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こども未来戦略会議、5回の発言

勿凝学問417


こども未来戦略会議というものが、2023年4月から開催されていた。第5回が6月1日に開かれた。ここに、過去、5回の発言をまとめておく。
(その後、6-8回を追加)


第8回 12月11日(月)17時45分ー16時44分

○権丈構成員 今回のこども未来戦略の案には、「いわゆる「年収の壁」」という項目があります。公的年金というのは火のないところに煙が立つ世界でして、そうしたことがなるべく起こらないように、私は年金部会で、新たに適用拡大の対象となる企業の事業主には、公的年金シミュレーターを利用して労働者とのコミュニケーションを義務づけるべしという話をしています。その参考となる資料2を提出していますので、御参照ください。 それと、支援金の話というのは、初めから保険料の上乗せという話は誰もしていないです。医療保険料として集めたお金をほかに流用していいはずがないです。しかし、この制度を批判したい人たちが医療保険料の上乗せと繰り返し呼んで、世の中に、保険料の流用をイメージさせ、それを信じた人たちを含めて保険料の流用と言って盛り上がったりして3 いるエリアがあるといいますか、かつてあったといいますか、少し静まってきましたけれども、あったということは指摘しておきたいと思います。 それと、先日、経済財政諮問会議でも議論された全世代型社会保障構築会議が作成した改革工程には、社会保障教育の一層の推進に社会保障の意義・役割、負担について周知を行うとあります。私は10年以上前に社会保障の教育推進に関する検討会の座長をしていたことがありまして、日本の人たちの社会保障への無理解といいますか、五公五民と言ってみんなで盛り上がってバズっている姿に非常に責任を感じたりもするわけですけれども、あのときは高校教科書のチェックから始めたわけですが、気持ちがいいくらいに教科書が微妙なことを書いていたし、一部の高校の先生たちは今では誰も言わなくなっていった当時ではフェイクニュースに近い話を信じ切っていました。 当時、私は「前途多難な社会保障教育」という文章を書いていたわけですが、社会保障の意義や役割の無理解というのは、こどもたちの問題という以前に、この国では大人たちの問題です。現在、社会保障の意義や役割、基礎知識というのを全く学ばないままに大人になり、経験と噂だけで分かったつもりのとんでも社会保障論を展開して、再分配政策の財源調達を一方的に負担、負担と大騒ぎしている現状もあります。 効果が出るのに時間が必要な再分配制度を構築しようとすると、いつも出てくる話が、こどもに勉強は好きかと尋ねたら嫌だと言っているから、こどもには勉強させる必要がないという話に似た反論です。だからこそ政策が必要なのですけれども、世論の反発を受けて、それでもなお、dennochとマックス・ウェーバーが言うように、未来のためにぜひここはやり遂げていただきたいと思っております。よろしくお願いします。

