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『Bookends』★★★★★(4.8)-音楽購入履歴#15

Title:  Bookends(1968)
Artist: Simon & Garfunkel
Day: 2024/4/8
Shop: disk union osaka
Rating:★★★★★(4.8)


歴史的名盤!

Bookends(1968)

『ペットサウンズ』だったり『サージェントペパーズ』だったり『ビッグピンク』だったり『ジギースターダスト』だったり『狂気』だったり『ロンドンコーリング』だったり『ネバーマインド』だったり、
時代を象徴したり、時代を変えたりした歴史的名盤と呼ばれる作品があるけど、
その内の一枚に数えられるだろうサイモン&ガーファンクル68年『ブックエンド』のレコードをようやく買いました。

サイモン&ガーファンクルの最高傑作と名高いこのアルバムは昔からちょくちょく聴いていたけど、フィジカルで手に入れるのは今回が初めてで。

というのも僕がサイモン&ガーファンクル及びポールサイモンに猛烈に共鳴しだしたのは極々最近の話、ここ数年の話で。
なんで今さらこんなにハマってるのかはよくわからないけど、昔さほど興味を示さなかった理由は明確で。

元々ロック星人だった僕にとってフォークデュオというのは結構軽んじる対象だったりしてて。フォークシンガーよりもフォークデュオが。

サイモン&ガーファンクルってのは僕にとってはしばらく「ゆずの、19の、コブクロの原点」みたいな存在で、いい歌を歌うが所詮は…みたいな。

とにかく思春期のころなんかは「バンド」であることが僕にとって結構重要で。
ボブディランやデヴィッドボウイやニールヤングが「ソロシンガーだけどバンドである」ことに気づいたのは幾らか早かったけど、
サイモン&ガーファンクルはずっとフォークデュオのまんまで。いや、実際間違いなくフォークデュオなんだけど。



まぁなんだ、とにかくずいぶん遠まわりをした。

若い頃はとにかくロックバンドを聴いてた。ブリティッシュビート、アメリカンフォークロック、サイケ、プログレ、ハードロックも聴いてた。オルタナも聴いていたし00年代ガレージリバイバル勢も聴いていた。
20代半ばあたりから、ソフトロックやブリティッシュフォークにどっぷりハマって、
おそらくそこで「バンド」というものにこだわらなくなった。
自分のバンドがあっけなく解散してしまったことも関係しているのかもしれない。

まぁソフトロックからは裏方の力を教わり、ブリティッシュフォークは「自作自演へのこだわり」を捨てさせた。
バンドマジックはもちろん素晴らしいし、いかにも「ロックバンド的な」スタイルは魅力的だけど、それよりも純粋に「音楽の素晴らしさ」の方が重要になっていったわけです。

なんか僕はずっと「ロック好き」と自負していたけど、もう違ってしまってるのかもしれないと最近思い始めているくらいで、
一時期は「バッハこそが至高だ」とバッハしか聴いてない時期があったり、
まぁそれでも「ロック好き」なのは間違いないんだけど。


まぁまぁそんなことでそれから古今東西の素晴らしい音楽を求め求めて生きてきて、その最中で今さらながらサイモン&ガーファンクルの素晴らしさに打ちのめされているわけです。

もちろん昔から「いい曲歌うよな」「最高のハーモニーだな」「スカボロフェアやばいよな」とか思ってたけど、いや素晴らしすぎるだろう、と。

アメリカフォークに影響を受けたブリティッシュフォークロックバンドであるリンディスファーンとかマグナカルタとか、彼らがやろうとしていた究極がサイモン&ガーファンクルやん、と。

〝America〟もどっちかというとイエスのカバーバージョンの方に親しみを持っていたけど、オリジナルが究極すぎるやん、と。


なんやろ、「素晴らしすぎる音楽は隠されている」とどこかで思っているところがあったんです。
あれだけ評価され、最新版の「ローリングストーン誌が選ぶ偉大なアルバム1位」となった『ペットサウンズ』を未だに「良さがわからない、過大評価だ」と言う人がいるように、
素晴らしすぎると大衆には伝わらないと思っているところがあったんです。


だから僕の親でも普通に好きなサイモン&ガーファンクルは
良い音楽であれど、至高なものではない、と思ってたんです。

ほんとに、ずいぶん遠まわりをしたんです。


世界初の16トラックレコーディング!?

