(詩)立秋

坂道をくだりながら
くだらない話をふりまわしながら
あなたと季節を無駄遣いした
あの日々のことを思い出します

思えば贅沢な時間でした
時は前だけを見て過ぎ去っていって
わたしたちは目の前を横切る一刻一刻の
後ろ姿から好きなだけ果実をもぎ取って
みずみずしさと甘酸っぱさの飽食を
所与のものとしていたのですから

このようなことを言うのが相応しいかは
わたしにもわかりませんが
いつまでもそうしていられないこと
いつまでも一緒にはいられないこと
それを知ってあなたと別れたことを
もうわたしは後悔していません

あなたの別れ際にくれた笑顔の理由も
あのとき涙してさんざん泣きはらしたあと
堆積した日々をひとつひとつ遡ることで
時間をかけて飲み込むことができました
おかげでわたしはたまの一顧で十分なほど
過去からの潤いに支えられています

あなたの笑顔に追いつけて本当によかった
それはわたしに厳重に託された種子だと
いまは思ってやみません
果実を食べ尽くしたあとに残る種子は
果実あってこそ託せるものだとわかり
いっときの時間の浪費もそのあとの痛みも
すべて必要なものだったのだと
幼い心なりに思うのです

今日 今年初めての蜻蛉を見ました
やがて蜻蛉たちはつがいを見つけて
水面に種子を託すでしょう
短い命を使い果たした道端の蜻蛉を
そのうち数多く見ることになりましょうが
来年も蜻蛉たちの舞がやむことはなく
いつものように高い空を彩るでしょう

尽きぬ涙を注いだ分だけ
土壌が痛みに富んだ分だけ
未知の甘美を醸した実りが
あなたにもわたしにも
満ちることを祈っています
また出会ったときには
ふたりでぱんぱんに張りつめた果実を
頬張って一緒に笑いましょう

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