によって変わり、室温が高くなるにつれて放熱量は減っていきます。様々な式が提案されていますが、ここでは下記の式で表されるとします。
人体からの発熱(W) = 63 ー 4 ✕(室温 ー 24)
参考:宇田川, パソコンによる空気調和計算法
例えば室温が20℃で部屋に2人居たとすると、1人あたりの発熱量は上の式から 79 W と求まりますから、2人居る場合は 158 W となります。
次に家電からの発熱の代表として、冷蔵庫を冷蔵庫からの発熱について計算します。冷蔵庫は、運転時・停止時・霜取り運転時によって発熱量は変動しますが、ここではざっくりと年間消費電力から計算しようと思います。例えば、330 kW/年 の冷蔵庫があったとすると、これを年間の時間数 8760 時間でわると、 330 ✕ 1000 ÷ 8760 ≒ 38 W となるので、冷蔵庫からの発熱は 38 W とします。
調理の発熱については、今回は、ゼロとします。
室内外温度差で壁や窓などを伝わって出ていく熱
室内外温度差によって壁や窓などを伝わて出ていく熱は次の式で計算できます。
ここで、q値とは、室内と室外の温度差が1℃あった時に、外皮(壁・床・窓・屋根/天井・ドアなど)を通じてどの程度の熱流(W)が流れるのかを表す指標で、家の保温性能を表します。断熱性能とも言います。このq値を外皮の面積の合計で割った値が、建築物省エネ法の申請などで使用されるUA値となります。q値については次の記事を参考にしてください。
自立循環型住宅のプランのLDKでq値を計算してみました。m値と同様に部位ごとのq値を示します。
日射熱ほどではありませんが、面積の割には窓からの熱損失が大きいことがわかります。なお、床の損失が大きいのは単純に壁に比べて面積が大きいことによります。また、天井からの熱損失がありますが、これは2階への熱損失という意味ではなく、台所の北側にある下屋から外気への熱損失を表しています。
これらの値を合計したq値は168.6 W/K でした。これに室内と室外の温度差をかけると、温度差に起因する熱損失量が計算できます。室内と室外の温度差は20℃でしたから、
168.6 W/K ✕ 20 K = 3372 W
となります。
換気によって出ていく熱
換気には常に行わないといけない量(全般換気)と、台所で調理をする時や、風呂などで一時的にまわす量(局所換気)があります。全般換気は常に換気回数0.5回分をすることが建築基準法で義務付けられています。暖冷房負荷計算では、全般換気と局所換気の両方を考慮して計算することが重要ですが、ここでは計算を簡単にするため全般換気のみを考えたいと思います。
換気回数0.5回換気をしなさいということは、部屋の容積に0.5をかけた分の空気を1時間で換気しなさい、ということです。そこで、まずは例題のLDKの部屋の容積を求めます。台所は下屋がある部分とそうでない部分で高さが異なるため注意が必要です。(端数は適宜四捨五入しています。)
LD:床面積(21.5㎡)✕高さ(2.4m)=51.7(㎥)
台所(北側の下屋部分):床面積(4.14㎡)✕高さ(2.25m)=9.3(㎥)
台所(南側):床面積(4.14㎡)✕高さ(2.4m)=9.9(㎥)
合計:51.7+9.3+9.9=70.9(㎥)
このようにして求めた容積に0.5をかけた値、35.46(㎥)が換気に必要な量となります。
換気による熱損失の計算方法は次のようになります。
35.46 ㎥/h ÷ 3600 s/h ✕ 1.2 kg/㎥ ✕ 1005 J/(kg K) ✕ 20 K = 237.6 W
となります。ここで、空気の密度と比熱は空気の温度や湿度によって変化しますが、ここではそれぞれ、1.2 kg/㎥ と 1005 J/(kg K) としました。
熱収支
計算は終わりです。ここで、これまでの計算結果をまとめます。
日射によって入ってくる熱:2030 W
人体からの発熱:158W
家電からの発熱:38W
外皮を通じて流れ出る熱:3372 W
換気によって出ていく熱:237.6 W
これで、室温をあげる熱(収入)と室温を下げる熱(支出)が計算できました。次からは、これらの値を収支を検討して、暖房負荷がどのくらいか?暖房負荷を下げるにはどうすればよいか?について見ていきたいと思います。
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