僕が『ブックエンド』に持っていた1番のイメージは、
「世界で最初に16トラックレコーダーが使用されたアルバム!」
ってことだったんです。

それで
[ブックエンド 16トラック]
で検索かけてみたんだけど、意外と全然情報が出てこなくてびっくり。

考えるとそういえばその話ってmillenniumの『Begin』を語る時にばかり出てくるような気がするんです。
「『ブックエンド』に続いて最先端の16トラックレコーダーが使われてたアルバム『Begin』!」
って。


『Begin』のほうも実際は8トラック×2であるとか色々情報があってよくわからないんだけど、

とにかくコロンビアレコードが当時最先端のレコーディング技術を持ってたことは間違いないのかな?サイモン&ガーファンクルもミレニウムもコロンビアですから。

現在のDAWではトラック数なんて無限に等しいんだけど、この時代のトラック数の増加というのはかなり大きなことで。
60年代なんてほとんど4トラックで、66年ビーチボーイズ『ペットサウンズ』がやっと8トラックだとか。
アメリカとイギリスでもレコーディング技術に差があって、ビートルズは『サージェント』も4トラックで、68年でやっと8トラックを導入したとか。

4トラックだからって、4つの楽器しか録音できないわけでも一発録りしかできないわけでもなくて、まぁバウンスという作業を繰り返すわけです。
僕も最初に買ったMTRが4トラックのカセットテープのものだったので、その作業を延々としていました。

トラック1にギター録って、トラック2にベース録って、それをボリューム合わせてトラック3にバウンスするんです。
するとトラック3はギターとベースがミックスされたトラックになるので、トラック1と2を空きトラックにすることができるんですよね。

これを繰り返すと当たり前だけど音質も低下するしミックスもごちゃごちゃになるわけです。
まぁだからトラック数が多いことの利点というのは音数が増えるというわけではなくて、音質が向上する方がメインなんです。

この68年当時に16トラックを使ってるということは本当にすごいことで、
調べてみると70年代前半に16トラックが主流になって、70年代半ばに24トラックになったとかで。


『ブックエンド』が世界初の16トラックか、という話の真偽は結局よくわからないんだけど、最新のレコーディング技術が使われていることは間違いなくて、テープコラージュだったりエフェクトだったりがてんこ盛りのアルバムにはなっています。

A面2曲目の〝Save the Life of My Child(わが子の命を救いたまえ)〟なんかはそういったレコーディング技術を駆使した重厚なリバーブやサウンドエフェクトに加えてモーグシンセも使っていて、時代の最先端を突っ走ってるんですよね。すると自ずとサイケデリックになってるんです。

サイモン&ガーファンクルにサイケのイメージはないんですけど、最先端にいたら自然とサイケになった、って感じですわな。


アメリカの現実と若き恋と人生と

レコード付属ポスター

『ブックエンド』はA面がメドレー形式のコンセプトアルバムになっていて、その辺もThe、68年でございます。

コンセプトアルバムは実際には66年マザーズオブインヴェンションの『フリークアウト』が最初だと言われていますが、一般的にはビートルズ67年『サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド』で発明されたとされていて。

で、68年はその影響下にあるコンセプトアルバムが大量に作られていて、それらは『サージェント・シンドローム(症候群)』なんて呼ばれたりするわけで、まぁこの『ブックエンド』もその一つに数えられるのでしょうか。

A面だけコンセプティヴで、B面はシングルなんかを詰め込んだ形式なんですけどね。
でも言ってしまえば『サージェント』も最初と最後だけコンセプティヴで、中盤は関係なかったりしますもんね。

むしろこのA面に主題をガツンと持ってきて、B面は小曲を並べるのは結構70年代にプログレ勢がやってたりすることで、これまた新しいスタイルですわね。


そんなA面の【ブックエンドメドレー】は「アメリカの現実」を歌っているとされています。
全7曲で
1.Bookends Theme
2.Save the Life of My Child
3.America
4.Over
5.Voices of Old Peaple
6.Old Friends
7.Bookends Theme(Reprise)
といった感じ。
この(Reprise)はサージェント症候群作品で本当によく見られますよね。

オープニング〝Bookends Theme〟はポールサイモンのアコギインスト。

先述したサイケデリックな2曲目〝Save the Life of My Child〟は少年の自殺ソング。
ビルの上から飛び降りようとする少年を見つけた街の人々がてんやわんやする歌で、最終的には飛び降りてしまう暗い曲。

なんで飛び降りてしまったか、ってのが次の〝America〟に繋がってくるのかな?

このアルバムを代表する1曲でサイモン&ガーファンクルの代表曲の1つでもある〝America〟。
恋人と2人、アメリカを探しに来た男がアメリカを見失ってしまう歌であるが、ベトナム戦争や公民権運動で荒れる68年アメリカ、反戦歌や反体制ソングともとれる歌でもある。

歌詞に登場する恋人キャシーは、ポールサイモンのイギリス武者修行時代に出会った恋人である。イギリス時代の65年にリリースしたソロアルバム『ポールサイモン・ソングブック』のジャケットにも写っている女性。
ポールサイモンは思いがけない〝サウンド・オブ・サイレンス〟のヒットでアメリカに帰国することになり、それで2人は別れてしまう。