○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 ありがとうございました。 すばらしいですね。あと4分ほどございますので、ぜひこの機会にもう少し追加でお話しされたいという方がいらっしゃいましたらと思います。 やはり財源についてのネガティブな報道が多いというのはゆゆしきことだと思いますの15 で、今回皆様に取り上げていただいた「こども未来戦略」をどうやって国民みんなに理解していただくか。これは社会保障全体の意義、役割を理解してもらうのと同じことだと思うのですけれども、何かそういった観点などについて。それから、支援金の負担以上にやはり手厚い支援をするというのも重要だと思いますが、何かございますか。 それでは、権丈先生。
○権丈構成員 私は、今日発言された方々みんなと同じで、支援金制度というのは社会保障の機能強化のためには必要性が物すごく高いと思っております。 その中で1点だけ、連合が提出している資料5の中で、「支援金制度については、社会保障の機能劣化への懸念」というのがあるのですけれども、これはどういうことをイメージされてそういうふうに考えられているのかというのを教えていただければと思うのですが。
○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 連合の芳野委員から出していただいた資料の中に支援金制度についての御懸念があるということで挙がっておりますが、芳野さん、よろしいですか。 芳野さん、聞こえますか。
○芳野構成員 (オンライン接続の不備で応答なし)
○権丈構成員 加えますと、同じ資料5の「給付と負担の関係の不明確さ」というところは、やはりそういう話が最初からありましたので、事務局は徹底的にここを明確にするような制度設計にしているのですよね。
○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 そこは委員会等でも、国会でも一番そこが聞かれて、かつ理解がなかなか進んでいないのです。賃上げがそのまま、賃上げしてもらっても、その分負担を上げられるのではないかという話がございます。あくまで賃上げは国民所得を増やす分母の論議であって、支援金の増大というのは、分子の中でいかに歳出改革を徹底した中で生み出された、そこの部分の中で支援していただくので、構造的に負担が上がるわけがないのです。ただし、所得が上がれば、その方の所得が上がることによって社会保険料負担が上がるのは、これは税と同じことでございますから、そこの誤解が出ないように、徹底してよく説明しなくてはいけないと。また、野党の皆さんも、そこのところが不明確なまま御指摘いただいているので、総理に一生懸命御説明いただきながら、我々も説明を補充させてもらっているのですけれども、そういった部分がございます。
○権丈構成員 だから、保険料の上乗せという表現から連想される保険料の流用という言葉が独り歩きしていって、そこをベースにして批判されている方は結構いらっしゃいますので、そこは私も少し発言しましたし、皆さんのところでも発言がありましたように、徹底的にそういう話ではないということは御理解いただきたいと思っております。
○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 政府として、そこはよく心がけていきたいと思っております。 西村経産大臣、どうぞ。
○西村経済産業大臣 関連で権丈さんによろしいですか。 この間、諮問会議で言われたように、高齢者の所得がだんだん減ってきて、それをみんなで支え合う連帯的な負担ではないというところです。子育ても同じように、子育ての期間は負担が大きくなるから、そこをみんなで支え合う。これはすごくよく分かるのですが、高齢者はみんな高齢化するけれども、こどもを持っている人、持っていない人、いろいろ事情は違いますよね。そこを国民の皆さんに、まさに今の流用ではなくてみんなで負担して連帯して支え合うというところをどう分かりやすく説明していいのかと。これは、もちろんこどもが増えれば、年金も医療もよくなるわけですけれども、すみません。どう説明したらいいか。
○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 権丈委員、手短にお願いいたします。 ○権丈構成員 この前も言いましたように、賃金システムというのは収入の途絶と支出の膨張という不確実性になかなか対応できないのですが、不確実性とかそういうものに対応できないシステムだからサブシステムが必要なのですが、こども・子育てのところの支出の膨張と収入の途絶に対応しないシステムを社会がずっと継続していると、今の時代だったらば、こども子育ての支出の膨張と収入の途絶をしない選択をする人たちが増えてきますよという話があります。ここをしっかりやらないことには、若い人たちの間で支出の膨張、収入の途絶にならない選択、つまり少子化が進む。そういう状況に今陥っている。
○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 ありがとうございます。 今日の御議論のように、とにかく国民にいかに分かりやすく、しかも、これが自分たちのためであって、将来のためであってと、そこをいかに御理解いただけるか。この努力が必要だと思いますので、また引き続き御指導と御協力をお願い申し上げたいと思います。 それでは、ちょうどよい状況になりましたので、まずは「こども未来戦略」について、本日の御議論と、それから、今後与党との調整がございます。これを踏まえて、次回のこども未来戦略会議において取りまとめたいと思っておりますので、御了解のほど、お願い申し上げます。 それでは、ここでプレスが入ります。

第7回 10月2日(火)10時30分ー11時28分

○権丈構成員 前回、こども・子育て支援の再分配制度を新しく創設すれば、未来の企業、国民全員から感謝されますと話しました。先週も国家公務員の新人研修に出かけまして、若い彼らには、君たちはオルテガが言う大衆ではないと、ル・ボンの言う群衆であってはいけないよと話してきたわけですが、人間に認知バイアスがある限り、国民が圧倒的に支持することは昔からかえって危なく、20年後、30年後に評価される政策は反対が多いという仮説を持っています。 この会議では、未来の経済・社会システムのためにも、労使みんなで、老いも若きも連帯してこども・子育てを支えるという理念と、この理念を形にするために、「賦課対象者の広さを考慮した社会保険の賦課徴収ルートの活用」と「公費」のミックスがまとめられたわけですが、その意義を広く理解してもらうのはなかなか難しいかもしれません。しかし、それは今ある介護保険のように、将来感謝される制度が誕生するときの宿命のようなものだと思っています。未来の人たちに評価される歴史的な仕事をぜひやり遂げてもらいたいと期待しています。

