(詩)立冬

冷たくけむる空気を
見えない編み棒で編むように
朝っぱらからギターは響く
その振動が減衰する果てに
届くべき鼓膜がないとしても

孤独と退屈とは異なる
教えてくれた人はもう遠く
そんなことを思い出したり
思い出さなかったりしながら
ガットギターはつまびかれる

離れゆく虚無の日々も
無駄ではなかったと信じることが
良いのか悪いのかその戸惑いだけを
淹れたてのコーヒーに溶かした
砂糖とクリームのようにかきまぜる日々

手放したものの数だけ空いた
人生というべきものの隙間に
埋めていくものを探すのに
ギターをかき鳴らすのに
いまは精いっぱいで

大気に吸い込まれる響き
誰のためでもなく
自分のためですらなく
冷えた朝なので
ガットギターは空気を編む


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