酷暑の木陰

湿度のかけらもない
無風地帯
未知の形容詞でしか
言い表せないような
やけくそな熱線が
石畳を焼いている

広場の真ん中に
くたびれた大樹
みなそこに
追っ手の大群から身を隠す
ブッチとサンダンスのごとく
熱のこもった体を寄せている

熱気という大海に浮かぶ
難破船の木片のような
狭苦しい木陰のもとで
気候を呪う駄弁りは静寂に
熱気を嘆く沈黙は喧騒に
変換される

気分屋はきょうも
ただただやくざな詩をつづり
心にもない陽光への賛歌の
その裏にひとつまみの死を
混ぜこもうとする
生と死は表裏一体と
口をつぐんでしたり顔

子供は赤い塗りの剥げた木の車を
ぶう、ぶう、ぶう、と
やせ衰え乾いた大樹の根に
何度も叩きつける
繰り返されるクラッシュの音は
不思議と隣にたたずむ
爺さんの鼓動に同期して
しわを帯びた口角を押し上げる

若者二人は
バックパックを担いで行った
南国の日々を懐かしむ
あの日覚えた異国の言葉を
リズミカルに口ずさみ
船で降り立った珊瑚の島を想う
しかしその島もいまや
半分が沈んだという

白いもののだいぶ混じった
長い髪のやせた女は
夏の盛りに去った
若き日の恋人を
脳裏にそっと蘇らせる
突然に別れはきた
日焼けに生気を押しとどめつつ
二度と息つかぬその体に
悲しみをおぼえた独身女は
彼女だけではなかった

あの夏はこんなに
暑くはなかったはず
肩をすくめる男がひとり
ブッチとサンダンスなら
たまらず木陰から
酒場へと躍り出すだろうか
あの日の日焼けをずっと
とどめたままの彼
白髪の女の肩に
そっと手を置いて
木陰から歩み出すと
女の耳許にだけ
ささやかな風がふいた

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