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スウェーデンの国有林経営

何度か紹介した(IKEAの回スウェーデン南部森林組合の回)のように、外部講師による講義が複数回組まれているのが現在受講しているモデュールの特徴の一つ。先日は、スウェーデン国有林運営会社Sveaskogから講師が来て、事業内容等を解説してくれた。

Sveaskog社の概要

本来であれば複数の団体にアポ取りしてインタビュー調査する必要がある情報が、向こうから次々に講義室で、しかも丁寧に説明してくれるというのはとても恵まれている環境なのだと思う。

日本でいえば、林野庁や森林組合、林業家が大学院生の為に順番に講義をしにきてくれるということになる。こういう贅沢なプログラムはなかなか組めないだろう。このSLUでなぜそれが可能かという理由の一つとして、スウェーデンにおいて森林科学の高等教育機関を持つのが当大学だけのため、業界の関係者のほとんどがSLUの卒業生であり、ここの教授の誰かが指導教官であるケースが多いので、その教授が電話一本でそれぞれの組織でそれなりの地位についたかつての指導学生に外部講師を依頼することができる、ということがあるそうだ。

Sveaskog社は前身の組織の設立から100年以上の歴史を持っていて、現在は(2012年時点)、国有林における林業と森林管理サービスの提供を主な事業としている。Sveaskogの特徴として、講義で挙げられたポイントは以下の通り(2012年時点)。

  • スウェーデン最大の森林を所有(3.1百万ha)、国土の14%を占める

  • 株式の100%をスウェーデン政府が所有

  • 年 5.7百万立米の木材を出荷

  • 年 8.5万ha分の森林管理サービスを他の森林所有者に提供

  • すべての所有林がFSC認証を取得済

  • 従業員数726名

  • ほとんどの現場作業は契約事業者(コントラクター)によって行われている

  • 売上高 87億クローネ(2011年)

  • 営業利益11億クローネ(2011年)

  • 利益処分方法 60%が国庫・40%が再投資、が基本コンセプト

  • 現CEOは元首相

  • 株主(国)から提示されている経営目標はROE7%

  • 子会社としてスウェーデン最大の育苗会社を持つ

  • 森林計画の原則は、所有森林の8割を商業用、2割を保全林

  • 競合他社よりも自然保護に注力している(と言っていた)

2012年は赤字に転落する見込みということだが、基本的に赤字に転落したことはないそうだ。講師は「この状況は他の国の国有林管理と比べると大変に異なる状況であることは理解している。スウェーデンにおける国有林は国庫に利益を還元するという意味でも重要な存在である」と強調していたのは大変に印象的だった。かつては数万人の従業員を抱えていたそうだが、現在では上記のように800人に満たない従業員数へとスリム化されている。

国有会社ではあるが、事業運営は限りなく民間企業として行われているようだ。そういったモチベーションがどうして保たれているのか、ということを質問したのだが「私たちの経営実績はスウェーデンの森林経営の中でもモデルとしてとらえられているのよ」というコメントで終わってしまったのが残念。スウェーデン国内には他にもいくつかの競合会社(例えばスウェーデン南部森林組合)があって、実際のところかなり厳しい競争のなかで事業を維持しているといったコメントも印象的。

もっとも、競合しながらも、それぞれが土地条件や需要状況に応じて木材の融通をしあうということも普通に行われているそうだ。このあたり、日本の石油元売り業界の市場構造とよく似ているな、とも感じた。


オリジナル記事公開日:2012年11月1日


追記(2024年5月19日):このように国有林の経営を他の企業にまかせるという事例は、良い面、悪い面、両方が考えられるので、一概にこの方法がベストだとは言えません。スウェーデンの林業関係者は、自らの仕組みが素晴らしい、と積極的にマーケティングしてますが、それのバイアスには注意する必要があると思います。


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