○新藤全世代型社会保障改革担当大臣 ただいま11時15分でございますので、あと5分しかないのですが、権丈委員、今日は小林委員からも、新浪委員からも、また西村大臣からもいろいろ御意見がございましたが、再分配のお考えの中で、雇用保険の活用だとか、この辺について何かおっしゃりたいことがあれば、どうぞ。
○権丈構成員 雇用保険のほうはよく分からないのですけれども、再分配というのは戦争で負けたときに賠償金を求められる負担をみんなでどうするかというような話ではなくて、給付があるわけですね。給付を行うためにお金を先ほどの金庫、貯金というか貯金箱みたいなところにお金を預けて必要な時に利用していくわけですけれども、その制度をつくったほうが確実にみんな生活が楽になります。 そして、長く言っていますけれども、所得の分配の平等化も図られていきますので、OECDとかもまとめておりますように、所得の分配の平等化を図っていったほうがより教育の機会も平等になっていくこともあり、他のルートからみても、成長の力もどうしても高くなっていくわけですね。 これをみんなは負担というふうに一方的に見て、みんな自分で苦しんでいるこの国の姿を、私はちょっとかわいそうだなと思って見ております。よろしくお願いします。

第6回 6月13日(火)17時~17時28分

○権丈構成員 前回、こども・子育て支援の再分配制度を新しく創設すれば、未来の企業、国民全員から感謝されますと話しました。先週も国家公務員の新人研修に出かけまして、若い彼らには、君たちはオルテガが言う大衆ではないと、ル・ボンの言う群衆であってはいけないよと話してきたわけですが、人間に認知バイアスがある限り、国民が圧倒的に支持することは昔からかえって危なく、20年後、30年後に評価される政策は反対が多いという仮説を持っています。 この会議では、未来の経済・社会システムのためにも、労使みんなで、老いも若きも連帯してこども・子育てを支えるという理念と、この理念を形にするために、「賦課対象者の広さを考慮した社会保険の賦課徴収ルートの活用」と「公費」のミックスがまとめられたわけですが、その意義を広く理解してもらうのはなかなか難しいかもしれません。しかし、それは今ある介護保険のように、将来感謝される制度が誕生するときの宿命のようなものだと思っています。未来の人たちに評価される歴史的な仕事をぜひやり遂げてもらいたいと期待しています。

第5回 6月1日(木)17時ー18時

第5回こども未来戦略会議への提出資料

連合総研の調査では、就業調整をしている人たちの4割以上が就業調整が将来の年金に影響があることを知らないと答えています。15頁に、いわゆる年収の壁について、「制度の見直しに取り組む」とありまして、具体的な姿はわかりませんが、就業調整は多くは誤解と知らないことゆえのものですから、就業調整を減らすために、年金局に私の方から、「他の人のお金を使わない、既に前向きに取り組んでいる企業をスポイルしない、適用拡大・最賃の動きを阻害しないこと」という3要件を出して、これに抵触すると、批判するよと話しています。一応、先の3つの基準を満たす方法として、私は「厚生年金ハーフ」というのを年金部会で提案していて、その関連資料を提出させてもらっています。
さて、今週の月曜日に、国家公務員の新人研修で話をしたら、質疑応答の時間に、政府がいま、子育て支援の話をしている中で、どうして、すでにこどもは育て終えたという人とか、こどもがいない人や、結婚しないつもりの人たちから、批判がでていないんですか、との質問がありました。
私は、この国は、皆保険・皆年金で、これら医療、介護、年金保険が、大元のところで少子化の大きな原因になっていることは確かで、同時に、もし少子化が緩和されれば、持続可能性が高まる制度は、これら社会保険であること。加えて、人口が減っていったら、将来の労働力の確保が難しくなるだけでなく、消費需要や投資需要も減っていくから、企業もたまったものではない。だから、今を生きる働く人たちと、企業が、協力して運営している社会保険が、情けは人のためならずというのもあって、子育てを支援するために一肌脱ぐという話で進んでいるから、君の言うような批判がでてこないのかもしれないですねと話しました。
質問をした人は、なるほどと言っていましたけど、制度というのは、多面的な顔をもっていて、その説明の仕方は、どの角度から制度を理解したかの、ものは言いようという側面があります。
だから私は、これからも、この会議で議論してきた「広く支え合う新たな枠組み」について、少子化の原因であり、かつ少子化緩和の便益を受ける既存の社会保険制度の活用が図られようとしている時代を画する動きが、今展開されていると説明していきます。
こうした新たな再分配制度ができると、この制度のために連帯した、今を生きる労働者、経営者の全員が、20年後、30年後という将来の企業、国民全員から感謝されます。希望を言えば、支援金制度の名前は既に後期高齢者医療制度をはじめとして山ほどありますので、連帯支援金を名称独占した方が、社会全体で子育てを支えるという理念が反映できていて、今後の説明がしやすくなると思っております。この構想、年末に向けて、是非、やりとげていただきたいと思います。よろしくお願いします。

