『アはアーケードのア』 第2回『インビンコ』(1979年セガ)

亜流インベーダーのなかでも一線を画す一作

 第2回は『インビンコ』(1979年セガ)、インベーダーゲームの亜流作品です。当時発表されたあまたの亜流インベーダーの中でも、ブーム末期に出た製品の一つです。

 『インビンコ』は、基本的にはインベーダーをベースとしています。マイシップを左右に動かし、上から侵攻してくるインビンコ軍団を撃破していくというシューティング物です。一般的なインベーダー系との大きな違いは、敵隊列が1段ごとに別々に横移動する点にあります。

 そもそもインベーダーとは、縦横に整然と並んだインベーダー軍団がその塊のまま進撃してくるゲームです。一部が撃破され、隊列が歯抜けになっても、全体のフォーメーションを崩さずに左右移動を繰り返しながら降りてきます。そこがインベーダーたるゆえん、そのゲーム性をつくっている部分でもあります。

 それが『インビンコ』では、ゲームが展開していくと、特定の段の敵だけ移動速度が変化します。そこだけ川の流れる速度が変わったかのごとく、ズレて動き始めるのです。ほかの段がみんな右に動いているのに、ある段だけ左に動いたりもします。

 インベーダーの亜流は当時おそらく100種以上リリースされていたと思うのですが、その中でもこれは一線を画したシステムになっていて、じつに特異な雰囲気を持っています。インベーダーの感覚で遊ぶとプレイのリズムが崩され、独特の不安定感があるとでもいえばいいのか。

セガの大いなるこだわり?

 おもしろいのは、セガは当時この仕様にかなりこだわり(?)があったようで、同社から発売された亜流インベーダーには他にも『センカンヤマト』『スペースファイター』というのがあって、どちらも段ごとに隊列がズレて移動します(データイースト社にも同名のインベーダーがありましたが、それとは別物です)。

 ぼくの記憶だと『センカンヤマト』&『スペースファイター』→『スペースアタック』→『インビンコ』の順で発売されたと思うのですが、このなかで唯一『スペースアタック』だけは隊列がズレません。

 セガは『センカンヤマト』と『スペースファイター』で隊列がズレるインベーダーをつくり、『スペースアタック』で一度普通の動きのインベーダーをつくり、最後に『インビンコ』でもう一度隊列がズレるインベーダーに回帰したのです。このしつこいほどのこだわりはすごくおもしろい。

 ぼくの知っている限りですが、こういうアレンジをしていた亜流インベーダーはほかになかったかと思います。開発者のかたがたは巨大なインベーダーブームという抗いがたい潮流のなかで、少しでも違いを出したかったのだと思うのです(単に仕組みの使い回しということかもしれませんけれど)。

黎明期シューティングの歴史は“隊列”の歴史でもある

 話を広げますが、インベーダーブームの終了付近から、各メーカーはポストインベーダーを目指してさまざまな試行錯誤を始めます。それは――『インビンコ』がそうであったように――整然とした隊列からいかに脱却するかに腐心した歴史であるともいえます。

 たとえば、任天堂の『シェリフ』では、敵の‘’ならず者‘’軍団は主人公の周囲を遠巻きに輪になって行進しており、ときおりその一部が隊列を離れて接近戦を挑んできます。主人公が8方向に弾を撃てるようチャンネルスイッチを採用した意欲作で、楽しいゲームでした。任天堂らしく、ちゃんとヒロインもさらわれるし!

 それでも『シェリフ』は敵や敵弾の動きが直線的でしたし、軌道の法則性が明確でした。その点ではインベーダーにまだ近いです。そういう意味で初期のシューティングゲームは、よりデジタルな感覚の強い、パズルに近いジャンルだったともいえる気がします。

 その登場が衝撃的だったのはナムコの『ギャラクシアン』です。隊列そのものは上空で待機しており、その中から敵が一機ずつ飛び出してきて、曲線を描いてダイブしてきます。それぞれが意思を持つかのごとくバラバラに、そして滑らかな動きで攻撃を仕掛けてくる。敵一体一体の存在感が半端じゃない。

 さらに続編『ギャラガ』では、今度は隊列を組んだ敵が曲線を描いて飛び交うようになります。いわゆる編隊飛行です。ものすごーくざっくりいうと、これに地形スクロールと地上ターゲットの概念が付加されると、その後の縦シューの骨格が一通りそろうことになると思います。

 黎明期シューティング史は、このように“隊列をどう扱うか”という歴史でもあった、そんな視点でも語れると思うんです。インベーダーの元ネタが“動かない隊列”を狙い撃つ『ブレイクアウト』だったことを考えると、どれも順当な流れの中で、生まれるべくして生まれたゲームなのではないでしょうか。 了

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