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『Paul Simon』★★★★★(4.8)音楽購入履歴#2

Title:Paul Simon(1972)
Artist:Paul Simon
Day:2024/2/3
Shop:disk union shimokitazawa
Rating:★★★★★(4.8)

2023年ベストアルバム

『Paul Simon(1972)』

オンラインでCD/レコードを買うことは、あらかじめ目当てのものを検索にかけて買う〝能動的〟な動きである。対してショップで物色する行為は実は出会いという観点では〝受動的〟で、偶然の出会いや忘れていたものの再発見という喜びがある。
なんてことをこのnoteの1記事目で書いたが、今回の下北音楽散策で買った11枚も元々買う予定のないものとの出会いであった。
1枚を除けば。

去年2023年に聴いたアルバムの中で個人的にNo.1に挙げたアルバムがポールサイモンの72年『Paul Simon』でして。もう名盤中の名盤ですが、恥ずかしながら去年の秋口になるまでちゃんと聴いたことがなく、ふとApple Musicで聴いて雷に打たれ、蓋を開けてみれば去年1番聴いたアルバムとしてApple Musicに履歴が残っていた。

そんなことでタイミングがあればいつでも盤を買う心持ちだったので、下北のディスクユニオンに入るなり「P」の棚に一直線。実に能動的に手にした1枚である。
とはいっても「P」の棚にポールサイモンは存在せず、はっ、と「S」を探すと発見。「サイモン&ガーファンクル」のとこにあるのよね。元グループメンバーのソロってこういう陳列のされかたするよね。
レコードかCDかで結構迷ったんだけど、紙ジャケCDが安くであったのでそちらを購入。

とにかくポールサイモンの才気に圧倒された1枚で、ポールサイモンのイメージというか印象というか存在の大きさと強さが僕の中で変わった1枚。

ポール・サイモンの印象

『paul simon』裏ジャケ


ポールサイモンってみなさんどんな印象でしょう。ボーカルデュオのギター弾いてる方で作曲の方で背の低い方。
僕はなんとなく天才というよりは秀才だと思っていたんです。
ソロになって誰よりも早くレゲエをアメリカに持ち込んで、さらにワールドミュージックに傾倒していく、そんな印象はあって。ロック界でワールドミュージックに傾倒していく男、ポールサイモンとピーターガブリエル、どっちもソロちゃんと聴けてないなーって感じで。

サイモン&ガーファンクル(S&G)は好きで、持ってるのは1stのCDと『明日に架ける橋』のレコードくらいだけど結構聴いている。
3rd『Parsley, Sage, Rosemary and Thyme』と4th『ブックエンド』はUSフォークの頂点に位置すると思っているし〝59番街橋の歌〟〝アメリカ〟はフェイバリットソングの1つだ。

S&Gであれだけの数の名曲を作り、〝スカボロフェア〟で最高のハーモニーを響かせ、〝アンジー〟なんかで超絶ギターを披露し、ソロになってからはワールドミュージックを世に紹介し、いまだに精力的に作品を作り続けている。
にもかかわらず秀才イメージなのは器用すぎて達者すぎるからかもしれない。
ジョンレノン、ボブディラン、ブライアンウィルソン、同世代の天才達と比べても知名度的にもセールス的にも決して劣ってない。ブライアンは置いておいても音楽的にはジョンやディランを凌ぐ才能を持っていることは一目瞭然だろう。
カリスマ性か、やっぱり。ギラつきや毒っ気、偏執性や狂気性、ストーリー、そこが足りないのか。もっともっと単純に素朴な見た目や160cmという身長のせいかもしれない。

いや、これはあくまで僕の印象。
実際に「ポールサイモン 天才」で検索したらたくさんポールサイモンを天才視する文が出てきましたので。世間的に、特に世界的には十分彼の凄さは理解されているのでしょう。
これはただ個人的に長い間器用な秀才として認識していた男が化け物みたいな天才だということに最近気づいたんです、という報告なのです。

リアルタイムの流れ

明日に架ける橋(1970)/S&G

今は本当に便利な時代で、過去の音楽なんかなんでも聴ける時代。僕は平成生まれで、60,70'sなんかもちろん全くリアルタイムではないのですが、リアルタイムを生きたほとんどの人よりも聴いている自信があるし詳しい自信がある。

それでもリアルタイムの流れや空気感みたいなものが感じ取れてないと感じることはしばしばあって、この『Paul Simon』のライナーノーツを読んでまたそれを強く感じた。

例えば僕みたいな後追いは「当時ならそこまで音楽好きじゃなくても誰もが一度は耳にしたことがある曲」とかを知らなかったりする。S&Gやポールサイモンなんかはもはやその部類の人気アーティストで。