第4回 5月22日(月)17時40ー18時40分


第4回こども未来戦略会議への意見書

○権丈構成員 前回、所得制限について何も言っていなかったら、会議の後に集まってきたメディアの人たちに叱られたので、一言。
 社会保障というのは統治のシステムであって、いかにこの政策によって支持層を広げて、統治を安定させるかという目的で、多くの国で運営されています。社会サービスをユニバーサルな制度として運営している国の理由は、能力に応じて負担してもらう社会サービスは、給付の段階では所得を見ないで、制度に憎んだり不満を抱く人たちを減らして、積極的に協力してもらったほうが、国民みんなが支持して為政者にとって得という判断が働いているというのがあります。
 私は日頃、医療、介護、年金保険の専門家で、いつも少子化現象と格闘しているわけでして、さらに第1回に話したように、医療、介護、年金保険は、少子化の原因でもあります。だから、長く「医療・介護・年金保険という主に人の生涯の高齢期の支出を社会保険の手段で賄っている制度が、自らの制度における持続可能性、将来の給付水準を高めるために、子育て支援制度を支えよう」と言ってきました。そうした方法は、本日の主な論点にある「企業を含め社会経済の参加者全体が連帯し、公平な立場で、広く支え合っていく新たな枠組み」に沿ったものになるかと思います。
 また、私は慶應の組合健保の理事として21年目になりますが、健保組合は医療と介護保険を運営しています。健保組合の理事会、組合会で、医療・介護保険制度の持続可能性のために別立てで設計された子育て支援制度を新たな会計の下に運営することは、何の不自然さもない状況だと思います。医療・介護保険とこども・子育て制度との関係は同じですので、ぜひこの新たな枠組みに、健保組合で運営している医療保険と介護保険の両方が協力する方法を考えてもらいたいと思っております。
 といいましても、社会保険か消費税かと世間で言われていますが、社会保険と財源調達力が物すごく高い消費税と並べることはできません。もし社会保険からの財源調達を選び、かつ所得制限をなくす場合は、給付の範囲は相応に絞る必要があります。話題の中心になっている児童手当のような現金給付は、今後のありようによっては、社会保険の調達力を軽く超えていき、無理が生じる可能性があります。ですから、児童手当のような、将来に向けて給付の制御が難しい現金給付に関しては、社会保険からの支援に今回限りというような制限を設けて、将来それを超える部分については税を用いることを費用負担者たちと事前に契約しておくことも今は重要なことではないかと思っています。
 公的年金から子育て支援への別ルートの話をしていきますと、これは以前から言われていることですが、年金の積立金を活用した奨学金の話があります。公的年金積立金の投資先として、今の金融市場の他に、主に未来を担う若い世代に向けた人への投資を加えることは、年金制度としては矛盾がありません。そのあたりは、本日提出した資料に書いております。年金積立金を用いた奨学金を必要に応じて給付を行い、その後、能力に応じて返済する制度を導入すれば、再分配制度を組み込んだ国民皆奨学金制度ができます。
 最後に強調しておきたいことは、この国でのこども・子育て政策はスピードが命だということです。加速化プランの実施のタイミングは来年から3年間とされていますが、前倒しでも一向に構いませんので、とにかく早急に財源調達の新たな枠組みが動くことを願っています。
以上です。

