『アはアーケードのア』 第16回『タルボット』(1982年アルファ電子)

トラップを仕掛ける等でウサギを捕まえるメイズゲーム

 『タルボット』は、アルファ電子が制作した固定画面の迷路アクションゲームです。

 プレイヤーは、フィールドを逃げ回るウサギを捕まえ、できるだけたくさん自陣まで連れ帰ります。ただし、フィールドには敵のコンピュータキャラもいて、同じようにウサギを捕まえて回っています。自陣は画面下側、敵陣は上側にあり、ウサギをより多く連れ帰れば勝ち(先へ進める)という遊びです。

 強いて雰囲気の近いゲームを挙げると、逃げていくターゲットを追ったり、待ち伏せするプレイ感覚が、セガの『アリババと40人の盗賊』辺りに近いかもしれません。

多彩な要素が盛り込まれているのだが……

 アルファ電子はこのゲームを何度かバージョンアップしてはロケーションテストを行なっていたようで、ぼくが当時実際にプレイしたのは、タイトルに「PARTⅡ」と書かれたバージョンだったと記憶してます。

 タイトルの『タルボット』は、猟犬を意味する言葉です。PARTⅠ(無印版)では、ツインレバーでプレイヤーと猟犬を操作し、ウサギを挟み撃ちにするなどして捕まえていくゲームだったそうです。

 プレイヤーは、猟犬を使ってマップ上にまきびしのトラップを置くこともでき、この上ではウサギの(そして自分も)動きが鈍くなるので、これもうまく利用して捕まえていきます。ほかにも、ウサギが集まりやすくなるニンジンや、プレイヤーが速度アップするミルクなどのアイテムもあります。

 この猟犬の役割がとくにわかり難かったため、『タルボット』というタイトルにもかかわらず、PARTⅡでは猟犬の仕様は廃止され(!)、レバーとボタン操作に変更されました。代わりに、弾を撃って敵キャラクターの動きを一時的に止めるというフィーチャーが加えられています。

 印象としては、いろいろな役割のキャラや仕掛けが画面中に混在して、かなりゴチャゴチャしています。迷路の仕切りにも森や川など多彩なデザインを使っているがために、パッと見でわかり難いものになってしまっています。何をどうすればよくて何がダメなのか、なかなか理解できないゲームでした。

“ダメなものはどうやってもダメなんだ”

 話は少し飛びますが、昔、当時埼玉県上尾市にあったアルファ電子へお伺いし、直接開発の方々にお話を聞かせていただく機会がありました。『クラッシュローラー』『チャンピオンベースボール』『エキサイティングサッカー』などが出たあとだったので、その辺の話をお聞きした記憶があります。

 『タルボット』についても質問して、「よくあのゲームを知っていますね?」と驚かれた覚えがあります。『タルボット』はほぼ没ゲームといってもよい、希少なゲームだったのです。ぼく自身、埼玉のとあるゲームセンターでしか見たことがありませんでした。

 開発の方々は、『タルボット』は何度か手を加えてつくり直したが、どうしてもおもしろくならなかったと述懐しており、その一人が最後に笑い話を語るようにこう仰っていました。「あのときよくわかった。ダメなものはどうやってもダメなんだと」それが、『タルボット』という企画案と格闘し続けた末に、開発者がたどり着いた結論でした。強烈な言葉だと思いました。

 自分もつくる側になってみると身につまされる話で、最初のコンセプト立てで方針を間違えると、表面的にあれこれ直したところでどうにもならないことは、ゲーム開発においてしばしば起こります。繕うことはできるのですが、それで抜本的解決になることはなかなかありません。

 そうした体験を経ることで、その後同社は『チャンピオンベースボール』や『エキサイティングサッカー』のような遊びとしてルールが確立されているスポーツ物や、『エクイテス』『スプレンダーブラスト』『ハイボルテージ』のような骨太なSTG開発に移行していったのだと思います。了

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