S&Gのラストアルバムとなった70年5th『明日に架ける橋』はほぼデュオとして成立していなかった状態にもかかわらず彼らの最大のセールスを記録した。
S&Gは64年に1stアルバムをリリースしてからフォークデュオとして徐々に登り詰めて、68年『ブックエンド』で音楽的に完成され、70年『明日に架ける橋』で人気的には頂点に達した。とこで解散した。

ポールサイモンという男はS&Gの64年1stが話題にならなかったことに落胆して単身イギリスへ向かい、そこで英トラッドフォークやディヴィグレアムのギターを学びアメリカに持ち帰った。〝アンジー〟や〝スカボロフェア〟でその経験は顕著に現れている。
そしてイギリスのトラッドとアメリカのカントリーブルースを融合させて(この辺はディランも同じだけど)、唯一無二のコンテンポラリーフォークデュオを作り上げた。

とにかくボブディランと並んでアメリカンフォークを代表する存在で、そしてその人気のピークは70年だったというわけ。
その70年に解散して、72年にポールサイモンのソロアルバムとしてリリースされた『Paul Simon』がまだ世に認知されていない「レゲエ」で始まり、アルバム通しても「フォーク」と呼べる曲が入っていないことはリアルタイムの人たちからすると衝撃的なことだったに違いない。
今の時代は便利で僕みたいな後追いもいくらでも過去の音源を聴けるけれども、どうしてもそういうリアルタイムの感覚を捉えられないことが多い。悔しいぜ!

ポールサイモンほどのミュージシャンになるとライナーノーツも分厚いのが嬉しい。本人の数々のインタビューを引用しつつ本アルバムを紹介してくれているんだけど、この当時のポールサイモンの境遇についてもよく説明されていた。
とにかくデュオ解散を会社や周りに反対され、ソロでは決してS&Gを越えれないことを強く言われたということが書かれてあった。
そんなことからの何クソ根性というわけではないが全てを無視して音楽だけに没頭して作り上げたのが『Paul Simon』だと。

面白い逸話も書かれていて、ほとんどの人が解散を反対する中唯一「ソロが楽しみだよ」と肯定的な言葉をくれたのがジョージハリスンらしい。なんかジョージとポールサイモンが番組みたいなので2人で歌ってる映像を見たことがあるが、そんなことから仲良かったのかしら。
ただ、なんかジョージがアートガーファンクルに対して「おれにとってのポールと、君にとってのポールは一緒だから気持ちわかるで」みたいなことを言った、みたいな記事も読んだことがあるので、ジョージがどっちの味方とかそーゆーことでもないみたいだけど。ジョージにとってのポールマッカートニーとガーファンクルにとってのポールサイモンが同じ関係性だ、ってことはジョージ目線で言うとポールサイモンへの悪口と捉えれるだろうから。

楽曲について

なんやこんなだらだら書くんじゃなくて、購入したアルバムのレビューじゃないけど感想みたいなのをさらっと書くnoteのはずなんです。書きます。
ポールサイモンがハーモニーとフォークを投げ出して音楽追求を進めた1stソロ!!厳密には65年のイギリス修行中に1stソロ出してるし、S&Gの70年ラストアルバム『明日に架ける橋』はほぼほぼポールサイモンのソロなんだけれども!

1.Mother and Child Reunion(母と子の絆)

ポピュラーミュージックにレゲエを持ち込んだ最初の曲と言われてる。クラプトンよりも早く、まだボブマーリーがメジャーデビュー(英米進出)してないわけで、「レゲエ」って言葉も一般的に知られてない時期。
ポールサイモンは『明日に架ける橋』に収録された〝Why Don't You Write Me〟でもジャマイカ音楽を取り入れようとしていて、でも思ったようにいかなくて、それで今回は、とジャマイカまでいって現地のミュージシャンでレコーディングしている。同じように次曲〝Duncan〟もアンデスバンドをバックにつけてやるんだけど、音楽に対する情熱とかも凄い感じるのよこの人。好きなんやろなー、ってのがめっちゃ伝わる。
〝死〟について歌われた曲だけど、タイトルはたまたま食べた中華料理のメニューかららしい。そのままMother and Child Reunion(母と子の再会)ってメニュー名で鶏と卵の料理だったらしいけど、勝手に殺して勝手に料理して再会させてあげましたよ〜みたいな感。めっちゃサイコで怖い。笑