第3回 5月17日(水)16時40分ー17時40分

○権丈構成員 まず、第1回に、再分配政策は給付設計の在り方次第で積極的に協力する か反対をするかに違いが出てきて、できれば経済界をはじめ、多くの費用負担者が価値を 感じる制度を設計してもらいたいと話しました。ATMになりたくないとかは非常によく分 かります。今、多くの費用負担者たちが価値を感じる給付設計の方向に調整がなされてい るという前提で話をします。
 前回、北欧では組合員以外にも給付が回る制度を社会的賃金と呼んでいるという話をし ました。あの辺りのテーマを研究していた20年以上前に、なぜ労働組合が組合員以外にも 給付が回る制度を支持するのかが疑問でしたけれども、デーヴィット・キャメロンという 政治学者が、「多くの人々は就業人口と非就業人口との間を行きつ戻りつするのが普通で あるから、一時的でも永久でも働けない人々、働いていない人々に社会保障給付という形 で社会的賃金が支払われれば、長い目で見て労働者は十分報われる」という文章を見て、 なるほどなと納得しました。
 ただ、ああいう国では働く人たちはみんな仲間なのです。ところが、働く人たちが二重 構造になっていたらそうはいかず、その国では二重構造で分断された労働市場自体が問題 なのですから、労働者間の連帯の意識を醸成するための制度を政治的判断としてつくるこ とが政策課題にもなると思います。
 その場合は、制度を創設するときには、政治は当事者 たちが支持していない判断を将来のためにしなければならなくなるのですけれども、労働 市場が統合された未来を生きる人たちは必ず感謝することになる判断だと思います。 また、今回、資料6で総理が社会保険について触れられている箇所がありました。周知 のように、社会保険はドイツ帝国のビスマルク社会保険から始まります。そこでは労使折 半という負担のルールがつくられました。そのときの理由づけは、資本主義から最も利益 を得ているのは経済界だろうと。だから、資本主義の存続に不可欠な労働者の生活を守る ために、企業も折半で負担するようにというロジックでした。 ビスマルクのロジックに加えて、今は、人口減少というのは、将来の労働力のみならず、 未来の消費、投資需要の縮小をもたらすのであるからという理由があるかと思いますが、 これは経済界全体のマクロの観点から見た場合に問題を意識するという合成の誤謬の話で あって、日々の企業経営というミクロの観点からは、やはりそうは言っても労使折半には 反対したいということになるかと思います。
 18世紀後半にビスマルク社会保険制度が成立して以降、社会の安定性と発展に貢献する 合理性が広く確認されて、社会保険は世界に普及していったわけですけれども、その間、 使用者が労使折半を進んで支持した話は聞いたことがありません。 合成の誤謬の問題を解決するには、将来に向けた確固たるビジョンを持った政治の力が 必要になります。
 そして、社会全体で子育てを支えるという理念の下に、昨年、骨太及び それに沿った全世代型社会保障構築会議の報告書にある、「企業を含め、社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で広く負担していく新たな枠組み」を考える際には、施政方針演説で触れられていた社会保険の仕組みを視野に入れるのは十分にあり得るのではな いかと思っております。
以上です。