〝America〟ではキャシーと2人で「僕たち結婚しよう」とアメリカを探す旅に出るわけなんだけど、最終的にはアメリカを見失い、バッドエンドを迎えている。

キャシーと離れて帰国したアメリカで色んなことを見失ってしまったポールサイモンの吐露、って感じ。一緒にアメリカに帰った場合のif的な感じもあるか。

いやしかし完璧すぎる〝America〟。コード回しも小節感覚も、オルガンアレンジも、すごいわ。Yesのプログレカバーが蛇足すぎると感じてしまうほどに完璧な曲。


続いて「ゲームは終わった」と歌う〝Over〟

別れの歌ですね。聴き方によっては結構キャシーとの別れなんですよねこのブックエンドのコンセプト。

ほぼほぼポールサイモンの弾き語り曲なんですけど、途中で入るアートガーファンクルのコーラスに度肝抜かれるんです。
僕なんかはどうしてもポールサイモンポールサイモンって言ってしまう人間なんですけど、ガーファンクルの天使の如き美声は奇跡ですよやっぱり。

5曲目がいかにも実験的でコンセプティヴな〝Voices of Old Peaple〟

ニューヨークとロサンゼルスの老人ホームで老人達の話し声を録音しコラージュしたもの。
何話してるかはよくわからんけど、意欲的な実験。

このまま老人パートに入って〝Old Friends〟

この曲で初めて【bookends(本立て)】という言葉が登場。
公園のベンチの両サイドに座る老人を、まるで本立てのようだと。
僕もいつかああやって最後の時を待つのか、と人生を憂う様子。

で最後に冒頭のインストに乗せて短い歌を歌う〝Bookends Theme(Reprise)〟

時の流れを感じながら、一枚の写真を手に取り、思い出にふける。
「きみが残したのはこれだけなんだ」と。

結局キャシーなんですよこれ全部。多分。
もう『ポールサイモン・ソングブック』のジャケットの写真しか思い浮かばんかったです。切ない。

ポールとキャシー(Paul Simon Songbook)

少年の自殺から始まり、青年の恋と別れと希望と失望、そして老人と人生の憂い。
アメリカの現実だとか、人の人生とかがこのブックエンドメドレーでは大きなテーマとして歌われるんだけど、キャシーとの別れなんですよ結局は多分。そこから思考を広げてる感じ。
【ブックエンド(本立て)】のように公園のベンチに座る老人を見て、「こうやって僕も人生を終えていくのかな」ってセンチメンタルなことを思うのは、キャシーがいないからなんです結局。しらんけど。

このブックエンド以外でもいくつかキャシーについては歌われてるし、ポールサイモンにとって本当に大事な時間だったんだろう。
ってかキャシーとのSongbookとbookendってかかってない?それは考えすぎ?


フォークロックを詰め込んだB面

B面には既出シングル曲やこのアルバムの前に映画『卒業』のサントラ用に作った〝ミセスロビンソン〟なんかを詰め込んでいる。
これらがサイモン&ガーファンクル流フォークロックで、サイケ味もあったりでこれまた素晴らしい曲々。

すでにシングルとしてリリースしていたB-1〝Fakin' It〟と映画『卒業』のために書いたがボツとなったB-2〝パンキーのジレンマ〟ジョンサイモンがプロデュース。

は?どこがやねん、とキレそうになるんだけど、この時期ポールサイモンはスランプだったらしく、打開を求めてジョンサイモンにプロデュースを依頼したらしい。
ジョンサイモンがプロデュースした66年のThe Cyrkleのデビュー曲〝レッドラバーボール〟はポールサイモンの書き下ろした曲で、そんな繋がりかららしい。
The Cyrkleの独特なアレンジが僕はめちゃくちゃ好きなんだけど、それはジョンサイモンのセンスなんだな、ってことがこの2曲でわかる。ソフトでサイケで、極上のフォークロック。
〝ストロベリーフィールズ〟とか〝アイアムザウォルラス〟とか、その辺のサイケポップな感じもあったり。

B-3〝ミセスロビンソン〟は『卒業』のために書かれた短いものを本アレンジしたもの。

名曲すぎる。
不安を煽るスキャットパートと開放的で爽やかなサビ。
ポールサイモンのギタープレイほんま好きやわ。

B-4.〝冬の散歩道〟は66年のシングル。

これも人気曲ですね。サイモン&ガーファンクルにしてはロックすぎるけど。

ラストは〝At the Zoo〟。これも『卒業』のために書かれたけどボツになり、シングルリリースしていたもの。

どこがスランプやねん。なんぼほど書けんねんいい曲。


以上。


A面の主題メドレーはじっくり楽しめるし、B面のフォークロックソングたちは名曲だらけだし、非の打ち所がないアルバムです。マスターピースってやつ。

他のどんなアルバムよりも68年を体現してると思う。
年別のアルバムランキングみたいなん作りたいですね、これは3位には入るかも。いや、67,68は名盤多すぎてわからんか。


いませんか?サイモン&ガーファンクルをフォークデュオとして見くびってはないにせよ、別のところに仕舞ってしまっている僕のような人。
ロック史のど真ん中に置いといたほうがいいです。

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