『アはアーケードのア』 第6回『カンガルー』(1982年サン電子)

その名のとおり“カンガルー”が主人公という特異なゲーム

 『カンガルー』はいたずら猿に捕まった我が子を救うべくママカンガルーが奮闘する、固定画面タイプのジャンプアクションゲームです。

 『カンガルー』は基本的に『ドンキーコング』の亜流といえます。違いとしては、マリオとレディの関係がカンガルーの母子に変わっていて、コングの代わりに無数の猿軍団が邪魔をしてきます。また、一つしかないボタンがパンチに割り当てられているので、ジャンプはレバーで行ないます。

 操作感としては、主人公カンガルーのサイズが大きく、ジャンプの挙動などもあまり機敏な感じではありません。その分、キャラクターの動きは『ドンキーコング』以上に多彩でよく描かれており、カンガルーという特異な主人公がとても印象に残る作品となっています。

さまざまに工夫された『カンガルー』ならではのアイデア

 『ドンキーコング』の場合、ハンマーを持たないと攻撃手段がないのに対し、『カンガルー』は常にパンチで反撃ができます。これで敵の猿や飛んでくるリンゴを撃破します。敵はリンゴを上中下段と投げわけてきますが、パンチは中段にしか出せないので、下段はジャンプ、上段は伏せでかわします。

 基本的に最上段のゴールを目指す遊びなのですが、ステージ3だけ独特で、檻を支える猿たちをパンチでダルマ落としのように外していき、高さを変えることでうまく檻に飛び移ることが目的です。メリハリのつけ方として『ドンキーコング』でラストだけクリア条件が異なるのと考え方が近いといえます。

 道中にはフルーツターゲットがあちこち配置されており、取って消えた後も、同じく道中のベルを鳴らすことで、より高得点のフルーツになって復活します。ただ、これは道中を逆戻りする必要があり、行ったり来たりでテンポが悪くなり、このゲームには相性の良くないギミックだったかもしれません。

 また、自分と同じパンチ能力を持つツッパリコングの攻撃を受けてグラブを奪われると一定時間パンチが打てなくなるという仕様があり、これもややテンポを阻害するストレス系のギミックだったかと思います(でも、グラブが無い間、ボタンを押すと白旗を出すアニメーションするのがステキ)。

3ないし4ステージしかなかった時代のゲーム

 ですが、これらはどれもたった4ステージしかないゲームを長続きさせるため、また飽きさせないため、懸命に知恵を絞って考えられた仕様だったわけです。当時のゲームは3つか4つしか無いステージをクリアすると、そこでほとんどのネタが割れてしまい、後はループに入ってしまうのが普通でした。

 このころ、4ステージでループだと『ドンキーコング』が強く記憶に残ってますが、他にも『ドンキーコングJr.』やコナミ『ロックンロープ』『ツタンカーム』等も4ステージ型でした。もっと少ない3ステージでループだと、セガ『モンスターバッシュ』『シンドバッドミステリー』等が印象深いです。

 こうしたゲームの多くは、1ステージごとに大きく場面転換があるような作りになっています。起承転結とか序破急じゃないですが、ドラマ性のある構成にして3~4ステージで全要素が完結します。エンディングデモが入ることも割と一般的でした。この時期の各社のゲームによく見られた構造です。

 余談ながら、それに対して同時期のナムコはそういう作り方をほとんどしていませんでした。『パックマン』『ディグダグ』『マッピー』『リブルラブル』等々、ステージがいくら進んでもパッと見大きな違いがない。一つの練り込んだ仕組みを延々使い回すのが当時の同社のお家芸だったといえます。

ごくごく個人的なサン電子の思い出

 ぼくは1983年からしばらくサン電子の東京支社でアルバイトをしてました。アイデアスタッフという名目で、原則月一回、同社の新製品をプレイして感想を述べたり、最新ゲーム事情について開発スタッフと話をするような仕事です。開発の方々はその都度本社のある愛知から東京へ来ていました。

 そのサン電子のバイトで手塚一郎氏(後のベーマガライター、小説家)と知り合いました。他にも後の毛利名人もいるなど面白いメンバーが集まっていました。こんなころにこういうバイトを目ざとく見つけるような人間は大体みんな相当なゲーム好きで、またちょっと変わり者だったようにも思います。

 バイトを始めたのは、既に『カンガルー』が発売された後ぐらいの時期で、その後『マーカム』『ザ・ギネス』『ぺったんピュー』の頃までバイトをさせていただきました。バイトの案や意見が反映されたこともありますが、思い返すに、必ずしも上手く行くことばかりではなかった気はします。

 サン電子のバイト時代に聞いた話では、『カンガルー』は同社が公募した企画アイデアコンテストの入賞作品が元になっているそうです。送られてきた企画書にはカンガルーがグラブをつけた絵が描かれていて、それが非常にキャッチーで目にとまったと開発の方は仰っていました。

 調べてみると「カンガルーがボクシングをする」というイメージの歴史は古く、少なくとも百年以上前からあちこちで描かれてたそうです。このゲームの数年前にもカンガルーが活躍する『マチルダ』(1978年)という映画が作られてます。きわめてワールドワイドな着想だったというわけです。 了

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?