第2回 4月27日(木)16時30分ー17時40分

○権丈構成員 権丈です。 本日の議題であります構造的な賃上げ及び後藤大臣の御提出の資料と関わる話ですが、 ちょうど一昨日、年金局の数理課にこれからの財政検証の在り方について話をしていまし た。私が言っていたのは、今この国は本格的に労働力希少社会に入ってきたということで す。女性の就業率はかなり高い水準に達して、天井に近づいてきている。そして前期高齢者は減少し始めているからです。今後の賃金の伸びというのは、ここ数十年間の傾向を外挿する、先に延ばしていくという方法では、もしかすると下方に外れる。これからのこの 国に参考となるのは、1960年代の経験ではないかと考えているというのを伝えました。
 1960年代初め、大企業と中小企業の間の二重労働市場という大きな問題がこの国にはあ ったわけですが、労働市場が逼迫し始めてきた途端に中小の賃金が上がり始めて、問題が 一気に解決します。
 その辺りを東大名誉教授である労働経済学者、隅谷三喜男先生という、 かつて存在した社会保障制度審議会会長の言葉を引用しますと、「昭和36年以降、事態は 大きく変化した。35、36年頃から顕在化した労働力不足が、とりわけ初任給上昇となって 現れ、若年労働者の賃金水準上昇を梃子として、全体的な大幅な賃上げを必然化した。こ の過程で労働市場の圧迫を強く受けた中小企業のほうが賃上げ幅が大きく、企業規模間の 賃金格差は著しく縮小するに至った」と論じられています。
 もちろんその間、市場での新陳代謝が進んで、経営者の真の経営力が問われる局面に入 っていたわけですけれども、結果として昭和40年代半ばになると、この国は1億総中流社 会になりました。
 賃金の伸び率を決める一次要因は、どうも労働市場の逼迫度合いであって、経験的には、 賃金は、市場が弛緩していたら掛け声をかけても上がらず、逼迫していたら自然に上がる もののようです。数十年間、この国は、高齢者と女性という労働力を非正規という雇用形態でとても安く、毎年増加する形で雇うことができました。しかし、いよいよその供給源が枯渇し始めて、言わば開発経済学者ルイスの言う転換点に近い状況にあると見ることも でき、これからは非正規が正規の供給源になっていくことも考えられます。
 60年代と今では労働力不足に至った経路が異なりますけれども、この国が本格的に突入 したと考えられる労働力希少社会では、広く社会全体で子育て世代を支えるという政策、 こうした社会保障政策は、北欧の政労使のネオ・コーポラティズムの下では、社会的賃金、 組合員以外にも給付が及ぶこともある社会保障を彼らはソーシャル・ウェッジ、社会的賃金と呼ぶわけですが、そういう社会的賃金を充実させても、個別の賃金上昇のモメンタム はそう簡単に失われることはないのではないかというようなことを年金局に話しましたと いうことです。
 以上です。

第1回 4月7日(金)17時40分ー18時40分

○権丈構成員 権丈です。 医療、介護、年金保険のような高齢期の生活費を社会化していくと、普通に考えれば少 子化が進みます。少子化を問題視するのであれば解決策は2つしかなく、1つは、高齢期 向けの社会保障をなくしていくこと。いま一つは、出産と育児に関する消費を、例えば介 護のように社会化していくことになります。 1934年に、スウェーデンのミュルダール夫妻という有名な夫妻がいたわけですけれども、 同様に考えて、家族が合理的に行動した場合の親の個人的利益と国民の集団的利益の間に コンフリクトが生じるとみなして、少子化の予防策として全てのこどもを対象とする普遍 的福祉政策を唱えました。今、この場の会議も同じ課題を議論しているのだと理解してお ります。 再分配政策の政治経済学が私の専門ですけれども、再分配というのは、薄く広く集めて 必要な人に集中的に分配する政策です。したがって、この政策は受益から負担を引いたネ ットで評価しなければなりません。薄く広く集めるのですから、給付を受ける人も負担し ます。しかし、子育てをしている人たちのネットの受益は大きくプラスになるわけです。 これはかなり重要なポイントであるので、今朝も、厚労省の新人さんたち300人に話してき ました。 加えて再分配政策は、薄く広く負担してもらうために、受益者よりも負担者の数のほうが 圧倒的に多い政策です。 人間は、価値を感じることには喜んでお金を出すけれども、出したお金の使途に納得が いかないときには革命さえ起こす生き物です。幸いこの子育て支援に関しては、経済界を はじめ多くの費用負担者の価値を感じる政策と、研究による効果が確認されている政策に はさほど違いはありません。再分配政策は、費用負担者の意向を酌み取って、受益者はも ちろん、そしてできれば協力者として支える人たちの満足感、効用を高めるような制度を 設計する工夫の余地がある、極めて政治の力量が強く問われる政策でありますので、大い に期待したいと思います。 よろしくお願いします。

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