2.Duncan

とにかくこの曲が良すぎてこのアルバムにハマったようなもの。
ポールサイモンはアンデス民謡(フォルクローレ)である〝コンドルは飛んでいく〟のカバーをS&G時代に発表してて(リコーダー曲として音楽の教科書に載ってるよね)、そこからポールサイモンはレゲエも含めてワールドミュージックに傾倒していく。〝コンドルは飛んでいく〟はLos Incas(ロスインカス)というフォルクローレグループのインストバージョンに歌をつけたものだったけど、今回はポールサイモンの曲にロスインカスが参加した、という形。
ポールサイモンのギターとアンデス弦楽器チャランゴの絡みもケーナもパーカスも、間奏のケツに入る2拍3連のバッキングも全てが最高。名曲すぎる。
歌詞はダンカンという若者の物語。こういう物語歌詞ってフォーク特有な感じで、アルバム内では1番フォーキーなのかも。フォルクローレやもんな。で、その物語が隣人カップルのセックスがうるさいなぁ、から始まって、最終的に野外で童貞を捨てる、というよくわからない話。調べてみるとキリスト教に関係がある深い詩であるらしい。そう、ポールサイモンって詩人としても面白くて優れてて、それもこのアルバムで感じた大きな1つ。ほんまに欠点がない。
歌い回しもかなりしびれた。ライナーノーツで、S&Gで作曲することはハーモニーに縛られることでもある、的な事を言ってて、そこから解き放たれた新境地がこのアルバムに詰められてる。
別のインタビューで、「僕は常にディランの次、二番手という立ち位置だった」と不満を漏らしてて、その要因としては「声に特徴がないからかもしれない」と言っていた。歌詞でも曲でも決して負けてないという強い主張が感じられるインタビューだったような。それでこの〝Duncan〟はかなりディラン風な歌い回しでもある。それでいてディランが絶対に作れなさそうな曲でもある。僕はディラン大好きなんだけど、ディランの立場からするとこれやられたらキツいやろなぁと思う。笑 物語風の曲も言わばディランの専売特許やし。


3. Everything Put Together Falls Apart(いつか別れが)
11. Congratulations

3曲目とB面ラスト曲はアメリカらしいジャズ風味のバラッド。ニルソンとかランディニューマンが演るような。こっちもできるんやーってゆー驚きとその完成度の高さに脱帽。ラリーネクテルのピアノがどっちでも光っております。


4. Run That Body Down(お体を大切に)

メロディセンスとリズムセンスに優れすぎてる。良すぎるやろ。
アルバム通してポールサイモンのギターが基本バンドの核としてあって、他の楽器は添える程度に収まっている。とにかくギターだけでリズムと曲ができあがっているのでそれで全然成り立つんだろうな。
S&Gの楽曲は素晴らしいけど、「フォークロック」という観点では結構バンドアレンジが蛇足だったりする印象があって。〝Sound of Silence〟とか〝明日に架ける橋〟のドラマチックすぎるアレンジとかなんか下品なのよな。それがこのソロ1stでは削ぎ落とされてコンパクトで洗練されて、最高なのです。


6. Me and Julio Down by the Schoolyard(僕とフリオと校庭で)

母と子の絆とダンカンとこの曲がこのアルバムからはシングルリリースされた。カリプソ風の楽曲で、レゲエ、フォルクローレ、カリプソと中南米の音楽に接近した曲をシングルリリースしてることがポールサイモンのソロ活動の方向性を示している。
この曲のみフィルラモーンがエンジニアを担当。切れ味のあるカッティングはアコギと生のエレキギターのカッティングを被せてるらしい。ブラジル楽器であるクイーカを効果的に使ったり面白い曲。アルバム全体的にサウンド面でも色々こだわりを詰め込んでいて、S&Gの時の素朴なイメージはここら辺でもう忘れてしまう。
この曲の歌詞も意味がよくわからず結構物議をかもしてるらしい。本人に聞いてもはぐらかされるようで「母が見た法に触れること」というのが何を指すのかは未だに明らかになってないとか。
「さよならロージー、コロナの女王
またいつか会おう、ボクとフリオと校庭で」


7. Peace Like a River(平和の流れる街)

ギターうますぎ。かっこよすぎ。まじで。


9. Hobo's Blues

バイオリンのステファン・グラッペリとの短いインスト曲。ステファングラッペリはジャンゴ・ラインハルトとの共演で有名なジャズバイオリニスト。ポールサイモン曰くジャンゴラインハルトは全てのギタリストの憧れであるので、ステファンと共演できたことは夢のような出来事だったと。ほんっまにすんごいバイオリン。生きてる音。

生涯を共にする名盤

なんかこのアルバム一生聴くんだろうなぁってアルバムは何枚かあるんです。でもそのほとんどは音楽に夢中になりだした思春期の頃に出会っていて。まさかに今になってそういうアルバムに出会えるとは思いませんでした。
でも今だからこそポールサイモンの凄さがわかったというか。昔はやっぱりシドバレットの狂気性に魅せられたり、ブライアンウィルソンの闇に吸い込まれたり、そんなのばかりしていましてたから(もちろん今でもいつもそばに置いています)。
レイティング、★★★★★(4.8)、これを超えるアルバムを次いつ買えるだろう。

ポールサイモンのファンタジー




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